ようこそコルディアボルス団へ
〝コルディアボルス団〟
通称コルディ
本部は王都に存在しており、王都の周りにある三つの国にもコルディアボルス団は支部が存在する。
もちろん、それぞれの国にも小ギルドからその小ギルドを束ねる大きなギルドはある。
しかしコルディアボルス団はその全ギルドの頂点に立ち4つの国の治安を守っているため、人々からは〝守護神〟と呼ばれる事もある。
(…大変な所へ来てしまった気がする。)
先ほどまでいたフィットネス国は、王都の周りに存在する国の一つらしく場所も王都近くのため王都には、あっという間に着いた。
そのあっという間の時間で安喰の所属しているというコルディアボルス団について大雑把に説明を聞いていると、どうやらとてつもなく凄い所らしく、しかも1番偉い団長さんに会うらしい
「はああああああ…お腹痛い」
「なんだ?腹減ったって言ったと思ったら次は痛いのか。忙しいなあ」
「違うわ」
腹痛いって言っても私が言ってるのはそっちじゃない、緊張からくる腹痛だ。
きっと安喰には分からないだろう。じーっと睨みをきかすが、安喰は丁度私達の目の前を通過した蝶を見て呑気に「お、綺麗な蝶だなあ」とヘラヘラしている。
……緊張とは無縁の人なんだろうなぁ。
「安喰って悩んだりとか緊張したりしないでしょ」
「ん?何言ってんだ嬢ちゃん。俺だって緊張もするし悩みだって沢山あるぞ」
「その悩みって今日のご飯どうしようかなー?とかじゃないよね」
「!!なんでそれを…ははーん。さては嬢ちゃん、エスパーだな?」
「ちげーよ。確かにそれも悩むことだけど、ちが…あれ、これも悩みなの?」
「だろ?なんだ嬢ちゃん大丈夫か?」
安喰の顔は本気で心配しているのだが、話の内容的にどうもイラっとする。
「………はぁ、なんか安喰と話してると緊張なんてアホらしく思えてきた」
「ははっ、なんだ緊張ほぐれたってか?」
「まぁ、一応。けどお腹は減ってる」
「俺も腹減ったなあ、後でたんまり食うか。俺肉料理の美味い所知ってんだ。まぁその前に……ほら嬢ちゃん見えてきたぞ。あそこだ」
そう言って安喰が指差した方を見ると
「………木?」
目の前に存在するそれは、想像していた大きな門や歴史を感じる立派な建物では無かった。
そう、普通の何処にでも生えている木。どこか神秘的なオーラが感じられることも無い普通の、木。
「えーっと…これ?」
「おう、ここだ。お、トムさん元気にしてたかー」
そう言って木に近づいた安喰はその木の真横にある小屋から出て来た一匹の犬に挨拶ついでにじゃれ始める。
名前はトムさんらしく、ご丁寧に犬小屋の入り口上に〝トムさん〟と彫られている。
「ほら、嬢ちゃんお前さんもトムさんに挨拶しな。トムさんこいつは紅緒ってんだ覚えてやってくれ。」
「わふん」
「わふ…あ、紅緒です。よろしくお願いしますトム、さん?」
わふんと独特な鳴き声のトムさんは挨拶をした紅緒の足元にくると、紅緒の匂いを嗅ぎ始める。
「何だろうこの気まずさ…私きっと臭いよトムさん」
「何言ってんだ。トムさんは別に体臭を嗅いでる訳じゃないからな」
「え、じゃあ何を嗅いでるの」
「ん?そらぁ嬢ちゃんのその足にある痣の匂いだ」
痣に匂いなんてあるのか?!そう思い嗅いでみようと思ったが可笑しなポーズになり、安喰には「嬢ちゃんパンツ見えてんぞ」とご指摘をもらう始末。
いくら体臭を嗅いでいないと言っても、やはり気になってしまう。
ちゃんとしたお風呂には入っておらず、先ほどは水で汚れを落としただけの応急処置のようなものに過ぎない。
まぁそれもあの魔犬との鬼ごっこで無意味になってしまったのだが
「まぁ、トムさんとの顔合わせはこのくらいにしておいて早速行くか」
「いや、行くって言ってもこれじゃあ…」
「おら、嬢ちゃん片手出しな」
ん。と安喰が出してきた手にお手をするように乗せると安喰はそのまま、繋いでいる手とは反対の手で木の幹に触れる。そして何か小さな声でブツブツと呟くといきなりな木が淡い光を放つ。
「なっ……!!」
驚きを隠せず咄嗟に安喰を見ると、にぃっと笑う安喰と目が、合った。
そして次の瞬間、紅緒の中に何かが流れる感覚がして気づいたら大きなホテルのロビーのような場所に居た。
「おら、どーよ?」
「……」
「すげぇだろ。ここが俺たちコルディアボルス団の本部だ。普通は入れないからなあ、嬢ちゃんよかったな…っておい、大丈夫か?顔あげていいんだぞ?」
「……もち、…い」
「あんだぁ?…ほら人と話す時は目を見るもんだ」
安喰が紅緒の頬を覆うように両手を添え、顔をあげさせようとした瞬間
ばっ‼︎と紅緒が安喰の両手を掴み手の動きを急停止させる。
「えっ…と、嬢ちゃん?何、してんだ?」
これじゃあ頭上がんねぇぞ?そう言って再度紅緒の頭を上げようとググッと力を入れるがその分ググッと下げようと力がかかる。
(…何やってるんだこれ。)
安喰がそう思うのは当然だろう。いい歳をしたおっさんが子供の、しかも微妙なお年頃っぽい少女の頬に両手を当てその両手を掴む女の子…はたから見るとロリコンと間違えられそうだ。
だが今現在このロビーには安喰と紅緒以外に人が居ない。そのため年上の女の方がタイプである安喰にロリコンなどという不愉快な呼び名が付くことは無い。
だからこの状態に何も危機感を持っている訳ではないのだが、何故か自分の本能が目の前の子供から離れろと緊急避難の合図を出している。ここに来るまでの道のりで特に危険視するような人物ではないと分かっているのに、だ。
だから、頭で離れろと言っていても体が紅緒の安否を思い離れようとしない。
「嬢ちゃん?と、とりあえず顔上げよう、な?」
この胸にあるモヤモヤが気になるところだが、先ずは先ほどから全く顔を上げようとしない紅緒のーーー
「おええぇぇえええ」
「ぎゃぁあああぁ?!?!」
吐いた。
先ほどからずっと顔を上げようとしなかった少女は豪快に安喰の手を皿にしてその上にブチまけた。
「さっきの危機感はこれかっ‼︎」
胸のモヤモヤが分かりスッキリする筈が全然スッキリとしない。
紅緒は吐くものを全て吐いたらしく「おえ…ぎもぢわるがった」と言って顔を上げた。
その顔はやはり少し青白く、見ただけで気分が優れないことは分かるが微妙にスッキリとした表情をしている。
「嬢ちゃん!!何してんだ?!は、早く拭く、物を!!!!」
「いやぁ、ほんと気持ち悪かった…この床高そうだし、汚したらダメだと思ったから我慢してたんだけど…丁度安喰が手を出してくれたから有難かったよー」
「んなこたぁどうでもいいから!!早く!!嬢ちゃんどうにかしてくれ!!」
「どうにかしてくれって言われても…出ちゃったものは出ちゃったし、ねぇ?」
「嬢ちゃんんんん!!!」
もう、混沌だ。2人しかこの場には居ないのに収集がつかなくなった。そのぎゃーぎゃー騒いでいる2人の後ろから近づく1つの影。しかし紅緒と安喰はそれに気づかず今だに騒いでいる。
「もうしょうがねぇ、嬢ちゃん!!あそこにある壺持ってこい」
「え?あれいいの?入れちゃって大丈夫?高そうだよ?」
「いや、良かぁねぇな。もし見つかったら…」
「見つかったら?」
自分たち以外の第三者の声が聞こえ2人はピタリと動きを止めた。
紅緒は今まで自分たち以外に居なかったのにいきなり第三者が現れたことによる困惑が思考を埋める
安喰はこの状況、そして今から自分が行おうとしていた行動に対しての言い訳。
「やあ、安喰おかえり。今帰ったのかい?」
「お、おう。今帰った所だ…」
「それはお疲れ様。ところで何だか楽しそうな事してるね?」
「いやぁ…別に楽しく」
「で、それはどうするんだい?」
「………」
黙り込む安喰に見兼ねて、ふぅと息をつく謎の人物。そして何処から出したのか分からないバケツとお手拭き。
それを出された瞬間安喰は「すまねぇ!助かった!!」と言って手のひらに乗っていたゲロをバケツに捨てる。
2人のやりとりを黙って見ていた紅緒は、この場にいきなり現れた人物が誰なのかとても気になっていた。
「ね、ねぇ安喰。この人誰…」
「ん?…あぁ、この人はな」
「やぁ、お嬢さん君が安喰の言っていた紅緒ちゃんだね?」
「お、おぉっふ……そう、です」
安喰の影に隠れるように息を潜めていた紅緒だったが、にゅっと顔を覗き込んできた謎の人物に驚き一歩下がる。
「いやいや、そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。紅緒ちゃん顔色優れないけど大丈夫かい?」
「はぁ、まぁ…さっきよりはだいぶ楽になりました。」
「そら、吐くもの吐いたしなぁ」
「うるさい安喰」
「ははは、よかったよかった元気そうで何より」
「あの…名前…」
「ああ、何で知っているかって?安喰からの連絡で君の事を聞いたんだよ」
いや、それはさっきの話の内容で理解できた事だ。私が聞いている事は貴方は誰なんだということである。
「その顔からして聞いているのはそんなことじゃなく、僕の名前だって感じだねえ」
「まぁ…そうです、ね」
「うん、そうだよねごめんごめん。まぁ薄々気づいてると思うけど僕の名前は宍戸。このコルディアボルス団の団長だよ。」
宍戸はすっと右手を前に出すと若干安喰の影に隠れていた紅緒に握手を求める。
「宜しくね紅緒ちゃん」
「…よろしくお願いします」
誤字•脱字等あったらご連絡お願いします