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森の中のイケメン(変態)




落ち着け。

落ち着くんだ私。



「すぅ………はぁ」





………うん、やっぱおかしい。

おかしいでしょこれ。さっきまでの記憶を何回も思いだして見ても結果は同じ。私が最後に見た景色は星空だった。

なのに…え、これは…なんだ?



「うおおおおー…、ここ何処だあぁ…」


右を見ると木。左を見ても木。

前を見ても……木。

四方八方、木、木、木。

私は木に囲まれているらしい。

いや、もうこれは見れば分かるか。

確かに上を見上げれば星空だよ。だけど明らかに周りの景色が違いすぎる。


とりあえずもう一度深呼吸してみる…うん、意外と落ち着いてる。逆に落ち着きすぎて自分が怖い。

こんな時に限って何故か昔、近所のおばちゃんに「紅緒ちゃんは図太いのねぇ~」って笑いながら言われたのを思い出してしまった。

確かに今の状況で落ち着いてるってことは図太いのかもしれない。けども今思えばそれを当時、5歳の私に言ったおばちゃんはどうなのだろうか…



じっと目の前の暗闇を凝視することが嫌になってゆっくりと視線を上に向けると、丁度木々の間から、まんまるお月様が私の真上で呑気に微笑んでいらっしゃる。普段は美しいと思わせて下さるお月様が今はとても憎い。



一体、この見慣れない森は何処なのだろうか。こんな所、都会育ちの私は来たことがないし近所にもこんな森があるなんて聞いたことがない。


「えええ、もうほんとここどこ。神社は?神社なくね?私頭打って死んだんじゃなかったの?あ、そうか。ここは天国か、天国なのか。」


おお、それなら納得だ。そうだよここは天国なんだよ。地獄?いや、私には全く関係ない場所だねそりゃ。だって、私めっちゃいいことしてきたもん。今朝だって落ちてた十円見つけて交番に届けたし、毎朝バスに乗ってるばあちゃんの話相手になってるもん。まぁ、話の内容は聞いてないけど、おばあちゃんからしたら私は話を聞いてたように見えてたはずだからね!


(それにしても……)


きょろきょろと周りを見渡してもさっきから変化はなく風に揺れて草木がざわめくだけ。


「なんか不気味だなあ。ああもう、なんでこんなことに…訳わかんないどうしよう。鞄も見つかんないし…」


今私が持っているのは首に巻いていたマフラーだけ。私の通っている高校はセーラー服に赤のリボンがついていて可愛いと評判がいい制服だ。校則はそこまで厳しくないから冬になるとパーカーを羽織ったりカーディガンを着たりと生徒たちは自由にしていいことになっている、そのため私もカーディガンを着ているのだが…


(……寒い)



あまりにも寒いとブレザーの制服が羨ましく感じる。この場所の気温は10℃もないんじゃないだろうか。



「ここでじっとしてても仕方がないのかな…。もしかしたらここは林の中かもしれないし。うん、そうだよ。きっとそうだ、ここは森じゃないね階段から転げ落ちていつの間にかここにいたのかもしれないし」


ぶつぶつと独り言のように話す私を誰かが見てたらきっと変な人に思うと思う。けど誰一人、人のいる気配がしないしそんなこと気にする余裕が私にはない。暗闇の中を歩き回るのは良くないって教えられたけどそんなこと言ってる場合でもない。よしっと気合いをいれて立ち上がった瞬間音が聞こえた。


ガサッ―――


「…え、今なんか音が」


――――ガサガサッ!!


「ひぃ?!やっぱり!な、なんかいるよこれ!!どどどどうしよう!!!」



ひゃあぁあああぁあ!!とパニックになっている私を気にしないで"何か"が、ガサガサと音をたてながら段々と近づいてくる。その場で動けなくなった私は息を浅くして音が近づいてくる方向を瞬きをせず、ずっと凝視する。

しかし、音を意識した途端"何か"が近づいてくる気配がなくなった。



「あ、…あれ?何も…ない?よ、よかった…なんかもう寿命縮ん」

「………おい。」



声 が 聞 こ え た。



私じゃない、男性の声が、聞こえた。

声は若くて大きくもないのに耳に残るような声。そんな声が、今、私の真後ろから聞こえてきた。…動けない。

ちょっとまってちょっとまってちょっとまってちょっとまって!!!!私の後ろにいるのは…人?!人だよね?!でもさっきまで後ろには何もなかったはず…


「………」

「………」

「…あ、あの、誰かい、います…よね。」

「………」

「すいません、こ、声出してもらえませんか。ちょっとまじで怖いんです。後ろ向けないんですって。それかもうお願いだから私に構わず帰って下さい」


こんなにも切実な頼みは久しぶりにしたかもしれない。けれども本当にこっちは心臓が口から出そうな勢いなんだ。


「…こんなところで何、してる。」

「!!」



しゃ、喋った!!話しかけてきたよこの人!あ、いや、でもなんか何かしてくる感じじゃなさそうだから…たぶん大丈夫。

緊張と恐怖で固まっていた体が少し解れてそぉっ、と顔を動かして私の後ろにいる男性を確認すると、まぁびっくり。


月と星がだす自然の光でも輝きを見せるほど綺麗な銀色の髪。髪と同色の睫毛は羨ましいくらい長い。

眠たげな瞳は見惚れる翡翠で顔も日本人のような感じなのに、何故か日本人とは思えないくらい美しい。私がしゃがみこんでいるからだろうか、身長は大きく感じる。それにしても…なんで着物?コスプレ?


目の前の男性の服装は赤墨と浅葱色の長着二枚に白の羽織。ぱっと見、しなやかそうな男性の体つきには不思議なことにとても似合っている。



「イケメンってやつか」

「い、けめん?…なに、それ。」



イケメンという言葉に聞き覚えが無いのか目の前のイケメンさんは訳がわからないといった顔をした。おお、そんな顔も様になっているとな。しかしイケメンと言われたことがないのか…この人の周りの人の美的感覚が計り知れない。



突然イケメンさんはひょいっと自身の長身を小さくさせて目の前にしゃがみこみ、私の顔を覗いてきた。うわぁ、ちょ、近い近い近いイケメンさん近い!



「ここ、怪我してる。」

「え?」



イケメンさんが自分の頬を触っているがイケメンさんの顔に傷は一つもない、同じように自分の頬を触ってみるとピリッと痛みが走った。


「いっ…た。うっわ、血流れてるし…」

「痛い、のか」



手についた血を見たイケメンさんは微妙に眉を垂らしていた。たぶん心配してくれているのかな…


「大丈夫ですよ。このくらい唾つけとけば治りますって」


まぁ、ほんとに唾をつけるなんてことは衛生面的によろしくないからしないけど。手に持っていたマフラーでごしごし擦って、ほらっとイケメンさんに見せればじぃっと見てきた。あれ、まだ、ついてるのか?



少し痛かったけどごしごしとマフラーで拭いていると、いきなり手を押さえられ、頬に生暖かい感覚がした。


「………え」


呆然としているとイケメンさんは舌をペロッと出して満足そうに微笑んだ。



「治った。」



……治った。じゃねーよ。え、何してくれちゃってんの?え、乙女の頬にこのイケメンさんは何してくれてんの。確かにね、唾つければ治るとは言ったけど。このイケメン舐めやがったよ。ベロンって犬のようにベロンって舐めやがった。とりあえず…


「イケメンだからって何してもいいと思うな、よっ!!!!!!」

「?!~っ、」


ガツンッといい音がした。

私もおでこも痛いけど向こうも同じくらい痛い思いをしたと考えれば満足だ。


「いっ…たかったぁ。…ったく、いきなり舐めやがってなんなんだ。イケメンさんよぉ、ちょっと名前と住所教えな」


絡んでる風になるのは仕方がない。だってこう見えても結構ムカついているのだ、知らない人にいきなり頬をベロンと舐められるんだよ?そりゃ、イケメンだよ。でもイケメンだからって、許されないこともあるでしょ。日本の常識だとこんなの有り得ん!いや、世界のどこにも知らない人の頬をいきなり舐めるなんて常識ないだろうな。


「…った。俺の、名前?…俺の名前は、"魅碌"。じゅーしょ、なに?」


みろく?枝で地面に書いてもらったけど…難しいなこれ。それに住所を知らないの?魅碌の(もう、さん付けしなくていいや)顔を見るとどうやら本当に知らないらしい。嘘でしょ。



「え、住所知らないの…知らないわけなないよね?ほら、あの住んでる場所の事だよ。え、分かるよね?」

「!…あぁ、場所の名前、わかる。ここはフィットネス国。」

「………」

「どうした?」

「フィットネス…国?」


日本、じゃないの?え、フィットネス国って言ったよね今。これはあれか魅碌の頭の中の空想の世界ってことか。あーリアル厨二病ってやつか、すごい初めて見たよ。通りでコスプレをしているわけだ、納得納得。


「信じて、ない。ここはフィットネス国…君、違う匂いが、する。」

「ははは、また冗談を言って。現実を見なさいって。なにちょっと警察いくだけだからさ」


魅碌は真剣な眼差しをしてから、ほら上見てよ。というと、真上に目を向けた。つられて上を見ると



―――ギャァァァァアオ!!!!!!!



ゴオオォ…と凄まじい音を立てて突風と共にとてつもなくデカイ物体が上空を通過した。

髪の毛が風でボサボサになったけど、そんなの気にしている場合じゃない。

気のせいかもしれないけど、よくファンタジーな映画に出てくるようなドラゴンと呼ばれる空想上の生物が目の前を通過したような気がする。


「………へ?」

「ね、信じた。」

「あ、あれ…ほんも、の?」

「フィリアザード、っていう」


嘘だあ、と思いながら自分の頬をつねってみる…。


「……いひゃい」

「なに、してるの」



痛かった。つねった頬が痛かった…ここは日本じゃないってこと、だよね?だって日本じゃあんなのありえないし、なによりさっきから頬がじんじんしてる。


「ここ、どこよお…」

「?…フィットネス国。」



そんなこと聞いてるんじゃ…あぁ、いや、うん私がどこって言ったんだもんね。真上を見ると魅碌が言っていたフィリアザードが叫びながら空をぐるぐる飛び回っている。私もあんな風に叫びたいよ。

なんで高校卒業を目前に異世界に来てしまった。…誰か助けて







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