【第5話】エルバード家
カルブリヌスとアイギスの再会をきっかけに、ラバンはキャッスルと同行することにりました。
三年前の予言により、世界は、エルバート家はどのように変化したのでしょうか?
魔法がもたらした力とは?
なにやら一波乱起きそうな第5話、どうぞお楽しみください!
「へぇ…、『オリハルコン』っていう金属なんだ。…で、それって『ミスリル』とどうちがうの?」
自分の胸当て、アイギスと、ラバンの剣、カルブリヌスがしゃべったことで、すっかり最初の質問を聞きそびれたキャッスルは、そのことを思い出したらしく、朝出発して間もなく、抜かりなくアイギス達に聞きただしていた。
「そうね…、わかりやすく言えば、『ミスリル』は人口魔法金属って呼ばれているでしょ?それに対して私達の素体である『オリハルコン』は、天然魔法金属…ってとこかしら。そもそも私達は…」
「なるほど!そういうことね!」
アイギスがまだ何か言おうとしているのを遮り、キャッスルは興奮し、声をあげた。
「人工的に魔力精製したんじゃなくて、元から魔力を秘めた金属なら、モンスターも倒せるし、しゃべれても不思議じゃないよね。なんだぁ…。驚いて損しちゃったじゃない!」
「そういう…、ものなの?」
「うるさいわね、ラバン!そういうものに決まってるじゃない」
ラバンが口をはさもうとすると、キャッスルがすかさず遮る。
「三年前、魔法が世界に知られるようになって、世界は180度変わったって、お父様が言ってたわ。代々鍛冶家業のエルバード家も、お父様の代で終わるはずが、『七つの天門』の予言と、『ミスリル製』の武器の必要性のおかげで再び日の目を見るようになったって」
「刀がまた本来の役割を果たす時が来たことは、本当なら喜ぶべきことじゃないけど、キャスのお父様は自分のやるべきこと、やれること、それらにしっかり向き合ってらっしゃるわ」
アイギスは、長い間、エルバード家と共に生きてきた。したがって、エルバード家の歴史の生き証人であり、初代から継がれているその心情も、よく理解していた。
「わかってるわ、アイギス。あたしがもし男の子に生まれてきていたら、26代目のマサムネの名を継ぐはずだったのよね。でも、時代と、あたしの女の子としての存在がそれを許さなかった。時代が刀を必要としなくなったんだから、それで良いってお父様は言ってたけど、再び刀の製法が必要とされて、『ギャラルホルン工業』で働きだしたお父様を見たら…ね。つまり!お父様の生き方が変わっちゃうくらい、魔法っていうものはすごいんだから、金属がしゃべれることくらいどうってことないってこと!わかった?ラバン」
「あ、うん。確かに…ね」
話がすっかりエルバード家の話題に移っていたのを、考えながら聞いていたラバンは生返事で答えた。
「そういえば、キャス、あなたが探すものって、いったい何かしら?確か、それをラバンに手伝わせる為に、一緒について来ているのよね」
しばらくラバンと同じく聞き手にまわっていたカルブリヌスも、まだ聞かされていなかった、キャッスルの旅の目的を確認することにした。
「えっと…、確か各地に祭ってある五振りの刀を持ち帰るように…みたいな感じだったかな。アイギス、詳しく知ってる?」
「ええ、もちろん。持ち帰るのは、初代マサムネの五人の弟子が遺した刀。特殊な方法で打った刀なんだけど、何かの開発研究に使いたいみたいね」
「そういうこと!わかった?ラバン」
カルブリヌスの問いに対する、アイギスとキャッスルの答えの向かう先は、当然ラバンであった。
「そう来ると思ってました…。了解。それで、まずどこに向えばいいのかな」
ラバンはすでに、この状況に観念したようだった。
「そうあせらなくても大丈夫!一振り目はここ、アルメニア国にあるわ。そうよね、アイギス」
「ええ。詳しい位置情報は、アルメニア国を管轄しているセラ城で仕入れましょう。五振りとも、いまだ座標登録のされていない、へんぴな場所に安置されているらしいから『ヘルメス』は使えないわ。だから、ラバンの訓練はそこからでもいいわよね、カル姉さん」
キャッスルの答えにアイギスの補足が入る。お互い話をするようになって間もない割には、息はぴったりのようだ。
「そうね。どのみち、そうゆっくりもしていられないし。ところでキャス、あなた魔法は使えるの?」
「もっちろん!…と言ってもまだ『イグニス』だけだけど…。」
キャッスルは自信満々に答えながらも、小声で本音をもらした。
「でも、どうせラバンは魔法使えないんでしょ?『テウルギア』つけてないもんね。ということは…、もしかしてまだ『ゴエティア』で契約もしてないとか?」
自らの力不足を隠すように、キャッスルはまくし立てた。しかし、そんなキャッスルの嫌味を味わう暇もないくらい、ラバンにはちんぷんかんぷんだった。三年前の予言の少し前からラバンは、人里離れた山で暮らしていた。その為、魔法が世界に普及し始めた、ぐらいのことは知ってはいたが、その程度であった。
「あの…、何のことだかさっぱりなんだけど」
「…ラバン、あなた今までどこに住んでたのよ!アイギス、説明できる?」
「任せて、キャス。魔法を使うにはまず…」
キャッスルの補足役、アイギスの説明によるとこうだ。まず最初に、『ゴエティア』と呼ばれる契約システムで、指紋と声紋を認識・登録する。そして、『テウルギア』と呼ばれるネックレスタイプの音声認識型端末を首に装着するだけであるという。肝心の契約は、世界六大陸に点在している魔導協会でできるようだ。
「わかった?ラバン?」
説明したのはアイギスだが、なぜかキャッスルが勝ったと言わんばかりの表情でラバンを見上げている。
「あとは詠唱の方法だけど、これは百聞は一見にしかず、ね。この辺でちょうどモンスターが出てくれると良いんだけど…」
アイギスがそう言った次の瞬間だった。後ろの方で動物のうめき声のような音が響いた。ラバン達が振り向くと、今まで倒してきたゴブリンよりも一回り大きなモンスターが、群れをなしてラバン達に向かって来た。
「あれは…オークね。ゴブリンに比べて力も強いし、群れで襲いかかって来るわ。まあ、見ての通りだけど。10…20体はいるわね。ちょうど良いわ、キャス。あなたの魔法、見せてもらうわ」
数十体のオークの群れに対し、相変わらず冷静な様子でカルブリヌスは、キャッスルにモンスターの相手を振った。
「ちょ、ちょっと数が多いけど!いいわ!見てなさい!」
キャッスルが身構えた、その次の瞬間。
「<エウォカーティオン=アルボス><イクスボルトー>!」
甲高い男の声が響くと同時に、激しい稲妻がオーク達に降り注いだ。その凄まじい閃光で、一瞬目の眩んだラバン達の視線の先には、あっという間に倒され、土に還ったオークの群れの丘を踏み越え、こちらに向かってゆっくりと近づいて来る、短い朱色のマントを羽織った一人の男の姿がぼんやりと見て取れた。
「だれ…なの?」
あまりに一瞬の出来事で呆気に取られたキャッスルとラバンとは裏腹に、カルブリヌスとアイギスに凍りつくような緊張感が走った。