表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

安喰

お久しぶりです。私生活が忙しく投稿遅れてしまいました。書く意欲はあるのですが時間がないため…。今後も頑張りますので生暖かく見守ってくださるとありがたいです。


「よし、んじゃあ引っ張るからなあ…行くぞ、せーのっ」


穴の外にいる男の合図で勢い良く引っ張られた私は無事に穴から出ることができた。


「あ、ありがとうございます。助けて頂いて…」

「おう、いいって事よ。まぁ、こんな森の中で嬢ちゃんの声が聞こえた時は驚いたけどな」


ガハハと笑う目の前の男は30代くらいで健康的な小麦色の肌をし、がっちりとした筋肉を持っていることが服の上からでも良くわかる。

赤銅色の短髪を右耳辺りは刈り上げて右耳の下から一本の三つ編みが垂れている。服装も動きやすい様な服で、ゆったりとしたズボンを使い古されたレザーブーツにしまっていた。


(こんな人日本にいたらコスプレって思われるでしょ。)


日本では日常生活でこんなサバイバルをしそうな人街中では見ない。見たとしても違和感しかないが目の前の男からは違和感などまったく感じない、寧ろこれがこの男には合っていると初対面ながらも思った。


(……それに)


ちらっと視線を目の前の大口開けて馬鹿笑いしてる男から横に逸らすと私の身長くらいの大きな剣が地面にぶっ刺さっている。

こんな物騒な物を見たら本当に異世界なんだと痛感させられる。


「ん?なんだ嬢ちゃんこいつに興味があんのか?」

「あ、いや別に…」

「こいつはな〝轟〟ってんだ。こいつには昔っからよー……」


ベラベラと自慢げに目の前の男は轟の凄い所を聞いてもいないのに話し始めた。

……これいつまで続くんだろう。

しょうがないから適当に「はいはい、ほんと凄いですね」と相槌を打っているといつの間にか自慢は終わったらしい。


「ーーってことよ。轟の凄さがわかったか?嬢ちゃん」

「あなたがめんどくさい人だってことはわかりました。」

「酷いなっ‼︎」


酷い酷いと連呼する割には顔が笑っている。きっとそこまで酷いと思ってないな…本当にめんどくさいって思ったんだけどな。もう、わんちゃんとの追いかけっこで疲れて喋る元気もない。あのわんちゃんが何処に行ったのか気になったけどこの男が今ここに居るのだからきっと追い払ってくれたのだろう。


「あの、ところで…」

「ん?どうしたよ。」

「いや、わかりますよね」

「?…なにがだ?」

「そろそろ下ろしてもらえませんかね」


そう、今の私は客観的に見ると抱っこされている。さっき穴から出してもらった時に勢い付いたあまり男の腕へお尻がストンと収まったのだ。まぁ、よく外国のテレビとかで見るパパが子供を自分の腕に座らせている様な状態かな。


(あれはちっさい子供だから簡単なだけで、私軽くないしそれに…)


子供じゃないから…と言葉を続けると男は山吹色の目を点にしてポカンと間抜け顔をしていたが次の瞬間、さっきよりも大口を開いて笑い始めた。


「あはははっ‼︎いやぁこいつはすまねぇな‼︎嬢ちゃん軽いからすっかり忘れてた‼︎ははっ…いや、ほんと、っ」


ぶふふっ‼︎と笑う男はヒーヒー言いながら苦しそうに笑い転げた。


「あっ…ぶな‼︎ってほんと失礼だな‼︎」

「…っああ、ごめんごめん。いやぁこいつぁ失礼したなっ…っふ」

「まだ笑ってんじゃねーかよ」


なにが可笑しいんだそんなにも笑えるところがあっただろうか。私からしたらこの目の前の失礼な男の方が笑えるぞ。


「そうだよなぁ嬢ちゃんも女の子だもんなぁ、子供扱いしたつもりじゃ無かったんだけどなぁ…うん、そうかそうかぁ‼︎」

「?」


1人で何を勝手に納得しているのだろうか、目の前で頷いている男を見上げるとぱっと目があった。


「あ、そうだ嬢ちゃん。お前さん何でこんな所に居んだ?誰か連れが居るのか?」


キョロキョロと男は辺りを見渡すが私以外に誰も居ないと分かったのか目線をこちらに戻す。切り替え早すぎてちょっとびっくりしたよ私


「…いや、犬に追っかけられてたら穴に落ちた」

「犬?……あぁ、魔犬のことか。嬢ちゃん運が良かったな、俺が居なかったら喰われてたぞ」


なんてこった。

やっぱりあのままだと私は喰われていたらしい。ほんとよかった…!


「それにしても、見ねえ服装してんな。どこから来たんだ?」


「どこって、にほ…」


日本と言おうとして言葉が止まった。

目の前のこの男に安易に日本から来ました☆なんて言ってもいいのだろうかという疑問が頭の中を過った。

ファンダジーな小説とかで良くある話は勇者説とかだけど、私が知っているものでもう一つのパターンがある。それが、あれだ…不審者扱いされて即お縄パターン。

無理無理無理無理、私これでお縄になったら生きて出られる自信ないからね。だって無理じゃん。この男が言ってたんだからきっと私の格好はこの世界じゃ不自然に違いない。それにこの世界のことなに一つ知らないし、身分証明するものも何一つないただのガキがこんな森の中に、しかも穴にはまって魔犬と戯れてたなんて普通じゃあり得ないだろう。


「に、…にほ…」

「にほ?」

「にほ……あ、2歩歩いたところから来た」

「2歩歩いたところ?!」


なんだそれ?!と男は驚いたが、また男の分からない笑いのツボに入ったのだろう口元がヒクヒクしている。

うん、今のは私も流石に無理があるかなって思ったけどね。あんなの小学生でももっとマシな嘘つけるわ。けど咄嗟に出たのだからしょうがない…


「っふ…嬢ちゃん、ほん、とおもっぶふ…しろいな」


ぶふぶふ言って笑いを堪えながら喋り続けてるけど、ほんとなに言ってるのかわからない。

今更ながらだけど、こいつやばいんじゃない?めっちゃ失礼だし、ずっとにやにや笑ってるし…あ、うん。こいつ危ない


すっと冷めた目で見て距離を静かに置くと私の視線と動きに気づいた男がギョッとした。


「うおっそんな冷めた目久しぶりに見たな…って待て待て待て嬢ちゃん少しずつ距離を開けるな」


危険人物だってわかったのにわざわざ近づく馬鹿がどこにいるのだ。世の中みんな自分第一だよ、自分の身が可愛いんだから遠慮なんてしてられぬわ。

無理無理という意思を見せるために自分の目の前で腕をクロスさせてバリアーを張る。こんなことしても無意味ってわかってるけどほら、気持ちって大切だからさ


「バ、バリアー…」

「嬢ちゃん…なに、してんだ?」

「………」

「……まぁ誰にでもあるやつだ。気にすんな。」

「……おう」


もう恥ずかしくて死ねる。なんだこれ自分でやって自爆か。年中馬鹿笑いしてそうなこの男に真顔で同情されたらもう泣きたくなった。


「まぁ、そんな事は気にすんな。そうだ…嬢ちゃんは今迷子なのか?」

「?…まぁそんな感じかな(魅碌とはぐれちゃったし)」

「そうかそうかーなら……よし、嬢ちゃん俺とこい‼︎」

「え、やだ」

「即答?!」

「だって、変で怪しいおじさんには着いて行くなって教えられたし」

「いや、俺は別に怪しくないだろ。」


あ、変だってことは否定しないのか。あとおじさんも

そう言うと男はあーもーめんどくせぇ‼︎‼︎とガシガシと髪をボサボサにして叫んだ。


「とりあえず嬢ちゃんこいっ‼︎」

「うっ、わぁぁあ‼︎‼︎」


男が叫んで大股でこっちに近づいてきたと思ったら次の瞬間には私の視界は男ではなく地面でいっぱいだった。それに加えて腹部への軽い圧迫感と高いのか高くないのかわからない高さにいる恐怖。


「お、お、おろせー‼︎」

「うおっ、ちょ、嬢ちゃん暴れるな暴れるな‼︎落とすぞ」

「脅しか‼︎そんなものに私は負けなっ…ちょ、ちょ高い高い高いまじで落とさないで‼︎私高所恐怖症なんだから‼︎」

「ん?なんだなんだ嬢ちゃん高い所駄目なのか。ふーん…そうかそうかー」

「に、にやにやしながら話すな‼︎揺らすな‼︎こ、根性悪いなこの誘拐犯‼︎」

「あぁ?!なに人を人攫いと一緒にしてんだ。そんな奴らと一緒にするな‼︎」

「私からしたらなんも変わんないわ‼︎お前誰だよ‼︎」

「あぁ?!…お、そっか名前言ってなかったな。俺は安喰(アグイ)ってんだ、よろしくな嬢ちゃん」

「よろしくしたくねーよ‼︎」


なんなんだよこいつ‼︎もう嫌だよ‼︎これ会話のキャッチボール出来てないじゃん‼︎誰か助けてよ‼︎

もう本当に訳が分からなくなって涙目になってきた気がする。

男は左肩に私、右肩から左下にかけて轟といっていた大剣を背負ってザクザクと道無き道を進んでいた。

これでは捕獲された獲物ではないか、これぞまさに弱肉強食の世界というものなのか。


(もう…どうなるんだ私は。このまま死ぬのか、死ぬのか紅緒。)


昨日の今日で色々ありすぎてキャパオーバーだ。もうこの状況に逆らう気力すらもないくらいに。


「……はぁ、お腹減った」

「ぶはっ!なんだ嬢ちゃん腹減ってんのか。しゃーねー、後でたんまり食わせてやるからな」

「肉食わせろ」

「おーおー育ち盛りな嬢ちゃんだ……ん?これは」


話の最中に何か見つけたのか、いきなり安喰が言葉と共にピタリと足を止めた。


「え、なに…何かあったの?」

「……。」


いきなり黙られてしまうと何事かと心配になるのはしょうがない。私からは安喰の顔が見えないため安喰が今何処を見てどんな表情をしているかなんて分からない。


「なぁ、嬢ちゃん。……お前さんこれどうした」

「へ?……?!」


その瞬間いきなり左足の靴下を勢い良く脱がされた。


「っ‼︎…やめ、‼︎」

「うおっ‼︎こら暴れるな嬢ちゃん‼︎落ち着け‼︎」


落ち着いていられるか‼︎いきなり自分の衣服を脱がされたのだ、靴下だけど、衣服に違いはない。というかこれが普通の反応だろう。


「お、ちょ、嬢ちゃんだから落ち着けって‼︎別に何もしねぇ…っぶ‼︎」


見事に私の膝が安喰の画面にクリティカルヒット。膝よ良くやった‼︎

安喰の力が緩んだところで上手く拘束?から逃れて綺麗に地面へ着地する。


「ぐぬぉおお…ってぇえ‼︎」

「ふっ、ざまぁないな。良からぬことをしようとしたのが悪いんだ。」

「はぁ?ってて、嬢ちゃん勘違いしてねぇか?俺はその足にある痣が何であるのか聞きたいだけだ」

「痣?」


この間店長に私の足は、運動もしないで必要最低限しか外にでないから細くて白いのよ運動しなさい‼︎って怒られた。その時なんかイラっとしたから顔面殴ったのは記憶に新しい。だが特に痣があった覚えはない。疑問に思い安喰の指した足の部分を見ると左太ももの膝より少し上のところに不思議な模様のような痣があった。


「なに、これ。私こんなところにこんなの無かったし…え、てかなにこの模様……花?」

「嬢ちゃんは知らねぇってことか…まさかあの反応は嬢ちゃんの事だったのか?」


安喰はブツブツと独り言をいうと真剣な顔で再度私に向かい合ってきた。


「嬢ちゃん、俺と一緒に来てもらう事に変わりはないんだがある人に会ってもらわなきゃいけなくなった。なに怖くないから安心していい…いいか?」

「え…あ、うん。わかった」


余りにも真剣な顔と声で私は気づいたら素直に返事をしていた。先程まであんなにふざけてた人が急に真面目になると凄く焦る。


「でも今から何処に行くの…」

「ん?あ、悪りぃ悪りぃそういえば場所も言ってなかったな。」


安喰はしゃがみこんで私と同じくらいの目線になる。


「俺はコルディアボルス団団員の安喰だ。嬢ちゃんにはこれから俺と王都にある本部に来てもらう。そこで団長と会ってもらいたいんだ。まぁそんなに緊張しなくても大丈夫だ別に取って食おうとは思ってないからな。よろしくな嬢ちゃん」


ニカッっと笑う安喰はそのまま右手を前に出して握手を求めてきた。その右手に戸惑いを見せたがここで断ってもきっとさっきみたいに無理やり連れて行かれそうな気しかしなかった。そっと私の右手も前に出して安喰の右手をとる。


「私は紅緒。…よろしく安喰」


つられて笑うと安喰は一瞬ぽかんとしたがまた笑顔に戻りよろしくな紅緒‼︎と続けた。






この時私はこの状況にいっぱいいっぱいで忘れていた……魅碌の存在を。


誤字脱字がありましたら報告の方よろしくお願いします。

ご感想なども下さるとありがたいです^^

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ