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変態?鬼?…いいえ犬です。




「落ち着い、た?」


恐る恐るといったような口振りで魅碌は尋ねてきた。私が現状を受け入れるまでの数十分間、ずっと木の根本で体育座りをしている私の少し離れたところで同じく体育座りをして待っていたのだ。


「あ、あぁ、うん。まぁ何とか」

「そっ、か。よかった。」



フィリアザードが上空を去ってから暫くは私はパニックになっていた。何せいきなり異世界に来ちゃったお!☆ぺろっ

状態なのである。受け入れろっていう方が無理だ。よく漫画とかで見る、勇者として~…だとか世界を救う巫女として~…だとか。そんな雰囲気も一切無く、私を出迎えたのは無数の木だぞ。頭がついていけるわけがない。



「いや、でもここでもしも『勇者様!世界をお救い下さい。魔王を倒すのです。』って言われても引くけどね。女子高生にそんなことを頼むなって話だわ」

「じょ、しこーせ?」

「あぁごめん。こっちの話だから気にしなくていいよ」



魅碌は聞き覚えが無い単語に反応するが、説明をするのも面倒だからできるだけスルーしてほしい。あ、最初いきなり頬を舐められて変態だと思ってたけど、魅碌を見ているとそんなことを思うのがあほらしく思えてきた。

だって魅碌をさっきから見ていると段々と犬のように思えてきたのだ。考えすぎて頭がショートしてしまい生理的に涙がでてしまった時なんておろおろし始めて、涙を舐めようと舌を出したときは顎を思いっきり持ち上げて自分で自分の舌を噛ませてやった。

やめろ言えば止めるのだが…そう、すっごく寂しそうな顔をするのだ。まるで叱られた犬のようにしょぼーんとして…



(…何か、なつかれてる気がする)



特に何かした覚えもない。あ、やったといえばやったか頭突きにアッパー…うん、嫌われるようなことをしかしてないぞ。(いや、あれは正当防衛だと思うけど…)

それなのに魅碌は私が泣き出したらおろおろして何を思ったのかいきなり森の中へ入ってしまい、戻ってきたと思ったら手には沢山の木の実を持ってきて「これ、食べて…、泣か、ないで」といって慰めてくれたのだ。

持ってきた事とその量に驚いたけど、ありがとうと言えばにこっと笑って…。

きっと尻尾が生えていたら千切れんばかりの勢いで振っているんだろうな。


「やっぱ犬っぽい」

「…お、俺、犬じゃない、よ」

「あ、いや例えだから例え」


別に本当に犬だと思っている訳ではない。見た目からして普通に人間だしね!

当たり前だ、と言えばさっきからきょどきょどしていた目が真剣な眼差しに変わった。



「お、俺、犬じゃ、ないけど……っ」

「……ん?」

「あ、えっと…お、俺……鬼だ、よ」

「……へ?」



最後がぼそぼそっと小さくなって聞き取りにくかったけど…"おに"って聞こえたような。



…おに

…オニ

…ONI

………鬼



「おにってあの、…鬼?」

「君、の、言ってる鬼、知らな、い」



え、あれだよね?鬼って言ったら桃から生まれた太郎くんに退治されてしまった、虎柄パンツを履いている人だよね?…あとは節分とか?

昔絵本でみた鬼はパンツ一丁で金棒を振り回して、鋭い歯を持ってた気がする。

頭の中で自分のイメージしている鬼を思い浮かべながら、ちらりと魅碌を見る。

………これが鬼ですか?

いやいやいや、どっからどう見ても私のイメージしている鬼と結び付かない。どちらかと言えばバトル系ゲームに出てくる命を助けちゃうような神官にしか見えない。

それに鬼の特徴とも言えるツノが無いし虎柄パンツ履いてないじゃないか!


もしかしたら髪の毛で隠れて見えないだけかもしれないと思って「失礼します」と声をかけて魅碌の髪の毛に手をのせる。


わしゃわしゃわしゃ

「んー……」

「う、…わっ」


わしゃわしゃわしゃ

「んー…無いねぇ。」

「…、ん」


わしゃわしゃわしゃ

「普通なんだよなぁ」

「……ふふ」



笑い声が聞こえて不審に思いぴたっと手を止めて魅碌を見るとクスクスと少し笑っている。

ん?なんで笑ってんだ?何か可笑しいことがあったか?


「な、何か面白かった?」

「ふふ、…違う、よ。君の手が、気持ちよく、て」


くすぐったいと言わんばかりの顔で、少し照れているように笑う魅碌。


ちょ、ちょぉおお!!!!

この破壊力のある照れ笑いはだめだろ!!!


最初は変態と思い印象は0…いや、マイナスだったが、私が泣いている間ずっと近すぎず離れすぎずの距離で黙って私が泣き止むのを待っていてくれたり、気を使ってか木の実を持ってきてくれたり、最後の最後にはこの笑み!お陰さまで私は固まってしまった。



はっきり言って、いきなり異世界に飛ばされて訳も分からなくなっていた私だ。いつ何が起きて死んでしまうかなんてわからない。もし、この森の中で魅碌じゃなくて山賊とかに会っていたらどうなっていたのか…想像もしたくない。

ここはゲームの世界じゃないんだ、セーブなんてできないから後戻りはできない。死んだらそこで終了。


魅碌はこんなちんちくりんな、初めて出会った私に優しくしてくれて…魅碌に出会ってよかったのかもしれない。



それに、…それに。

いや、これは関係ないかもしれないけど魅碌と話して段々と分かったこと、


…魅碌がわんこ属性だった。




実は私、動物大好きなんです。

いや、もう、ね。動物ほど可愛いものはないでしょう!

人間だと素直な気持ちを出せるって人は少ないと思う。まぁ、全員が全員って訳じゃないと思うけど、あくまで私が生きてきた中で思ったこと。

でも動物達はなんなのだ!嬉しいときは尻尾をぱたぱたと振って全身から喜びをアピール!!

ツーンとして素っ気なくしてても尻尾を見ればまるわかり!喜びが抑えきれていないじゃないか!!!!



小さい頃から大好きな動物達、ゲームとか、漫画とかも人並みに好きだけども一番好きなのは近所の柴犬のデロちゃんと遊ぶことだった。特に好きなのは犬。

魅碌は犬じゃないけど、行動やらなんやらを見るともうどうしても犬にしか見えない。鬼?…んなもん気にしない、だって可愛いんだもん。舐められたことを気にしないのか?…ないない、もう気にしない。だってデロちゃんに舐められたほうがやばかったもん。デロちゃん外で飼われてるんだけど、いつも飼い主のおじちゃんの靴かじってるんだよね…

いや!別にそれが問題あるってことじゃないんだよ?!だけど、ね。私のことを舐める直前まで靴かじってたんだぜ?私が声をかけた瞬間かじるの止めてこっちくるの。すっごく可愛いんだけどやっぱり複雑だった。



「…ん、君なん、か。懐かし、い匂いが…、する。」


すりっとわたしの手に頭をぐりぐりさせて呟いた魅碌の言葉にはっ!っと意識が戻ってきた。


「!!…あ、ああ、そう?」

「…………なま、ぇ……ぇて」

「え?ご、ごめんもう一回言って」

「……な、名前教え、て」


いきなりなんなのだ、と思ったけど…言われてみれば名前、教えてない。そうだった、最初に私が魅碌の名前を聞いただけで私からは名乗って無かった。



「あ、私は東雲紅緒って言います」

「…しのの、め、べに、お」

「あーえーっと、紅緒ね」

「紅、緒…」

「うんそう。紅緒」

「……紅緒」



魅碌もたぶん名前だけしか言ってないから、私を呼ぶのも名前でいいだろうと判断した。紅緒、と名前を教えれば魅碌は「紅緒、紅緒、紅緒、紅緒……」と名前を連呼していた。ちょっと怖いから止めてほしい。


「ね、ぇ紅緒……」

「ん?なに?どしたの」



改めて呼ばれた名前に返事をすると魅碌はへらっと笑った。か、かわいい


「紅緒、これか、ら…俺と、一緒にい、て?」


必殺、笑顔+首かしげ。

紅緒は3000のダメージを受けた。

紅緒は鼻血がでた!大量出血になった!

…反則だろこれは。


「………こちら、こそ」

「やっ、た…」



魅碌のお願いの仕方がが可愛すぎてお願いを聞いてしまったが…

まぁ、魅碌がいないと私たぶん生きていける気がしないから別にいいんだけどね。





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