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【第22話】ラバンの戦い

ついに『72柱』二体相手に戦うことになったラバン。

しかし、気張ってみたものの、形勢不利な状況にラバンは追い込まれます。

果たして戦いの結末は?!

第22話、どうぞお楽しみください!


 ラバンの放つ太刀先は、全て空を斬っていた。勢いよく向かっていったのはいいが、まるで当たらない。

「くくく、噂の『エクスカリバー』も当たらなければ棒きれと一緒だね。もうお兄さんのダンスも見飽きちゃったな。そろそろおとなしくしてもらおうかな」

「我は最初からそのつもりだ。ウァラク、貴様が邪魔なのだ」

 いつまでもラバンをからかうだけのウァラクの行動に対して、アンドラスは痺れを切らしていた。

「どうやら協力して私達を排除する……というのが目的ではないみたいね。ラバン、あの大蛇を意識しつつ、攻撃は大狼に絞るわよ。ニ体同時に倒そうと思わないこと。さあ、行くわよ!」

 カルブリヌスは『悪魔達』が言い争っている隙を見て、ラバンに指示を出すと、ラバンは肩で息をしながら大きくうなづいた。ウァラクを押しのけるようにしてこちらに向かってきたアンドラスに合わせるように、ラバンもアンドラスへ向かっていくと、そのまま滑り込むようにアンドラスの腹部の下へと潜り込んだ。

「<マグナフラマ>!!」

 そしていつの間にか『イグニス』の魔法陣を召喚していたラバンは、寝そべった状態からアンドラスの腹部めがけて大きな火柱を放った。しかし、当たったと思った瞬間、そこに大狼の姿はなく、火柱は天に昇っていった。

「ラバン、そのまま前に向かって突きなさい!」

 大きく後方にジャンプしてかわしたアンドラスの姿を捉えていたカルブリヌスの指示を受け、ラバンはそのまますぐ起き上がると、ジャンプの着地を狙ってアンドラスの横っ腹に、カルブリヌスの鋭利な切っ先を突き刺した。

「ぐっ……、油断したか。おいウァラク、修復を頼む」

 ラバンの攻撃は確実にアンドラスにダメージを与えていた。しかし、『悪魔達』は妙に落ち着いていた。

「なめてかかると誰かみたいになるんじゃなかったっけ?いいざまだね、アンドラス」

「いちいち癇に障る奴だ。いいから早くしろ」

 アンドラスに急かされたウァラクは、面倒臭そうにのっそりとアンドラスの方を向くと、双頭の左側の口からなにやら泡のようなものを吹き出した。そしてその泡は、ラバンが刺してあけたアンドラスの横っ腹の穴をみるみるふさいでいった。

「そんな……」

 ラバンはあ然とした。やっとの思いで与えたダメージは、一瞬のうちに無に帰していた。

「その剣の切れ味はさすが、と言っておこう。だが、次はない」

 完全に傷の癒えたアンドラスはラバンにそう言うや否や、今までの動きよりもさらに速いスピードでラバンに体当たりしてきた。ラバンはそのまま吹き飛ばされ、その先にあった木に激しく激突した。あまりの衝撃に意識が朦朧とするラバンは、もう何が起きたのかすらわからない状態だった。

「ラバン!しっかりなさい!ラバン!」

 懸命にカルブリヌスはラバンに声をかけるが、意識を保つだけで精一杯で、ラバンは声も出せずにいた。祠の傍に身を隠していたミニヨンも、どうすることもできず言葉にならない奇声を上げていた。その様子を見たウァラクは、大声でわめき散らしているミニヨンが隠れている、刀の安置されている祠にゆっくりと向かっていった。

「さてと、任務完了かな」

 ウァラクが祠の前まで来た時だった。突然耳をつんざくようなきぃんという音がしたかと思うと、何か激しく突き刺さるような音と共にアンドラスの悲鳴が聞こえた。意識を失いかけていたラバンはその激しい音で目が覚めた。そして、ラバンの目の前にあった光景は、すぐ目と鼻の先まで近寄っていたアンドラスがどこかで見たことのある槍によって、背中から地面まで串刺しになっている姿だった。

「なんだ、これは……?ウァラク、早く修復を……」

 その槍の一撃は凄まじいものだった。串刺しになったアンドラスは何が起こったのか理解する間もなく、消滅してしまった。

「まったく、何しているのよカルブリヌス。あなたがついていながら。わたしが来るのがあと数秒遅れていたらどうするつもりだったのよ。ほんと、感謝ぐらいしてほしいわよね」

 その見覚えのある光り輝く美しい槍、聞き覚えのある憎まれ口。そう、目の前に刺さっていたのはサオシュヤントの保有する槍、ブリューナクだった。そしてその影から、美しい銀髪をなびかせながら、サオシュヤントが倒れているラバンに近づいてきた。

「大丈夫か、ラバン君。どうも胸騒ぎがしてな。来て正解だったようだ」

 サオシュヤントはそう言うと、身動きのとれないラバンを見て魔法詠唱を始めた。


「<コギト=エルゴ=スム><エウォカーティオン=テラ><キュラ>」


 すると、緑色の魔法陣がラバンの身体を包み、不思議なくらい痛みがひいていった。

「サオシュヤントさん、ありがとうございます。これは……?」

「『テラ』だ。数ある魔法の中で、唯一の回復属性の魔法だ。ワタシはまだこの程度しか使えないが、いくらかましになっただろう。そこで少し休んでいるといい。残りの一体もワタシが片付ける」

 そして、すぐにブリューナクを引き抜くと、サオシュヤントは祠の前にいたウァラクに向かおうとした。

「待ってください、サオシュヤントさん。助けてもらってばっかりで悪いです。あいつは、僕がやります!」

 ラバンはそう言うと立ち上がり、カルブリヌスを構えた。

「いやぁ、あっさりアンドラスを処分してくれたね。強いね、お姉さん。いや、その金星人がかな。どっちにしろ、そのお姉さんに任せておけばよかったのに、格好つけていたら良いことないよ、お兄さん」

 ウァラクは仲間がやられたことを特に気にするでもなく、本気の攻撃態勢に入っていた。

「カル姉さん、もう一度よろしくお願いします!」

「ええ。ラバン、行くわよ!」

 カルブリヌスを強く握り締め、今度は突進するのではなく、じりじりとウァラクとの距離を詰めていくラバン。先ほどまでとは立場が変わったウァラクは、今までの余裕は消え失せ、その巨大な尾を地を這わせるようにラバンにぶつけてきた。と、その尾をジャンプしてかわすと同時に、ラバンは双頭の付け根部分を真っ二つに斬り落とした。

「ラバン、とどめを!」

 カルブリヌスに言われるがままに、ラバンは真っ二つに別れた右半身にとどめをさそうとした。その時、反対側、ウァラクの左半身が起き上がり、口から何か吐き出そうとしていた。しかし、その左半身の攻撃は飛んできたブリューナクによって見事に阻止された。同時に、ラバンもウァラクの右半身にとどめをさすと、湧き出てきた泡に包まれ、最初の少年の姿に戻っていた。

「なんだ、お兄さんも強いじゃん。僕はアンドラスより弱いわけじゃないんだけどね。任務……失敗だ」

 そう言い残すと、ウァラクもすっと消滅した。すっかり暗くなっていたせいか、戦いを終えたカルブリヌスとブリューナクの輝きがより一層際立って見えた。そして雪山には再び静寂が戻っていた。




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