学校へ行こう!
東雲アリスというメイドがやって来た次の日の月曜。
ニートである俺は、なぜか学校の制服を着ていた。しかし今は夏だ。だから上はカッターシャツ一枚だけ着ている。
俺にはコスプレの趣味などないので、もちろん正規の制服である。
「なぁ……明日から本気出すからさ、今日はやめないか?」
何度かは着ていた、着なれない制服に手を掛けながらそう提案する。
「それはご主人様の要望でも受理出来ません。私に課された任務ですから」
アリスはそうメイドらしく言う。
このままいつもの部屋にこもってもいいのだが、昨日のアリスの涙もろさを考えると、その考えは吹き飛んでしまう。
「ささっ、早く行かないと遅刻してしまいますよ?」
「お、おう……」
久々に着る制服に久々に持つカバン。どことなく入学式を思い出す。
「よし……行くか」
リビングから玄関へ向かい、扉に手を掛ける。
その手は緊張のせいなのか少し震えていた。
「どうしました? ……手が震えてますよ?」
それに気付いたアリスは心配してくれているようだ。
そりゃ震えるに決まっている。
約半年ぶりに学校に行くんだからな。周りから白い目で見られるのはわかっている。それをわかってて学校に行くのはただの自虐行為としか言えない。
扉に掛けた手は動かない。まるで石になったかのように。
「大丈夫……ですか?」
「怖いんだ……みんなに陰口叩かれると思うだけで震えが止まらない……」
死地に赴く侍ってわけでもないのに、情けねえよ……
扉に掛けていた手をアリスに握られた。
その手は柔らかくて、どこか懐かしい感じだった。
「私がお護りいたします。だって、ご主人様のメイドなんですからっ」
その一生懸命な様に自身に満ちた言葉。それは偽りではないとすぐにわかった。
俺より小さい女の子に何言わせてんだ。
彼女にこう言わせたんだ。行かないわけにはいかない。
俺は気持ちを切り替えて扉を開ける。
太陽の光は容赦無く俺を照らす。久々に思いっきり浴びる光に思わず目を眇めてしまう。
しかし、昨日まであんなに鬱陶しかった光も今はどんと来いと思っている自分がいた。
「さっ、学校へ行きましょう!」
走り出すアリス。手を引かれる俺。
これで本当に……
「って待て待て! 家の鍵閉めてねぇし、方向も逆だ!」
……大丈夫なのだろうか?