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本気の鬼ごっこ



穏やかな川の流れ

もくもくと立ち昇る白い湯気

適度な水温

…これぞまさに


「ビバ温泉‼︎」


あのあと魅碌を戻してからそのまま突き進んで行くと、そこには大きな川が流れていた。

一見普通の川に見えるが近づいてみると川からは湯気が出ている。温水の特徴だ


「うわぁ、あったかい!やばいなこれ。しかもなんだ、すっごい綺麗。これもう世界遺産並みだよ。」


周りを見渡すと伸び伸びと生えている草木に蔦が絡まったり、木々の隙間から漏れる光が水面を川に輝かせて、まるで神聖な場所のようだった。


(…ここHPとか回復しそうだなあ、ぷぷ)



あまりにも美しい情景にたっぷり感激し上機嫌になる。今まで1度もこんな綺麗なところ見たこと無いからね!

感動に浸りつつも、さてさてと温水に入るために服を脱ぎ始める。


(どうせ人なんて居ないし抜いじゃっても問題無いよね。服は…洗えないし、取り敢えず埃落としとこう。)


人前で脱ぐとなると恥ずかしいけど、1人なら全然余裕。こんな開放的な場所だけど森の中だ、人なんて居ないし問題は無い。

服を綺麗に畳むとそっと足の先から慎重に温水に入る。


「あいてて…あーーぎもぢいいー…」


穏やかな川の流れだからゆっくりと中央に進んでいき全身を水につけた。

気持ちがいいけど時々ぴりっと痛みが身体中に走る。うわ、身体中のあちこちに小さな傷がある…いつの間にか太ももやら袋脛やらを怪我していたのだろう。…地味に痛い。





数十分もの間、泳いだり潜ったりして温水の中で泳ぐ魚を捕まえようとしたりして楽しんだが …もう充分だし、流石に疲れた。

さて、でるかーとまた少し泳いで(泳げてるかわからないけど…)温水を堪能した後は陸に出てマフラーで身体を拭く。汚いかもしれないけど、拭くものがこれしかないんだからしょうがない。びちゃびちゃな身体で服を着る方が嫌だもん。


「うむ、いい湯だった。さて、これ洗ったら戻る…ん?」


ばしゃばしゃとマフラーを洗っていると向こう岸からじっとこちらを見つめる一匹の犬がいた。


「犬?…なんでこんなところに?」


野良犬かな?あ、でも山にいるから山犬とかって言うのかな?まぁ、でも犬に変わりはない。

おいでおいでーと呼んでみると野良犬は立ち上がる。やっぱダメかあ、警戒するよなーと思っているとざばんっと水に入り込む音が聞こえた。


「え?」


向こう岸にいた犬が犬掻きをしながらこっちに向かって近づいてくる。え、嘘。こっち来てるじゃん。驚きはしたけど別に怖くはない。寧ろカモン‼︎


両手を広げて待ち構えていると、ふと疑問に思った。……あれ、なんかあのわんちゃん色変じゃね?遠くから見て灰色かと思ったけど、なんか紫のような深緑のような気持ち悪い色してる…よね。それになんか目が血走ってるし、口から涎やら血やらが出てる。え、ちょっと待って何あれ。


(……逃げなきゃ)


犬を見て初めてこんなこと思った。

だけど私と第六感が目の前のあれから逃げろって言ってる。

ここは自分の本能に従うしかない‼︎

ばっと振り返り走り出す、すると後ろにいた犬らしきものはガアァア!と吠えた。

そうしてその声を合図に私と可愛くない犬とのリアル鬼ごっこが始まったのだ。






(…とはいえ、この状況どうするか。)


まぁ、結果的には逃げ切った私の勝ちだろう。だけど…どうしようか。

今の私はハマってる。あの犬との鬼ごっこで最後にこの木の根に引っかかり穴に落ちたことで、逃げ切ったとも言えるのだがピッタリとハマってる。

…身体がってことじゃないよ⁈私の右足首が穴の中に広がる木の根の隙間にちょうどはまってしまったため、1人じゃ出るに出れなくなってしまった。


どうしようか…近くに人なんて居ないだろうし大きな声を出しても魅碌に聞こえる距離ではない、困ったぞこれ。


「…おーい、誰かー。あのーいませんかー?だーれかー…」


反応なし。

うん、やっぱりいないよなあ…。ここで無駄に声を張り上げても体力の無駄になる。なら今はこの足を外すことに集中した方がいいのかもしれない。…でも、このまま誰も助けに来なくて、私はここで餓死してしまうかもしれない。え、そしたらやばいじゃん‼︎そんな辛い死に方嫌だよ‼︎私おばあちゃんになるまで生きて最期は子供たちや孫に囲まれて眠るように死ぬのが夢なんだ‼︎


「のおおぉお…へ、へーるぷみー。へるぷみー‼︎」


ぬぐうううぅう…と足に力を入れて引っ張るけど、びくともしない。こいつ性格悪いな‼︎ちくしょう根性曲がってんだろ!だからこんなに根っこが…あでででで‼︎足が!足が変な角度で挟まった‼︎


悪態をついたのが分かったのか木の呪いにかかった。ちくしょう‼︎と思いながらも、もう悪口を言うのはやめる。これ以上はたぶん自分の命に関わる気がするからね!


そうこうしているうちに穴の外からガサッガサッと音が聞こえた。


(‼︎…た、助けが来た‼︎)


「ちょ、そこにいるあなた‼︎助けてくれませんかー‼︎私ここにいます‼︎あーあのー木と木の間の穴にいるんで助けて下さい‼︎」


すると足音は段々とこちらに近づいてきた。……よかった‼︎これでしないないですむ!

ほくほくとしながら助けを待つ。


ーーーグォガルルル


……うん。何も聞かなかったし、聞こえなかった。何も…


ーーーグワァルル


穴の中は光が丁度当たっていたが、すっと、影ができた。恐る恐る、いや本当は出来れば見たくないけど確認のために顔を上げてみる。


三角の大きなみる耳の影、ハァハァと興奮しきった様子の息遣い。普通は後ろから光が入っているため影になって見えにくいはずなのによく見える血走った目と禍々しい色の毛の色。



「さ、さっきぶりだね?えっ…と、わんちゃん?」

「グワァァアァア‼︎‼︎」


やっぱりさっき追いかけっこしてた犬ですね‼︎やばいよこれ‼︎絶体絶命ってやつっすか!うわっ‼︎こんなところで経験したくなかった‼︎


(ひいいぃぃ‼︎これじゃあ本当に死ぬ‼︎)


ガチガチと歯を鳴らして私に噛み付こうとするお犬様。か。掠った‼︎今鼻の先が掠った!……あ、くっさ‼︎こ、こいつ息くせぇ‼︎‼︎


ぎゃあぎゃあ叫んでいたが、ここまでくると本当にやばい。

そう思った瞬間、ついに我慢を切らせたお犬様はガウゥ‼︎‼︎と勢いをつけて私に噛み付こうとしてきた。


(っ……やばい‼︎)


食われる‼︎そう思い咄嗟に身を出来るだけ縮こませて身構えたが、いつまで経っても痛みは感じない。


(……あ、あれ?)


そっと目を開けてみると穴の入り口を塞いでいたあの禍々しい色をしたお犬様の姿がなくなっていた。


「な、なんーーー」

「よぅ、嬢ちゃん。大丈夫か?」


なんで、と言おうとした瞬間男の声が私の言葉をさえぎり、穴の入り口からにゅっと人影が現れこちらを見下ろして笑っているようだった。






「……………えっと、どちら様で?」




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