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【第17話】北の国の聖女

北方の国、アゼルバイジャンにやってきたラバンの耳に、どこかで聴いたようなメロディーが飛び込んできました。

果たして、そこで歌っていた人物とは?

そして、また新たな再会が待っていたようです。

第17話、どうぞお楽しみください!


「この歌は……」

 ラバンは人混みをかきわけ進むと、広場の奥にあるちょっとしたステージのような場所で、遠目で見ても分かるくらいの美しい銀髪をなびかせて歌う女性の姿が見て取れた。そしてその手には、まるで光を放っているかのように美しく輝く槍を掲げていた。

「『七つの天門』の歌……ね。でもこれは……」

 聴こえてきた歌は確かに『七つの天門』の歌だった。しかし、かすかにダブリングして聴こえる、不思議な歌声だった。そして歌が終わると、一斉に歓声が大きく沸き起こった。

「サオシュヤント様!!」

「聖女様!どうかこの世界に救いを!!」

「サオシュヤント様!世界に再び平穏を!!」

 歌い終えた銀髪の女性が、手にしていた美しい槍をさらに高く掲げると、今まで大きな歓声を上げていた人々はぴたっと静まり返った。

「やっぱり……。ブリューナクだわ」

 カルブリヌスがそうつぶやいた瞬間、槍を手にしたサオシュヤントと呼ばれていた女性は、大声で集まっていた人々に向かって叫んだ。

「アゼルバイジャンの民よ!ワタシがいる限り、この国をモンスター共の好きなようにはさせない!恐れるな!皆前を向け!」

 サオシュヤントがそう言うと、また一段と大きな大きな歓声が上がった。

「カル姉さん、あの人が持ってる槍、『ウルクの七賢人』なんですね」

「ええ、そうよ。閃光の槍と呼ばれし彼女の名はブリューナク。とても器用な子で、彼女特有の魔法を使えるの。彼女自身が光り輝いて見えるでしょ?あれがそうよ」

 ラバンはカルブリヌスにそう言われ、ブリューナクを見てみると、確かに一段と強い、直視するのも難しいくらいの輝きを放っていた。

「この人の多さでは、今彼女達に接触するのは難しそうね。ひとまず私達は座標管理局に向かって用を済ませましょう、ラバン」

「そうですね。あれだけ有名な人ならまた探すのは簡単そうですし。行きましょうか」

 そしてラバンとカルブリヌスは歓声鳴り止まぬその広場を後にし、座標管理局へと向かった。


「なんとなく想像はしてたんですが、今回の座標、雪山ですね……」

「そのようね、ラバン。さすがにその装備じゃ頼りないわね。まずどこかで登山服を調達するべきだわ」

 この雪国を選んだラバンは、今になって少しだけ後悔していた。そして、準備を怠った自分に対して自責の念が沸き起こってきた。

「そうします、カル姉さん。すでに寒いですし」

 ラバンは少し身震いをしながら座標管理局を出ようとすると、兵士風の武装した男が二人、入ってきてすれ違った。そして、二人でなにやら話をしているかと思うと、突然振り返りラバンに話しかけてきた。

「すみません、突然で恐縮なんですが、少しお時間いただけませんか?」

 本当に突然で、しかもまったく話しかけられた理由がわからずにラバンは少々戸惑ったのだが。

「良いですよ。ただ、暖かいところでお願いします」

 どうやらラバンは、とにかく暖を取りたかったようで、何用か聞き返すこともなく二つ返事で承諾した。

「ありがとうございます。我々も詳しいことはわからないのですが、とにかくその剣を持ったあなたを見つけてお連れしろ、とのことでしたので。ではついてきてください」

 そう言われ、兵士風の男達についていくことにしたラバン。そしてしばらく歩くと、周りの家に比べて一際大きくて立派な屋敷が見えた。そのままその屋敷の中へと案内され、応接間の扉の前まで来ると、二人の男達は扉をノックし、ラバンを連れてきたことを部屋の中にいる人物に告げると、一礼をしてその場を後にした。

「どうぞ、入ってくれ」

 部屋の中からそう男の声が聞こえたので、ラバンは扉を開け、部屋に入った。

「失礼します。えっと……、ラバン・ディスコウェルです。あの、なんでしょうか……あ!」

 長身の男の立つ隣、目の前のソファに槍を持ったまま腰掛けていたのはなんと、あの銀髪の女性サオシュヤントだった。

「む、ラバン君と言ったな。君の剣はなぜ抜き身なのだ?鞘はどうしたのだ?」

 その長身の男は、ラバンが持つ抜き身のままのカルブリヌスに目がいった。

「すみません、これはカル姉さんが嫌が……あ、いえ、この通り、刃はついておりませんので大丈夫なんです」

 そう言ってカルブリヌスを目の前に差し出し見せると、確かに刃の付いていない刀身を見て、その男はひとまず安心したようだった。実は、カルブリヌスは鞘に入るのを嫌がり、常に抜き身のままラバンは持ち歩いていたのだ。戦闘時以外は『オリハルコン』特有の形状変化により、両刃とも峰のようにしているのでもち歩きには問題はないのだが、確かに客観的に見ると、抜き身の剣をぶら下げて歩いている姿は何かと疑われても仕方がない。

「まあ良い、ジル。すまないが少し席を外してくれないか。この男と少し話がある」

「し、しかしサオシュヤント様……、いえ、わかりました。何かあったらすぐお呼びください」

 サオシュヤントに部屋を出るように言われたそのジルという長身の男は、ラバンを警戒しつつも渋々部屋を後にした。

「さて……。突然呼び出して悪かったな、ラバン君。アナタのその剣、『ウルクの七賢人』だろう?今なら遠慮はいらん」

 そう言い、カルブリヌスに目をやるサオシュヤント。褐色の肌に輝くような銀髪。近くで見ると、聖女と呼ばれていたその女性の美しさは一段と際立っていた。

「あなた、サオシュヤントっていうのね。私はカルブリヌス。はじめまして。ところでサオシュヤント、そのあなたの名前は本名かしら」

 カルブリヌスは、初対面でもやはりまず、自分の気になったことを質問する。

「はじめまして、カルブリヌス。どうしてそんなことを聞くのだ?ワタシは物心ついたときからこの名で呼ばれている。それ以外の名は知らん」

「あら、そうなの。素敵な名前よ。私の知っているある古い言葉と一緒だから気になっただけなの。悪く思わないでね」

 カルブリヌスの質問に淡々と答えるサオシュヤントは、なかなかぶっきらぼうな性質のようだ。

「ちょっとカルブリヌス!このわたしを無視するなんていい度胸ね。それともわたしがまぶし過ぎて見えなかったのかしら」

 少しぴりぴりした空気に割って入ったのは『ウルクの七賢人』の一人、ブリューナクだった。

「ごめんね、ブリューナク。相変わらず元気そうね。ところで、さっきあの広場で歌っていた『七つの天門』だけど、なかなか面白かったわ。また新しい術を考えたのね」

「あら、あれに気がつくとはさすがカルブリヌスね。そうよ、わたしが考えた『二重詠唱』の応用よ。サオシュヤントの歌とわたしの歌をきれいにユニゾンさせたの。本来はあれを魔法の詠唱でやるのよ。でもこれは相当練習しないとだめね。あなた達、さっきの広場でのステージ、見てたんでしょ?普通の人間には、サオシュヤントが人間離れした歌を歌っているように見えたはずだわ。今ではこの子は聖女と呼ばれてこの国の注目の的なのよ。そんなサオシュヤントにこうやって個人的に会えるなんてなかなかできないの。カルブリヌス、別にあなたにそんなに会いたかったわけじゃなかったけど、母様からのアクセスの件もあるから、近くにいるのに会わないわけにはいかないでしょ?だからサオシュヤントに頼んで探してもらったのよ。感謝ぐらいしてほしいわよね」

 ブリューナクは矢継ぎ早にラバン達をここに呼びつけた理由を話した。

「ブリュ、このぐらいで良いか?またいつモンスターが現れるかわからないからな。そろそろ行くぞ」

 そうサオシュヤントは言い、立ち上がると、ラバンが慌てて自分達の事情も話そうとした。

「あ、すみません。実はこれからとある雪山に行こうと思っているんですが、どこかに登山服を貸してくれるようなところってないですか?」

 すると、サオシュヤントは驚いた様子で答えた。

「正気か?今この国の雪山のほとんどは『氷門』が開いているんだぞ。そのモンスターが今ではこのタブリーズ城付近まで迫っているぐらいだ。そのモンスターの巣ともいえる雪山に行こうなど、無謀にもほどがあるぞ」

「そうなんですか……。でも、どうしても行かないといけないんです」

 ラバンはこの国の雪山の現状を聞いて一瞬たじろいだが、刀の回収を諦めるわけにはいかないので、ここはぐっと食い下がった。

「しかしだな……」

 サオシュヤントが少し困った顔をした次の瞬間、どんどんと激しく扉をノックする音が聞こえた。

「サオシュヤント様!モンスターです!しかも今回のは大型で、ジルディレイ隊長達も苦戦しております!」

「む……!わかった。すぐ行く!」

 扉の向こうから聞こえた声に応じてサオシュヤントはブリューナクを携え、急いで出て行ってしまった。

「ラバン、私達も行きましょう」

「はい!わかりました!」

 事態を察したカルブリヌスはラバンに指示をすると、疾風のように部屋を飛び出ていったサオシュヤントの後を追わせた。




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