不条理な世の中
世の中は不条理でいっぱいですよね。
「うめぇ!」
8時過ぎ。ようやく俺は夕飯にありついた。
俺とアリスは40分くらい前に帰宅したばかりだ。
目の前に並ぶのは、オムライスやサラダなど一般的な家庭料理である。
俺の褒め言葉を素直に受け取ったアリスは一礼する。
「では、私もいただきます」
テーブルの向かいに座るアリスも、スプーンでオムライスをすくって口に運ぶ。
「あ、そうだ。マヨネーズってあるか?」
「ありますけど……サラダに掛けるんですか?」
思い出したように訊くと、アリスは冷蔵庫からマヨネーズを持って来てくれた。
俺はそれを受け取り、ジッポの如く親指でキャップを開け、背面投げの如くマヨネーズをひっくり返し、最後にバズーカの如く勢いよく中身を出す!
目標はサラダではない。ケチャップの掛かったオムライスだ!
俺のオムライスは黄色と赤、そして白が追加され、色鮮やかになった。
しかしアリスは微妙な顔をしていた。むしろそれは無いという顔。
「な、なんだよ。美味いんだぞ!」
ケチャップとマヨネーズを混ぜるソースだってあるじゃないか。
俺はなにもおかしくない。
アリスは、必死に抗議する俺を見てクスリと笑った。
「相変わらずですね」
俺はこの言葉に少し違和感を覚えた。まるで昔から俺のことを知っているかのようなそんな感じ。
でもそれは無いだろう。さすがの俺でも、こんなに可愛いメイドを忘れるわけがない。
俺たちは食事中、他愛のない会話をし、時期食べ終えた。
「食器は私が片付けます」
アリスはそう言って、俺とアリスが使っていた食器を重ねて台所へと持っていく。
「ゲームしてくるわ」
俺はイスから立ち上がり、リビングの扉に手を掛けたあと、アリスに言わなければならないことを思い出した。
「あー、そういえば」
布巾を持ったアリスが台所から出て来て返事をする。
「明日学校行かないから」
「えっ」
よほど驚いたのか、俺の発言でアリスは布巾を落とした。
「だってほら、特別任務とやらも達成出来たろ?」
たしか俺が学校に行くことだ。毎日登校という任務ではなかったはず。
「なぜなんですか……?」
今にも泣きそうな声で問いただすアリス。
俺は思わず、冗談っぽく理由を述べる。
「ほ、ほら、やらなきゃいけないゲームあるからさっ!」
今日はパソコンをいじっていないため、ゲームを出来ていない。
「何が……何が貴方をそこまで変えてしまったんですか……!」
「は、はぁ? な、何言ってんだよ」
いきなりの大声に、思わずうろたえてしまった。
それにしても、何だこの物言い。さっきから俺を知ってるような。
アリスは瞳に雫を溜めながら、優しい口調で話す。
「私の知っている貴方は明るくて、優しくて、負けず嫌いで……そして人気者でした。なのに、何が貴方を変えてしまったのですか……?」
「…………」
俺はすぐには言葉が出なかった。
俺の中で少しずつ込み上げてくるモノがあったからだ。
それは怒りだ。
2人の沈黙が支配していた場を、俺は怒りの声で破る。
「……俺の……俺の何を知ってるって言うんだよ……」
うつむく俺からはアリスの表情は見えない。おそらく驚愕な表情を浮かべていることだろう。
「明るくて優しくて負けず嫌いで人気者? へっ、バカも休み休み言いやがれ……。そんなのが俺なわけないだろ」
そうだ。そんな人物は俺ではない。
「言い訳ばかり述べ、引きこもって現実逃避してるただの落ちこぼれ……。それが俺だ」
現実なんてクソゲーだ。
何も面白味なんてない。
「で、何が俺を変えたかって? そんなの世の中の不条理さに決まってんだろ」
俺はこの言葉にいろいろ思うことがあった。だけどそれは思い出したくない。
「あ、あのーー」
「出てけよ……」
俺はアリスの言葉を遮るかのように、言ってはならない言葉を放ってしまった。
「え……」
「え、じゃねぇよ……出てけっつってんだろ!」
うつむく顔を上げると、そこには涙で顔を濡らしたアリスが呆然と立ち尽くしていた。
やってしまった、俺は第一にそう思った。
その顔に耐えられず、いつもの部屋へと駆け込んでしまった。
暗く寒い部屋。俺は一枚の扉を背にズルズルと座り込んだ。
「最低だ……」
昨日からずっと俺のことを一番に考えて動いてくれていた。何も出来ない俺を助けてくれた。
洗濯物、食器洗い、掃除、ゴミ出し、料理……すべて一人でしてくれていた。
なのに俺は恩を仇で返した。
アリスはどうしているだろうか。謝るべきだろうか。
そう思うも、邪魔なプライドでそれはすぐに消え去ってしまう。
俺は恩すら恩で返せないクズだ。こんな奴が学校に行って何になるのか。
それはただのイジメの対象にしかならない。今日の昼のように。
スリープ状態のパソコンは小さな機械音を漏らしながら、クーラーの音と心地の悪いハーモニーを奏でる。
そんな中、俺は精神の疲れにより深い眠りへと吸い込まれていった。
少し最終回の前のような話になってしまいました……
篤也……なんて最低なんだ!
私のアリスたんを散々傷つけやがりまして!
明日の朝、アリスはどうなっているのでしょうか?
それは次回のお楽しみっ