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Limite  作者: 菊月 巡流
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刹那と仕事

刹那が帰宅してくると燈真は焔との事を話した。

刹那は、よかったな、と一言言うと燈真の頭を撫でた。その行動に燈真は驚いたものの軽く顔を赤くしながら微笑を浮かべた。刹那の悪魔、記乃(きの)も見えるようになり、軽く挨拶をかわした。


午後3時半、刹那と燈真は挨拶のため学園へ向かった。今から行く麗光(れいこう)学園は、家から徒歩で約20分とわりと近いところにある。

昨日電話をしていた相手は、その麗光学園の学園長を務めている司波晴樹(しばはるき)だった。彼は刹那たちの秘密を知っている数少ない人間の1人だ。

学園に着くと運動部の姿や帰宅しようとしている生徒が目についた。ふとその生徒たちの視線がこちらに集まっていることに燈真は気付く。

私服だから見られているのか、とも一瞬考えたが、視線はこちらというより刹那に向いているのに気づいた。不審に思っていると視線を送っていた女生徒が友達とヒソヒソと会話をしているのが聞こえてきた。

「ねえ、あれってSetsuだよね!?」

「だよね...。何でここにいるんだろ。」

「ああ〜、やっぱかっこいい!!生で見れるなんて…私もう死んでもいい!!」

ほかの生徒たちもヒソヒソと何かを話している。

だが、その張本人はそれを全く気にせずに歩を進める。燈真はさすがに黙ってられないと疑いの目を向けて刹那に話しかける。

「刹那、一体何したの?」

刹那は振り向きもせずに

「まあ、気にすんな。」

と、一言言って口を閉じた。


学園内に入っても向けられる視線は変わらなかった。それと同じく刹那の態度も。

学園長室に着くと軽くノックをして中に入る。

中には、50代後半ぐらいのスーツを着た、穏やかな表情の男性が立っていた。燈真から見れば...。刹那から見るとその穏やかな笑みは何か企んでいるようにしか見えなかった。嫌な予感がする、と内心思いながらも刹那は口を開いた。

「いつもあいつらがお世話になっています。こいつが新入りの皇燈真です。」

そう言われ、燈真は緊張しながらも一歩前に出る。

「初めまして。これからお世話になります。」

「そう緊張しなくてもいいよ。敬語もなしでいいしね。」

そう、燈真に笑いかける。

「...んじゃ遠慮なく。サンキューおっさん。」

刹那はその態度に呆れながらも何も言わず、挨拶を終わらせて帰ろうと会話を再開する。

「それでは、来週から転入ということでよろしいでしょうか。」

「いいよ。1年生だったよね。紫苑君と一緒の方がいいかな?」

「その辺はお任せします。では、おれたちはそろそろ「まだ話は終わってないよ。」

その言葉に刹那は退出しようとしていた足をピタリと止める。その声にさっき感じた嫌な予感を思い出したが、表情を変えずに司波晴樹に向き直る。

「刹那君に頼みたいことがあってね。」

ああ、やっぱり...と思いながら、やはり無表情で聞き返す。

「...頼みとは?」

「うちの養護教諭がね、今月の中旬から産休を取るんだよ。だけど、まだ代わりの人が見つからなくてね。」

にやり、と笑いながら言葉を続ける。

「たしか今年免許を取得したんだよね?頼めないかな?」

嫌な予感が的中した。確かに刹那は今年の3月まで大学に通い免許を取得していた。しかし、実際に務めることはなかったのだ。数年前までの仕事の都合で...。だが、この男に頼まれれば無下には出来ないのだ。

「...どうしても、というならお受けしましょう。」

司波は満面の笑みを浮かべる。

「いやーよかったよかった。これで安心出来るよ。養護教諭の先生には私から話をしておくからね。よろしく頼むよ。」

「ええ、わかりました。」

その後少し会話をし、学園を後にした。


その日の夜、リビングでの話題は当然のように学園に訪れたことだった。

「なんであんな時間に来るのよ。」

紫苑は苛立ちを隠すことなく向かい側に座る刹那を睨む。

「しょうがねえだろ。司波さんに言われたらあまり反論出来ない事知ってるだろ。」

その言葉に同意はするものの紫苑は不満顔を崩さない。

「もうあんな時間に来ないでよ!!」

刹那は言いにくそうにしていたが司波に頼まれたことを話した。養護教諭のことを聞くと紫苑だけでなく黒陽と煌までもが驚いた顔をした。そして、次の瞬間には紫苑と煌のはあ!!!???という叫び声が響きわたった。何考えてんのよ!?という言葉に刹那はまたも同じように言い返せば、反論出来るはずもなく、紫苑は唸ることしかできなかった。

紫苑は落ち着くと刹那に話しかけた。

「祈はどうすんのよ。みんな学園に通ってるのに1人だけかわいそうじゃない。」

刹那は驚いたが、隣に座っていた祈はさらに驚いたようだった。

「祈、学園に通いたいか?」

刹那は窺うように祈に話しかけるが、呆然としていて反応しなかった。紫苑が祈の肩を叩くと我に返り、オロオロとしだした。

「落ち着きなさい。通いたいか、通いたくないか言えばいいのよ。」

紫苑の言葉を聞くと、祈は頭の中でぐるぐると考えだした。祈にとって学校とは憧れの対象ではあるものの、沢山の人に囲まれるということもあって、恐怖の対象でもあるのだ。祈が苦悩していると、

「人見知りの直さなきゃいけないんだから。」

と、紫苑が後押しする。それに反応するかのように祈は立ち上がり刹那に行く!!と答えたのだった。

祈が決意したことでその日のうちに刹那は司波に電話をかけた。司波に話をつけると祈も燈真と共に来週から通うことになった。もちろん、祈が混乱しないように紫苑と同じクラスにしてもらう事も頼んで...。


学園の話が済むと、燈真は今日の視線で気になっていた刹那の事について聞いた。

「ああ、そのことね...。」「驚いただろ。」

紫苑は呆れたように、煌は笑いを含んだ声で話す。

刹那は関係ないと言わんばかりに手元の本に視線を落とす。

「刹那はね、去年まで仕事でモデルと歌手をやっていたのよ。Setsuとしてね。」

燈真は口をポカンと開けて微動だにしない。

「すっごくすっごくかっこよかったんだよ!!」

燈真のその様子に構わず祈が珍しく興奮した様子で喋り出す。他のみんなは祈の様子に苦笑しながらも話を続ける。

「その影響でどこに行っても刹那には視線が集まるってわけ。本人は変装しようともしないしな。」

煌は呆れた視線を刹那に向けるが刹那はもろともせず無視を決め込む。燈真はやっと我に返り、疑問を口にする。

「...なんでやめたの?」

「売れすぎたのよ。」

またも燈真は口をポカンと開ける。

「刹那はモデルとしても、歌手としても有り得ないぐらいの大成功を果たしたのよ。で、流石に周りの態度がうざかったみたいでお金も溜まったしでめんどくさいからって辞めてきたのよ。活動したのは1年ぐらいだったけど活動し始めて1ヶ月で売れまくって、8ヶ月で芸能界を牛耳ったわ。芸能界で刹那はもはや伝説よ。」

牛耳った、と言う言葉に流石に刹那は会話の途中で反論を示したが、紫苑は気にせずに話し続けた。紫苑のその態度に諦めたのか、刹那はもう口を出すことをしなかった。燈真はそれを聞いてすげえーと呟き、興奮しだした。刹那に目を向けると、

「じゃあさ、月宮あかねとか会ったことある!?」

「あかね?好きなのか?」

「最近ファンになったんだよ!!で?会ったことあんの?」

なおも興奮した目で視線を向けていたので、刹那は鬱陶しいと感じたのか、ある、と一言言って自身の部屋に向かった。

燈真はしばらくブーイングしていたが諦めてテレビに目を向けた。紫苑は明日のことを予想して溜め息をついた。

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