【第23話】二本目の祠
どうにか『72柱』を倒すことができたラバン達。
しかし、ラバンはその結果に満足はしていないようです。
いよいよ五本刀収集ラバン編のクライマックスです。
第23話、どうぞお楽しみください!
ラバンの近くに突き刺さったブリューナクをサオシュヤントが歩み寄って抜くと、止まっていた時が動き出したかのように、ラバンはふう、と大きく息を吐き出した。
「倒した……。でも僕一人の力じゃ、どうにもならなかった」
ラバンのその言葉は、『72柱』を倒した達成感よりも、自分の力不足を憂う度合いが強く感じられるものだった。
「そんなことはないわ、ラバン。よくやったわ。魔法の使いどころも良かったわ」
しかしカルブリヌスは、『72柱』二体相手にひるむ事なく立ち向かっていったラバンの成長を、本当はもっと褒めてやりたかった。しかし……。
「ちょっとカルブリヌス、甘いんじゃなくて?実際わたし達が来なかったらどうするつもりだったのよ。まさかあなた、また『ルベド』を―――」
「いえ、ブリューナク、あの力を使うつもりはなかったわ。それ無しでも、ラバンはやってくれると信じていたから。でも、あなた達が助けに来てくれたことには本当に感謝してるわ」
このブリューナクからの非難。カルブリヌスはこうくるだろうと予想はできていたので、あの程度の評価しかラバンにしてやれなかったのだ。
「もう!それが甘いって言ってるのよ、その考えが!サオシュヤント、あなたも何か言ってやりなさいよ」
根拠のないカルブリヌスの考えに、ブリューナクは怒り心頭に発している様子だった。
「無事だったから良いのではないか?もしかしたら、ワタシ達が助けに来るということも見越してのことだったかもしれないしな。それよりも、その子は誰だ?なぜこんな雪山に連れてきているのだ?」
サオシュヤントは意外と冷静であった。そして、それよりも、いつの間にかラバンの上着の裾を掴んで、隠れるようにラバンの傍にいたミニヨンのことが彼女は気になっていたようだ。
「あ……、ミニヨン、ごめん。怖かったよね……」
ミニヨンの頭に手をのせながら、ラバンは申し訳なさそうにうつむいて言った。
「旦那さま、ミニヨンは大丈夫です。ミニヨンは迷惑になりませんでしたか」
小刻みに体を震わせながら、ラバンにしがみついているミニヨンは健気に、そのくりくりとした目でラバンを見上げていた。
「大丈夫だよ、ミニヨン。怖い思いをさせてごめんね。―――サオシュヤントさん、この子はこの雪山でモンスターに襲われていたんです。それで、そのまま放っておくわけにもいかないし、本人も連れて行って欲しいって言うんでここまで連れてきたんです。タブリーズ城下町の子じゃないんですかね」
ラバンにそう言われ、サオシュヤントはミニヨンをよく見たが、まずこの雪山に不似合いな格好が気になっていた。
「いや、ワタシもタブリーズ城下町の人間をすべて知っているわけではないしな。ミニヨン、そんな格好で寒くはないのか?なぜこんな雪山に一人でいたのだ」
サオシュヤントの質問に、ミニヨンはわからないとも、言いたくないともとれるような首の振り方で、無言でラバンの体の影から答えた。
「まあいい。でもその子はラバン君、ずいぶんアナタになついているようだな。それより、そこの祠だな、わざわざこんなところまで来た理由は」
「あ!そうでした!大典太さん!」
ラバンは大典太を背中にくくりつけていたのだが、『72柱』のアンドラスとの戦闘の時に激しく木に衝突したことを思い出した。
「私は大丈夫でございます、ラバン殿。しかし、あの時はひやっとしましたぞ。でもご無事で何より。そこの婦人達にもお世話になってしまいましたな。挨拶もまともにせずに申し訳ないないのですが、時間がございません。その祠の中にて、我らが同志、数珠丸が眠っております。さあラバン殿、扉を」
大典太にそう言われたラバンは、いよいよ二人目の初代マサムネの弟子と対面する為、その扉に手をかけた。祠の屋根に積もった雪と足元の雪が星明りに照らされてうっすらと輝き、ぎい、という扉を開ける音だけがその淡い輝きの間で鳴り響いた。