【第21話】望んで来る覚悟
なんとか完全に日が暮れる前に目的の場所にたどり着いたラバン達。
しかし、そこで待ち受けていたものとは……?!
第21話、どうぞお楽しみください!
「ラバン殿、近づいて参りました」
陽が傾き始め、辺りが薄暗くなり始めた頃、ラバンの背中にくくりつけられた、しばらく話す気配のなかった大典太がようやく口を開いた。
「大典太さん!よかった、しばらく話をする様子がなかったんで心配していました」
「申し訳ない、ラバン殿。少し休ませていただいておりました。もう少し歩いたところに、私が安置されていた祠と似たようなものがございます。さあ、急ぎましょう」
どうやらもう少しで目的の場所に到着するようだ。大典太に促されたラバンは、ミニヨンの手を取り、少し足早に先を急いだ。
「旦那さま、ミニヨンは大丈夫です。ちゃんとついていきます」
ミニヨンはそう言うと、ラバンの手をもぎ取るように離し、ラバンの後ろにぴったりとついてきた。ミニヨンのその態度は少し無理をしているように感じたラバンだったが、足取りはしっかりしていたので、ミニヨンの言葉を信じることにした。
「ラバン、あれじゃないかしら」
それから少し歩いた後、カルブリヌスがそう言う先には、確かに大典太が安置されていた祠とそっくりな小さな建物が見えてきた。そしてラバンがその祠に近づき、目の前の扉に手をかけたその時だった。
「ちょっと待ちなよ、お兄さん」
と、誰かが後ろから声をかけてきた。ラバンが後ろを振り返ると、そこにはミニヨンと同じくらいか、少し年上くらいの少年がにこにことした表情で立っていた。小ぎれいで真っ白なワンピースのような服を着た、金髪の美しい少年だった。
「君は……?」
扉を開けようとした手を止め、声をかけてきた少年を見ながらラバンは、今日はよく小さな子に遭遇する日だな、と思った。
「お兄さん、その中には魔物が住んでいるから開けない方が良いよ。ぼくは、この祠を開けようとするお兄さんみたいな人に注意するために来たんだ」
そう話しながら、にこにこしながらその少年はラバンの方に近づいてきた。
「だめ!旦那さま!近づいちゃだめ!」
突然ミニヨンが大声を出してラバンの裾を強く引っ張った。
「ラバン!気をつけなさい!この子……『72柱』よ!」
そしてカルブリヌスがそう言った途端、その少年は不気味なくらいにいっそうにこにこし始めた。すると、その少年の後ろにオレンジ色の魔法陣が出現し、今度は紳士風の青年が姿を現した。
「だから言ったのだ、ウァラクよ。今時こんな手に引っかかるような奴はいない、と。結局最後にものを言うのは力だ、と」
すると、少年の笑顔から笑い声が漏れ始めた。
「くくく、そうだね。でもこのお兄さんは気づかなかったみたいだけどね。まぁ余興だよ、これは。それなりに楽しかっただろ?」
少年がそう言うと、みるみるその美しい姿が巨大な双頭の蛇へと変形し始めた。
「ぼくは『詐欺』、ウァラクだ。お兄さんの邪魔をさせてもらうよ」
そして、少年に続き紳士風の男も、巨大な狼のような姿に変身し始める。
「我は『猜疑』、アンドラス。そこの刀は我々が頂く」
変身し終えたウァラクとアンドラスは、様子を見るように、しかし威圧をかけてくるかのようにゆっくりとラバンに近づいてくる。
「『72柱』はまた現れるとは思っていたけど、まさか二体来るとは思わなかったわ。あなた達、『悪魔』の割に仲良しなのね」
『悪魔達』の威圧に負けそうだったラバンの手の震えを感じたのか、カルブリヌスは冷静に『72柱』の二体に語りかける。
「……随分と年代物の剣を持っているね、お兄さん。その姿、その生意気な口調、きみ『エクスカリバー』だろ?ボスから話は聞いているよ。ぼく達が二体で来たのもボスの命令さ。きみ達金星人が邪魔してくるだろうからってね」
「あら、随分と懐かしい名前を出してくれたものね。でもこの名前を知っているあなた達のボスは……」
かつて自分が呼ばれていた名が飛び出し、一瞬カルブリヌスの声色が変わった。
「おい、喋り過ぎだぞ、ウァラク。そんな話は今はどうだっていい。我等はそこの刀を持ち帰る、それだけだ」
アンドラスは全身の毛を逆立てながら、双頭の大蛇を威嚇するように言うと、ラバンの方へと向き直した。
「いいじゃん。いくら金星人がいるって言っても、肝心の人間が固まってるし。もう少し遊ぼうよ、アンドラス」
「なめてかかると、シャックスのようになるぞ、ウァラク。さあ人間よ、そこをどいてもらおうか。死にたくば、向かってくるがいい」
舌なめずりをするウァラクに対し、アンドラスはすでに戦闘体勢にあった。昨日町を襲った『氷門』のモンスター、ヴリトラぐらいの大きさだが、二つの頭を持ち不気味に笑うウァラクと、先ほどミニヨンに襲いかかろうとした『氷門』のモンスター、ウィンディゴより一回りも二回りも大きい狼のようなアンドラスという二体の『悪魔達』に睨まれたラバンの体からは、すっかり暗くなり始め、息も凍りつくような寒さになっていたにも関わらず、じっとりとした汗が噴き出していた。
「ラバン、ちょっときついかもしれないけど、やれる?」
カルブリヌスは、ラバンの手のひらの汗が普通ではないことはわかっていた。しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。小声だが、強くただ前に進むことを含む口調で言った。
「心配はいりません、カル姉さん。覚悟はできているんです。乗り越えるための相手が向こうから現れたものなんで、興奮して僕の血が熱くなっただけです。カル姉さん、よろしくお願いします!」
今までに無いくらい強くカルブリヌスの柄をぎゅっと握り締めたラバンは、大きなかけ声と共に『悪魔達』に向かっていった。