僕は友達がいない
2年C組の教室前。
俺の胸はバクバクだった。もちろん期待などで高鳴っているのではない。
ただ不安でいっぱいになっているだけだ。
C組と思われる生徒が俺など気にせず、次々と教室内へと入って行く。知っている顔もあったが、知らない顔がほとんどだ。クラス替えしたんだ。当たり前のことだろう。
たしか俺の席番は39。窓際の席の後ろから2番目。席替えしていないのなら俺はその席だ。
汗ばんだ手を教室の後ろの扉に掛ける。
なるべくばれないように、ゆっくりとスライド式の扉を開け、ごく普通に教室に入る。
教室はワイワイと賑わっていた。友達同士で集まって話しているのだろう。
友達のいない俺にはそんなこと出来ないが。
本当はギロリと睨まれ、いろいろ叩かれると思ったが、警戒していた俺がバカみたいだ。
ふぅ、と肺に溜まっていた空気を吐き出す。そしてそのまま窓際の俺の席であろう場所へむかい、椅子に貼り付けてあるネームシールを確認する。
“米川 篤也”
よし、俺の席だな。
もし違ったらどうやって探したんだろうか。そう考えただけでもあまりの恐ろしさに身震いしてしまう。
もうすぐチャイムがなるだろう。特にすることもないので、スマホで掲示板を確認して時間を過ごした。
時期にホームルームのチャイムが鳴った。
しばらくしてから担任と思われる教師が入ってきた。
同時に騒がしかった生徒は静まり、学級委員の起立の合図で生徒は立ち上がる。
「礼、着席」
その合図で生徒はみな同じ動きをする。
「おはようございます。では出席確認をします」
メガネを掛け、いかにも賢そうな女の先生が出席簿を手に取り、一人づつ名前を読み上げていく。
呼ばれた生徒は、はいと返事をする。
ただ、これだけのことなのになぜか緊張していた。
そして俺の番。
「米川篤也」
「は、はい」
俺が返事をすると、周りの生徒がちらほらとこちらを見ていた。
だろうな……いきなり不登校の生徒が登校してきたんだ。無理もない。
特に先生は不思議がった様子もなく、淡々と言葉を投げかけてくる。
「2年生初めての登校ですね? 私は西野 麻紀と言います。2年C組の副担任をやっています」
西野先生は普通のあいさつを済ますと、次の話題へと移った。
なんだかあっけねぇーな……てか、副担任なのか。担任誰だよ。
そうボヤいていると、教室の扉が開いた。
そして一人の女の子が顔を覗かす。
ぶはーーっ⁉
なんでアリスがいんの⁉
あの髪にあの身長はアリスの他ない。しかもなぜかこの高校の制服を着ている。
「今日から編入してきた東雲アリスさんです。本来は高校1年生なのですが、飛び級しました」
飛び級なんてあるのかこの学校。てか本来は高校1年生ということは、まだ15歳か16歳ってことだよな……人は見かけじゃねぇな……うん。
「東雲アリスです! よ、よろしくお願いしますっ」
アリスは可愛らしく一礼する。
頭を上げると、なぜか俺の方に視線を向けてきた。
ま、まさか俺が主人だ、みたいなこと言うんじゃないだろうな⁉
俺は必死にジェスチャーでその先は言うなと伝える。
感付いたのか、アリスは俺に向かってウィンクをして見せた。
ふぅ……これでなんとかーー
「今は米川篤也様のメイドをさせていただいています。どうかご主人様とも仲良くしてください」
ーーまったく伝わってねぇじゃねえかああああああ!!!!
一人俺は、頭を抱えながら悶える。
みんなの視線がこっちに集まっていると思うと、このまま伏せているしかない。
アリスの突拍子発言が終えると、西野先生は咳払いを入れた後、アリスの席の場所を告げる。
「編入してきたので席番は40になります。なので米川篤也さんの後ろの席に座ってください」
「はいっ」
見ていない俺でもわかるぞ。ルンルンとスキップしながらこちらに向かって来てるはずだ。
後ろの席からイスの引く音が聞こえる。
そして背中を突かれ、アリスのささやき声が聞こえた。
「やりましたねご主人様! 近くの席ですよ!」
何もよくねぇよ……さっきの自己紹介の反省してくれって……
久々の登校早々、崖っぷちに立たされたのであった。