【第20話】謎の子
装備を整え、雪山を登り始めたラバンとカルブリヌス。
思ったよりもモンスターが出現しないことに少し疑問を持ちながら進んでいると、誰かがモンスターの群れに襲われているようでした。
無我夢中で助けに向かうラバン。そこにいたのは……?
第20話、どうぞお楽しみください!
「<エウォカーティオン=イグニス><フラマ>!」
ラバンの召喚した赤い魔法陣から、バレーボールサイズの火の玉が発射される。
「良い感じだわ、ラバン。最初はどうなるかと思ったけど、なかなか呑み込みが速いじゃない」
火の玉が命中した『氷門』のモンスター、フロストゴブリンにカルブリヌスでとどめをさすラバン。
「なんとか『イグニス』を使えるようになっておいて良かったです、カル姉さん。この氷のゴブリンには効果絶大ですね!」
目的の刀があるであろう雪山の中腹まで登っていたラバン達。ここまでは、タブリーズ城下町にまで迫ってきたヴリトラのような巨大モンスターは出現せず、フロストゴブリンやフロストオークといった比較的弱めのモンスターが時々襲ってくる程度であった。
「サオシュヤントさんの話だと、雪山はモンスターの巣のようになっているってことでしたけど、全然少ないですね。例の巨大なモンスターが出てきたらどうしようって、登る前からどきどきしていたんですが」
「油断は禁物よ、ラバン。それにモンスターのことより、日が暮れるまでに刀を回収しなければいけないことを忘れないで。野宿をする準備はしていないでしょう?さあ、急ぎましょう」
朝早くに出発したラバンであったが、慣れない雪道とたまに襲いかかってくるモンスターの相手に手間取り、すでに日は高く昇っていた。前回の大典太回収の時のキャッスルを見習い、座標管理局から『ヘルメス・ポータブル』をレンタルしてきたとはいえ、日が暮れるまでに刀が安置されている場所にたどり着けなければ、雪山での野宿装備のないラバンはまた一からやり直しである。そんな時間はないと言わんばかりにカルブリヌスはラバンをたしなめる。
「そうですね。座標管理局で調べて大体の位置はわかっていますが、この雪の中ですぐ見つけられるかわからないですもんね……」
とその時、ラバンの目の前にモンスターの集団らしきものが見えた。しかし、どうやらラバン達ではなく、その先にいる何か違う獲物を狙っている様子だった。
「あれは、ウィンディゴだわ。『氷門』のモンスターの中でもすばやいし、気性が荒いから少し厄介よ」
「カル姉さん……、人がいます!」
ラバンはそう言うや否や、カルブリヌスを構え、六体程いたウィンディゴの群れの中に突っ込んだ。一見すると狼のような氷のモンスター、ウィンディゴ達はラバンの動きに気づき、目標を変えてラバンに襲いかかってきた。これまでのゴブリン達に比べると格段に速いのに加え、攻撃に連携が取れているようでカルブリヌスの美しい刀身は空しく宙に舞うばかりだった。
「落ち着いて、ラバン。モンスターの動きに惑わされないで。確かに動きはすばやいけど、よく見たら単調な動きなの。確実に一体一体片付けるわよ」
「はい!わかりました!」
カルブリヌスの言葉を聞いて冷静さを取り戻したラバンは、ウィンディゴ達が一体一体順番に襲いかかってくるのが見えた。その動きに合わせ、一体、また一体と『コア』のあるであろうモンスターの体躯の中心部分を斬りつけていった。そして、六体いたウィンディゴ達は瞬く間に氷の残骸と化した。
「よくやったわ、ラバン。動きがすばやいモンスターはまずその動きの法則性を見極めることが必要なの。闇雲に目で追ったり斬りつけても良い結果にはならないわ」
「はぁ、はぁ、……はい!ありがとうございます!」
肩で息をしながらラバンは、カルブリヌスの指示があってのことだが、新たなモンスターに対処できたことに少しだけ満足感を得ていた。
「そうだ!襲われていた人は?!」
モンスターの残骸の先に大きな木が一本あり、確かその辺りに人影が見えていたのだ。その木に急いで近づくと、とても雪山の中での格好とは思えない程の薄着の子が、木の根元でうずくまっていた。
「き…君、大丈夫かい?」
随分と怯えた様子の子は、恐る恐る、頭を覆うように抱えていた腕を解き、きょろきょろと辺りを見回していた。見るとまだ十歳くらいの小さな子だった。
「モンスターは去ったの?」
顔を右に左にやりながら、しきりに辺りを確認するその小さな子は、ようやく目の前のラバンに気づき、さらにその手に握られたカルブリヌスの方へとそのくりくりした目をやると、自分の身に迫っていた危機が回避されたことを理解したようだった。
「旦那さま、旦那さま達が助けてくださったのですね」
自分が旦那さまと呼ばれ、ラバンは一瞬戸惑った。今までそんな呼び方をされたことがなかったからだ。
「君……、なんで一人でこんなところにいるの?名前は?」
「……ミニヨン、ミニヨンです、旦那さま。ミニヨンは一人です。旦那さまとお姉さまはミニヨンを連れて行ってくれますか?」
ラバンはぎょっとした。そう、そのミニヨンと名乗った幼い子は、カルブリヌスの存在に気づいているようであったからである。
「あら、あなた……、なぜ私がお姉さんだとわかったのかしら」
カルブリヌスは特に驚く様子もなく、ミニヨンに問いかけた。
「美しいお姉さん、どこからどう見ても美しいお姉さん。うらやましいわ」
カルブリヌスに気づいた理由についてはっきりと答える訳でもなく、カルブリヌスに対して羨望の眼差しを向けるその子は、よく見ると少女のようであった。短めの黒髪に上下灰色のシャツとパンツ姿のミニヨン。年が幼いせいもあってか、一見すると少年か少女か見分けがつかなかったのだが、よく見るとまだあどけないが魅力的な少女だとラバンは思った。
「ついて来るって……、ミニヨン、お父さんやお母さんは?」
「わかりません、旦那さま。お願いです、どうかミニヨンを連れて行ってください」
ミニヨンはそう言いながらラバンに近づくと、ラバンの上着の裾をぐいぐいと弱い力で引っ張った。今町に引き返す訳にはいかない。かといって目の前で懇願するいたいけな少女を無視することは、なおできない。
「ミニヨン、とにかくここは危険だわ。だけど、私達はまだ先へ進まないといけないの。それでもちゃんとついてこれるかしら?」
ラバンがあれこれ考えている隙に、カルブリヌスは優しい口調でミニヨンに問う。
「大丈夫。ミニヨンは迷惑をかけないようにします。ありがとう、美しいお姉さん」
カルブリヌスから同行の許可を得たミニヨンの表情は、笑顔を作ろうとしているようであったが、どこかぎこちない、少し曇っている感じがした。しかしラバンは、もちろんこの話の流れに逆らうことなどできず、この子は自分が守らなければいけない、と、ラバンを見上げながらさっきよりも少し強く裾を引っ張ってくるミニヨンを見つめながら思った。