【第8話】氷の男
ラバンの行動が怪しまれ、迫り来る謎の人影。果たしてラバン達は無事キャッスル達と合流することができるのでしょうか?
そして、第三の再会?!その正体とは?
新しい出逢いの予感がする第8話、どうぞお楽しみください!
ある程度町を見てまわったラバン達は、あまり遅くなってはキャッスルに怒鳴られるだろうと、座標管理局に戻ることにした。
「そういえばラバン、さっき周りの人達に怪しまれていたわよ。あれほど気をつけなさいって言ったのに」
「すいません、つい…」
剣であるカルブリヌスに話しかけるラバンの姿は、よっぽど怪しく見えたらしい。町の人達の、疑惑の視線が突き刺さる。そして、大通りに出た次の瞬間だった。
「いたぞ!」
目の前から、かけ声と共に青いマントを羽織った男達が、ラバンめがけて走ってきた。
「え?もしかして通報…?」
ラバンは、確実に自分が不審者として通報されたのだと思い、後ずさりした。しかし、すぐ後ろには長髪の黒マントの男が立っており、ぶつかってしまった。その男は2メートルはあろうかという大男で、その手には、その長身よりもさらに長い槍を携えていた。
「あ…、すみません。決して怪しい者では…」
ラバンは必死に言い訳を考えていた。しかし、黒マントの大男は、ラバンを押しのけ、青マントの男達の前に立ちはだかった。
「君達も本当にしつこいよね。これはちゃんと許可を得て持ち出してるって、聞いていないのかい?そんなんだから、いつまで経っても研究の成果が上がんないんだよ。あぁ、やっぱり辞めて正解だったな。あんなとこに居たんじゃ、オレの研究もはかどらないもんな。だいたい…」
「黙りなさい!ディタールル・カミュス!解雇されたあなたが、その槍を持ち出して良いという道理がどこにあるんです?!さあ、早くそれを返しなさい!」
ぼそぼそとしゃべるディタールルと呼ばれた大男に、青マントの男達のうちの一人がまくし立てる。どうやら、ラバンが通報されたわけではなさそうだ。
「本当に疑り深いんだな、君達。これ見てもまだ疑うのかな?」
ディタールルはさもうんざりした様子で、一枚の書状を鞄から取り出して見せた。そして、それを見た青マントの男達はあ然とした。
「馬鹿な…。これは確かに所長のサインだ…。なぜこんなことが…」
「もういいよね?これ以上オレに付きまとうと、…氷づけにしてラボに送りつけちゃうよ?」
そしてさらに小声でぼそぼそと言うディタールルのその目の前には、黒い魔法陣が現れていた。
「くっ…。ここはいったん退きます。しかしディタールル!あなたのその処遇には、我々は納得していません!それだけは覚えておきなさい!」
青マントの男達はそう言い残すと、くびすを返していった。
「まったく。これだから頭の悪い連中は嫌いなんだ。オレの貴重な時間を、くだらないことで失うのが一番勘弁ならないよ。やっぱりあいつらみんなまとめて氷づけに…」
ディタールルは魔法陣をキャンセルすると、またぼそぼそと言い始めた。しかし、その彼の独り言を打ち破ったのは、意外にもカルブリヌスだった。
「どうやら、あなた好みの戦士を見つけたみたいね、ゲイボルグ」
そのカルブリヌスの声を聞いたディタールルは、目を丸くした。
「おいおい、もしかして君、『ウルクの七賢人』かい?まさか本当にこいつ以外にいたとはね。今日はついてない日だとばかり思ってたけど、そうでもないみたいだな。どうした、ゲイボルグ君、久々の再会なんだろ?遠慮なくしゃべったらどうだい?」
「……ひ、人違いじゃないでしょうか。じ、自分、槍なんですけど…」
なにやら様子がおかしい。確かにディタールルの持つ槍がしゃべったのだが、ひどくおどおどしている。
「何言ってるのよ。人違いも何もないでしょ。相変わらず、とぼけてるわね。ディタールルっていうのね、あなたの保有者。はじめまして、ディタールル。私はお察しの通り『ウルクの七賢人』の一人、カルブリヌスよ。そして、私の保有者ラバン。よろしくね」
「あ、ラバン・ディスコウェルです。はじめまして」
あまりに突然の出来事であっけに取られていたラバンも、ひとまず挨拶をした。
「ラバン君にカルブリヌス君ね、はじめまして。オレはディタールル・カミュス。元研究員だよ、『セカンド・アトランティス』のね。まぁ、さっきのごたごたで聞いての通り、オレはクビにされたんだけどね。でもいいさ。もともと辞める気だったんだ。あそこの連中ときたら、オレのやりたいことを全然やらせてくれなくてね。『セカンド・アトランティス』ってのは、魔法研究所なんだよ。だけどちまちまやってて、全然研究が進まないんだ。もうイライラしちゃってさ。わかるだろ?ラバン君。だいたい…」
ディタールルの独り言のような話は、放っておけば延々と続きそうだった。
「ディタールル、話の途中悪いのだけど、今仲間を待たせているの。話の続きは合流してからでどうかしら」
そこはやはりカルブリヌス。見事に割って入る。
「あ、そうだ!忘れてた。ディタールルさん、ちょっとうるさいのを待たせているんで、とりあえず一緒に来てもらえませんか?もう一人『ウルクの七賢人』もいますので、ぜひお願いします」
ラバンのその言葉を聞いた途端、ディタールルの表情はさらに明るくなった。
「今日は本当についてるな。ということは三人か。一人でアレだからな。三人だとどうなるんだ?楽しみだよ、ラバン君。いや、こっちの話だから気にしなくても良いんだけどね。おい、ゲイボルグ君、嬉しいだろ?こんなに早く仲間と再会できるなんてな」
「じ、自分に仲間なんていたのでしょうか。じ、自分、槍なんで、よくわかりません…」
ディタールルの槍、ゲイボルグはとぼけるのを通り越して、混乱しているかのような返答をする。
「もう、めんどくさいわね。さっさと行くわよ」
久々の再会にも関わらず、カルブリヌスのゲイボルグに対する態度は冷ややかだ。どうやら、再会を嫌がっていた理由が、ゲイボルグの性格にあることはほぼ間違いなさそうだ。そしてひとまずラバンたちは、キャッスルとアイギスの待つ、座標管理局へと向かった。
「ちょっと!ラバン、遅いじゃない!こっちはとっくに調べ終わったっていうのに。どこほっつき歩いてたのよ!…ちょっと誰?そっちのでかい男は!」
予想通りの展開である。キャッスルの怒号に迎えられたラバンは、事のてん末をキャッスルとアイギスに説明した。
「ふーん、ディタールルっていうのね、あなた。呼びにくいから、ディタでいいわよね。それと…、ゲイボルグね。あたしはキャッスル・エルバード、キャスでいいわ。それにしても二人してでかいわね。元研究員ってうそじゃないの?どう見たって戦士系じゃない?」
キャッスルの辞書には、どうやら人見知りという文字はなさそうだ。
「人は見かけで判断するもんじゃないよ、キャス君。それにさっきからでかいとかどうとか、初対面の人に対して失礼な娘だな。体がでかいのは生まれ持ったもんだからしょうがないだろ?でかくなろうと思ってなったわけじゃないんだよ。それとも何か、でかい男は必ず戦士になれとでも言うのかな?だいたい…」
「私はアイギスよ、ディタ。よろしくね。キャスは思ったことを遠慮なく言う娘なの。許してあげてね。ところでディタ、あなたが研究していたことってなにかしら?魔法研究所で働いていたっていうことは、やっぱり魔法かしら」
早くもディタールルの独り言のような話が長くなりそうだと察知したアイギスは、彼のことについて必要な情報を得ようと割って入った。
「それなんだ、アイギス君。オレはずっとあることの研究をしていてね。そもそも『セカンド・アトランティス』に入所したのも、オレ自身の研究の足しにしたかったからなんだよ。まぁ、結局めぼしい成果といえば、こいつに出逢えたことくらいだが…」
そう言ってゲイボルグに目をやるディタールル。
「それでその研究ってなんなのよ!もったいぶらずに早く言いなさいよ!」
痺れを切らしたキャッスルがまくし立てる。
「キャス君、そんなにカリカリしていると将来しわが増えるよ。今は若いからって油断してるとなおさらだ。まぁ、慌てず、まずこれを見てくれたまえ」
そう言うとディタールルは魔法詠唱を始めた。
「<コギト=エルゴ=スム><エウォカーティオン=グラキエス>」
すると、ディタールルの胸の辺りに、黒い魔法陣が出現した。
「『グラキエス』ですって?…まさか、人間がアクセスできるなんて…」
アイギスがそれを見て、珍しく動揺している。
「ちょ、ちょっと何よ!その黒い魔法陣は?!そんなの、聞いたことないわよ!」
多少は魔法をかじっていたつもりのキャッスルも、驚いた様子で問い詰める。
「何よも何も、『グラキエス』だよ、キャス君。氷の魔法さ。まぁ、知らないのは当然だと思うけどね。恐らく、今のところ『グラキエス』を召喚できるのは、この地上でオレだけだからね。何なら、このまま魔法召喚して見せようか?」
「いいえ、もうわかったから十分よ、ディタ。その魔法陣、キャンセルなさい」
そのまま放っておくと、本当に魔法召喚しそうな勢いのディタールルをカルブリヌスが止めた。
「そうかい?それは残念。涼しくなるのにね。でもまぁ、こういうことさ。オレは氷の魔法をずっと研究しているんだよ。そう、魔法が世に出てから…いや、出る前からずっとね。と言っても、『レメゲトン』が公表されてまだ三年だからね。苦労したよ、独自に『グラキエス』にたどり着くのにはね。もちろん、研究所の連中は、オレが『グラキエス』を召喚できることは知っているし、情報も提供しているんだけどね。オレ以外誰も召喚できないんだよ。まったく、そんな連中ばかり集めてるから研究が進まないんだ。だいたい…」
魔法陣をキャンセルしたディタールルの話はまた長くなりそうだ。