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12 白石和也の場合(前)

 12






 眠れば醒めるような優しい悪夢ではないのだから。


 生き残るための努力を惜しむわけにはいかない。


 ――それが、ちっぽけな僕たちの小さな戦い。



 ● ● ●



「………………」


 廃墟マンションの一棟。その屋上。


 白石(しらいし)和也(かずや)は適当な場所に座り込んで、ぼんやりと過ごしていた。


 さっきまで割と近くでドカドカドンドンと明らかな爆発音が多発しており、ピカピカと雷みたく目を焼く光が乱れ咲き、挙句の果てには遠くで(ソラ)を塞ぐ蓋まで届く巨大な火柱が四つに割れたりもしていたが、それも今はもう静寂に還っている。


 単純に考えれば、それだけでもこれまでの常識を揺さぶる出来事なのだが、もう十分過ぎるほどに色々と狂わされているために、むしろ和也はそれらを平静に受け止めていた。



『お客さんが来たみたいだから、ちょっと挨拶をしてくるよ』



 この『遊戯(ゲーム)』と呼ばれる怖ろしい催し(・・・・・・)に訳もわからぬままに巻き込まれ、困惑のままに最初の修羅場で生命の危機に陥った瞬間に乱入してきた救援者(クラスメート)――斉藤悠が、坂道を降りて行ったのは一時間ほど前だ。


 軍服っぽい姿にも違和感を抱かせない飄々とした彼が、どのような『挨拶』をしたのかは深く考えない方がよさそうだが、とにもかくにもそれは済んだようだ。


 どちらがとは判然としないが、無事にとは到底思えないが。


 そろそろ状況が動き出しそうな空気だった。


「どうやら、向こうも落ち着いたようだね」


 聞こえてきた声に、和也は視線を移動させる。


 現在、ここには四人いる。


 その内の一人――自己紹介の場で少し考えるような間を置いてから、『ノアール』と名乗った青年と目が合った。


 黒髪、中肉中背、見た目は二つ上ぐらいだが、実際には二十歳を過ぎていると主張しているやや童顔の青年。


 左側の前髪は目元を隠すように伸ばされており、その下はさらに眼帯で覆われている。ラフな長袖長ズボンに、腰には長剣を下げていた。


 ある種の物語を主張している長剣だが、派手な装飾が施されているわけでもなく、安価な大量生産品のような無骨さを漂わせている。長く連れ添っているのか、不思議と違和感のようなものはなかった。


 あくまでも、彼と長剣のセットに違和感がないだけで、常識という観点に照らし合わせると不自然極まりないのだが。


「人数が三人ぐらい増えて、こっちに戻ってきてるみたいだ」


 ノアールは落ち着いた物腰で言う。


 和也が巻き込まれている状況に同じように居合わせていながらもまるで動じた様子はなく、こちらに変な不安を与えないように穏やかな態度を崩さずに接してくれている。


 一点、いや二点ほど、やや自然とはいえない付属物があるのが和也的には難点だが、それはさておき先ほどまでのド派手騒ぎを傍観していたようだ。


 和也の視力では見えないし、見ようとも思わないものを、どのような手段で見ていたのかは定かではないが。


「結局そうなるんなら、余計な途中経過を挟まない方が話は早いだろうに、彼は相変わらず面倒な選択肢を喜んで選ぶフシがあるな」


 口を挟んだのは、壁に背を預けてくつろいでいるもう一人の青年。


 こちらは見た目どおりに二十歳過ぎの青年らしい風貌をしている。


 モデル体型で着ている服も洒落ている。ノアールに比べれば、遥かに違和感の乏しい人物なのだが、何故か見落としてはいけない何かを見落としているかのような焦燥で胸がザワザワする――というのが初対面からの印象だ。


 四番目の男――『クワトロ』と名乗り、何故かノアールに顔を顰められていた。


 どちらも、悠の軽い懐かしさを覚える知り合いという話だ。


 今朝方になにもなかった虚空(ソラ)から不意に堕ちてきた謎の人たち。


 この『遊戯(ゲーム)』の参加者(プレイヤー)ではなく、文字通りの意味で迷子のような立場なのだと自己申告をしているのだが、それでいながらこの殺伐とした状況にあっさりと適応している様子なのは、やはり『只者ではない系』の人たちだからなのだろう。


「そーゆータイプの人みたいですからね」


 思わずといった風に、和也は苦笑を浮かべる。


 今の学園に進学してからのまだ一月(ひとつき)程度の付き合いではあるのだが、その期間に接した時間の密度が妙に濃いので、不思議とその人柄に馴染んでしまっている。


 人的にはまだ実害を被っていないトラブル発生させて攪乱して暴発させた挙げ句に無理矢理に解決する迷惑体質に対する受け取り方は人それぞれだが、なんだかんだで人の輪に溶け込んでいるのは、彼の特技や特徴みたいなものだろう。


 クラスメート以上友達未満という距離感なのだが、それがとても落ち着く。


 ――とはいえ、そんな彼が普通に危機的状況下にあった和也たち・・を助けに現れたのは、解けない疑問の一つだ。


 明らかにそのために現れた風でもあったのだが、聞いてもはぐらかされる。


 言いたいけど、言えないみたいに。


 彼を強制の鎖で縛れる『誰か』がいるようなのだが、その人物には戦慄を禁じえない。


「………う、ぅん………」


 そんな会話が眠りをわずかに妨げたのか、和也の膝を枕代わりにした人物の規則正しい寝息に乱れが生じた。目が覚めるほどではなかったようだが、毛布にくるまれた身体がモゾモゾと動いている。


 最後の一人である天宮(あまみや)壱世(いよ)だ。


 和也の最古の幼なじみ。同い年。切る気なんか微塵もない(えん)は、彼女の生まれた日から続いている。


 学園の制服姿なのは、和也と変わらない。


 同じようにこの『遊戯(ゲーム)』に巻き込まれており、和也が最初に巡り逢った相手でもある。


 正確には、すぐ近くに配置されていた彼女を早期に発見したのだが、こんなコトにまで『幼なじみ属性』を発揮しては欲しくなかったというのが本音だ。


 一緒に巻き込まれてしまうぐらいなら、壱世は蚊帳の外でよかったのに。


 この状況を仕組んだ相手に対して、その点だけはキツめに文句を言ってやりたい。


 精神的な疲労で深く眠り込んでいる幼なじみの髪を撫でてやりながら、頭上の圧迫感を無駄に押し付けてくる鉄の蓋を和也は見上げる。


「………………。」


 何処とも知れない場所。


 明白な悪意で襲い掛かってきた『何者か』。


 最短でもあと二日は生命を繋がなければならない『死の遊戯(デス・ゲーム)』。


 考えることは多く、和也に対処できることはほぼ皆無。


「やれやれ……」


 最近、すっかり口癖になってしまった呟きが漏れてしまう。


 人前では口にしないように気をつけてはいるのだが、油断をするとふとした拍子に勝手に呟いてしまっているのが小さな悩みだ。


 だけど、この状況では漏れるのがむしろ自然だと思う。


「なんでこんなことになってるのかなぁ……?」


 当然の疑問だろう。


 あるいは〝理由がない〟のが理由なのかもしれない。


 敢えて言うまでもないのだが、和也にとって今に至るまでの全ては青天の霹靂以外のなんでもなかった。


 わけのわからない殺伐感満載の『遊戯(ゲーム)』に巻き込まれ、生命の危機に晒される可能性なんて 想像すらしていなかった。


 今年の黄金週間(ゴールデンウイーク)は高校進学という環境変化により、新たに増えたり帰ってきたりで、構築し直された人間関係をより確かにするために使うつもりだったし、友人たちとの遊びの計画も積極的に組み立てていた。ノリノリで。


 基本的に付き合いのいい友人たちである。


 全ては順調に推移していたのだが、肝心の――というのは些か自意識過剰だろうか?――自分たちが行方不明となってしまったことで、水疱のように脆く消えてしまった。それが残念でならない。


 この期に及んでそんな日常に想いを馳せていられるのは、図太いのか、単に現実から逃げているのか、判断が難しい。


 けれど、そんなことさえも思い描けないほどに思い詰めてもいいことはないというのが、和也の考えだ。


「………………。」


 悠が戻ってくるまで、まだ時間はありそうだ。


 ノアールやクアトロもこちらを休ませてくれるつもりのようで、積極的に話しかけてきたりはしない。だからといって今から眠る時間はないし、軽い仮眠なら済ませている。疲労した心身に足りているかどうかは別問題だが。


 なら――この『遊戯(ゲーム)』が開始されてからの一日とそれ以前を振り返り、自分の置かれている状況の把握に努めるのは無駄ではない………はずだ。


 正直に打ち明けると、目まぐるしく推移する状況に翻弄されて、未だに頭の中が混乱から抜け切れていないのが実情でもある。


 あぁ、ようやく冷静になってきた――よーな気がする。


 他人が認める『天才』の友人などには、銀縁眼鏡をくいっと指で押し上げながら「それは逃避だ」と真面目に指摘されそうだが。


 ともあれ。


 ここに至るまでの追憶をするために、和也はひととき目を閉じた。


「まずは前日となる五月二日の行動だけど、特筆するべき点はない。前振りもなかった」


 その日は何の変哲もなく始まるありふれた一日だった。覚えている限りでは。


 いつも通りの日常。いつも通りの学園風景。


 行き付けの喫茶店で安穏と過ごした放課後。


 そして、夕食の食材調達を母親に頼まれていた壱世の買い物に付き合ったところまでは覚えているのだが、そこで不自然に記憶が途切れており――



 次に目を覚ませば、何処とも知れぬ見覚えのない天井。



 客も、店員も、他に誰一人として存在しないファミレスの床の上に転がされていた。


 この時点で『五月三日』の午前零時付近――『遊戯(ゲーム)』開始直後、あるいは直前ぐらいである。


 参加者(プレイヤー)に配布される『PDA』のメール着信音がきっかけで、意識が浮上したのでその辺りは間違いないと思われる。


 そのメールの内容も『遊戯(ゲーム)』の開始を告げるものだった。


 不自然な状況に戸惑いながらも、最初に手元にあった『PDA』で情報収集を行えたのは、友人たちに仕込まれた日頃の『訓練』の賜物だろうか。



 ――まずは如何なる状況においても冷静さを維持すること。



 友人たちが口を酸っぱくして説いたのは、その一点だった。


『不可思議な出来事に巻き込まれたならば、まずは最初に心を冷静沈着に保ったまま正確な状況を見極めるのが大事であり、それが難しければ即座に回れ右のち脱兎の如く走り出せ』


 そんなことを友人に真剣に教えられる自分の人生に疑問を覚えてしまいそうになる。


 その教えをしかと実践しているのを思えば、決して無駄ではないけれども。


 あるいは、彼らはこうした事態(・・・・・・)をも想定していたのかも知れない。


「どれだけ心配性なんだかね」


 大事にされている。


 大事にしたいと想ってくれている。


 程度の差はあれども、友だちであれば誰しもが抱く想いだろう。


 けれど、そこまでしてもらえるだけの『価値』が自分にはあるのだろうか。


 和也には彼らに返せるものがあんまり思いつかない。


 彼らはとても優れた人たちだから。


 彼らが喜んでくれる何かをしたいとは、いつも想っているけれど。


「………………。」


 嬉しさと申し訳なさの同居した曖昧に揺れる感情。


 今はそれに深く拘泥することなく、今に至るまでの短い追憶を続ける。


「ホントに非常識な内容だったよねぇ……」


 何故か店としての機能は維持されていた店内でドリンクバーなどを口にしながら、十数分程度の時間を消費して、和也は『PDA』から得られた情報を消化した。


 安易に信じるには内容があまりに荒唐無稽だったので、三回ほど見返したが内容に変化はなかった。


 曰く――


 自分は『獲物(プレイヤー)』である。


 配布された『PDA』を所持したまま七十二時間――つまり、三日を生きていれば、ゲームクリアで報酬が与えられる。


狩人(ハンター)』に生命を狙われている。


 逃亡・反撃は自由選択であり、仮に返り討ちにしたとしても罪に問われることはない。その逆もまた然り。また、それは『獲物(プレイヤー)』同士であっても同様であり、協力・敵対・不干渉も自由選択である。


 武器や食料、その他必要な小道具は各所から入手可能であり、その情報は『PDA』の地図(マツプ)情報を参照されたし。


 遊戯場からの脱走――指定範囲内からの離脱など、ゲームを放棄する行動には『死罰(デス・ペナルテイ)』が与えられる。またクリア条件を達成不可能な状況に陥った場合も速やかなる『退場』を強制される。それらは首に巻かれた『首輪』の爆破、あるいは『腕輪』からの猛毒注入という形で遂行される。


 ――ちなみに和也と壱世は首輪だった。ただただ窮屈だった。



 なんてゲーム的な(・・・・・・・・)設定なんだ(・・・・・)――というのが率直な感想だった。



 要するに、その時の和也はまだ現実を、現実として受け止めてはいなかった。


 受け止められなかった。


 事前知識もなく不当に巻き込まれておきながら、こんな頭の狂ったゲーム設定を現実と受け入れられるような者は稀だろう。この段階で意気揚々と行動開始するような『一般人』がいたら、その誰かは常日頃から頭の中がお花畑で埋め尽くされているか、大事な螺子が外れているかのどちらかだ。常識的に考えて。


「……んぅ、なんだろう? 特定の個人を口撃しているような気分になった」


 そう遠くない将来に顔を合わせる誰かに、今の内心を率直に告げると痛い思いをする羽目になりそうな気がひしひしとする。


 そんな不確かな予感はさておき。


 悪戯けが過ぎているからこそ、仕掛けた側が本気なのだと簡単には理解できない。


 理解できるような(・・・・・・・・)人間にはなりたくない(・・・・・・・・・・)


 しばらくの間は往生際悪く『PDA』を凝視していたが、和也は気分を変える意味も含めてファミレスを出た。


 その時点でこの『遊戯場』が、極めて何処にでもありそうな街の一角を模して造られた空間なのだと知った。


 窓の外から見える光景と、実際に外に出てから体感した情報量はやはり違っていた。


 想像以上の規模に戦慄しながらも、慎重を心がけながら和也は移動を始めたのだが、さしたる距離を移動しない内に『PDA』が警告音を鳴らした。


 内心ではビクビクしながらの、傍から見ると情けないことこの上ないおっかなびっくりの抜き足差し足忍び足歩法だったので、和也は心臓から口が飛び出すかと思うほどに驚いたのは言うまでもないだろう。


 もう少し音量が大きかったら、気絶していた可能性も否定できない。


 なお、その警告音は半径二百メートル以内に、『PDA』を所持した他の『参加者(プレイヤー)』がいると伝えるものだった。


 普通ならば、この状況でその反応がある場所に近づこうとする者はいないだろう。


 まだ開始直後と言っても過言ではない時間帯にそこまでを把握している素人は稀だろうが、和也は最悪の可能性も考慮に入れていた。


 即ち――


 積極的に『獲物(プレイヤー)』を狙う『狩人(ハンター)』の存在。


 和也には相手を判別する手段を持ち得ず、この時点での最善の判断は、敵か味方かもわからない不確定の『誰か』がなんらかの行動をするよりも先に逃げることだった。



 ――そう。普通ならば(・・・・・)



 だが、凡人と確信している自分の中にある、唯一の『例外』がその判断を否していた。


 和也は迷わずに、『PDA』が示す反応点を目指していた。


 視線の先には、何処にでもありそうなガソリンスタンド。


 そこに駐車――あるいは放置――さらにあるいは『配置(・・)』されていた無駄に立派なワンボックスカーの後部座席に詰め込まれていた眠り姫(幼なじみ)を見つけたのは、間もなくのことだった。


「壱世がいたのには驚いた、けど………」


 打ち明けると、わりと最初の段階から、壱世を近くに(・・・・・・)感じてはいたのだ(・・・・・・・・)


 あまり他言はしていないのだが、和也には壱世が何処にいるのかはなんとなくわかる。幼なじみの絆とかいうと少し恥ずかしいけれど、多分そんな感じのものだ。


 和也がこっそりと誇る、唯一無二の普通を逸脱した『特別』な感覚だ。


 そんな諸事情はさておき、『PDA』が警告音を鳴らすギリギリ範囲外、つまりは少しでも移動すれば即座に反応する場所に壱世が『配置』されていたのは、多分に悪意的な意図を感じざるを得ない。


 和也と壱世の関係を把握した上でこの『脚本(シナリオ)』を書いたのなら、その執筆者は最悪な性格をしているか、相当の悪意を和也たちに抱いているかの二択になる。


 どちらかというと後者の可能性が高そうではあった。


「目を覚ましてくれなかった時は、本気で焦ったよなぁ……」


 壱世は必要以上に深く眠らされていた。


 寝坊率ほぼ皆無の幼なじみに控えめに起床を促してはみたが、ちょっとやそっとでは目を覚ましそうにはなかった――というか、反応がなかった。


 過去最大級の悪寒と冷や汗が生じたが、呼吸は規則正しくなされていた。


 和也の吐き出した息に含まれる安堵もまた過去最大。


 お姫様抱っこなんて器用な真似をするだけの体力はないので――それをする自分にそれなりの憧れはあるのだが――素直に壱世を背負ってから移動を再開した。


 留まるという選択肢は選べない。


 衣食住の内、衣は無視していい問題であり、住もまたこの辺りは豊富だった。問題は食であり、また水である。


 おそらくは存在するであろう『敵』を回避しながら、三日間を凌げるだけの食料を確保しなければならなかったからだ。


 その判断は間違いではなかったはずだ。


 間違いがあったとしたら、それはもう少し慎重になるべきだったという点に他ならない。


 この時点においても、和也は慎重を期してはいたのだが、それはあくまでも『平和ボケ』した一般人のなんちゃって危機感に過ぎず、実際には紛争地帯に紛れ込んでおきながら、それに全っっっっ然気づいていないというものでしかなかった。


 けれど、それを迂闊と責められる者は少数だろう。


 再三に繰り返すが、唐突にこんな状況に放り込まれて、最善の行動を間違いなく選択できる人物がいたとしたら、その彼ないし彼女は常日頃から頭の中が痛い妄想で埋め尽くされているか、最初から大事な螺子が何本も外れているかのどちらかなのだ。


 そうした危機感の欠如した和也の前に現れたのは、効率優先の機械的思考が決定した『処理』を迅速に実行する『処刑人』だった。


 ふと気づけば、視線の先にその男たちはいた。


『PDA』の警告音もなく、けれど、確かな現実として待ち構えるように。


 数多の銃口で狙いを定め。


 前口上も何もなく。


 和也が何かを口にする暇も与えずに。


 その指先が引き金を引き。


 銃口より銃弾が吐き出されれ、和也と壱世を物言わぬ屍へと変える。



 ――その直前に。



 彼らは謎の極太ビームに薙ぎ払われていた。


 何かがピカッと光ったかと思うと、眼前を光線が凪ぎ、直後にそのラインをなぞるように爆発が生じた。


 衝撃波と爆風に全身を叩かれながら、企画外の光景に目を見開く和也の前に現れたのは――



「よっしゃ―――――――っ! 間に合ったぁぁぁぁぁっ! 俺の生命、危機一髪(ききいつぱああつ)っ!」



 顔見知りのクラスメート――斉藤悠だった。


 謎の雄叫びを上げながら、どこかコミカルさを孕んだ空気とともに。


 得体の知れぬ処刑人の登場からここまで約十秒。


「助けに来たぜっ!」


 矢継ぎ早に急変していく状況に追いつけなくて呆然と立ちすくむ和也に、イイ笑顔・・・・で親指を立てる軍服っぽい姿の悠。


「や、やあ……」


 どうもビームを撃ったのは彼のようなのだが、その点に関しては考えないことにして、和也は曖昧な笑顔で手を振ったのだった。


「最後が、妙に密度濃いよね……?」


 こめかみを指先でぐりぐりと揉み解しながら、和也はゆっくりと目を開く。


 短い追憶の時間はもう終わり。


 ここから先は語るべきことは少ないし、和也が語る必要もない。


 それは別の誰かが、他の誰かを相手に語る話に含まれる瑣末に過ぎない。


 だから――


 和也のささやかな休憩は、これで終わりだ。


 それを告げるように、『PDA』が、静寂を破る音を鳴らしていた。






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