【第16話】それぞれの出発
手分けして刀集めをすることにしたラバン達。
北方の国アゼルバイジャンに向かうことになったラバンは、北国の寒さを忘れていたようです。
そしてなにやら町がざわついているようですが……。
第16話、お楽しみください!
「しかし寒いですね、カル姉さん……」
「そうなの?確かに雪がちらついているわね。だったらもうちょっと、暖かい格好をしたらどう、ラバン」
ラバンとカルブリヌスは小雪のちらつく北方の国、アゼルバイジャン国のタブリーズ城にいた。
―――三日前(キャッスルの準備やら、ディタールルの工場見学やら、マサムネと『ウルクの七賢人』との対話やらで、結局エルバード宅に四泊したようだ)、誰がどの国に行くか話し合っていた。
「あたしは寒いのも暑いのもいやだから、年中暖かいシースタン国に行くわ!あとはラバンとディタで決めていいわよ」
キャッスルの決め方は気持ちが良いほど、わかりやすいものである。
「……。まぁ、いいけど。そうなると、あとは北方のアゼルバイジャン国か、砂漠の国ソグディア、もしくは南方のマルギアナ国ですね」
渋々、というより、いつもの調子だと思いつつ、ラバンはどこに行くか考えていた。
「じゃあ、ラバン君はアゼルバイジャン国だね。オレはソグディア国に向かうよ」
ラバンが決めるまでもなく、ディタールルがすでに決めていたようだ。
「ディタが砂漠?寒いのが好きそうだから、寒いアゼルバイジャンに行くのはディタだと思ってたのに」
「ふふ、相変わらず考えが浅いな、キャス君。魔法には相性があるのくらい知っているだろ?氷の魔法『グラキエス』しか使わないオレが、いかにも『氷門』が開きそうな雪国に行ってどうするんだい?それにオレは、氷は好きだが寒いのは苦手なんだ。南国出身だからね。そんなことより、キャス君は本当に一人で大丈夫なのかい?アイギス君がいるから死ぬことはないだろうけど、もし『72柱』と戦うことになったらどうするんだい?防御だけじゃどうしようもないよ?どうも魔法も、まだまだ初心者レベルみたいだったしね」
キャッスルの質問に対し、あっさり答え、反撃するディタールル。
「うるさいわね!なんとかするわよ!魔法は……、確かにまだ『イグニス』の低位しか使えないけど。あの時の戦いじゃ、あせってて使わなかったけどあたしには必殺技があるもん!まぁまかせてよ。あたしが一番に回収してみせるんだから!」
なにやら秘策がある様子のキャッスルは、それが根拠なのか、自信満々である。
「じゃ、決まりだね。僕がアゼルバイジャン国、キャスがシースタン国、ディタさんがソグディア国だね。それで、回収できた人から最後の一本がある、マルギアナ国に向かう。そこでまたみんな落ち合う、でいいかな?」
ラバンのとりまとめで大まかな流れを確認した三人。そして、キャッスルから刀が安置してある大体の場所を聞いたラバンとディタールル。それを基にそれぞれの国の座標管理局で、位置を割り出し回収する。大典太を回収した時と同じ流れではあるが、今度は単独行動である。皆多少の不安を抱えているはずなのだが、なぜかそれぞれ怪気炎をあげていた。どうやら三人が三人とも、刀集めとは別の方向に意気込みが向かっているようであった。
「それじゃ、次に会うのはマルギアナ国のメルヴ城ね!そうそう、座標管理局で座標ジャンプする時に、ジャンプ履歴を公開にしておいてね。メッセージも残しといて。これで誰がどこにいるのかわかるわよね。……それにしてもお父様とアイギス達、まだ話してるのかしら」
そう、この世界には電話という通信手段はない。『ヘルメス』で直接会うか、手紙で事足りているのだ。座標ジャンプの履歴は任意で公開・非公開の設定ができる(有事の際は問答無用で公開になるが)ので、公開にし、メッセージを残しておけば、簡単に集まることができるのだ。
「どうやらまだ話し込んでいるみたいだね。待ってる間オレは工場を見学させてもらうよ。キャス君暇だろ?案内頼むよ」
「なに言ってるのよ!あたしだって忙しいのよ!いろいろ準備があるし。一人で行ってきなさいよ!」
「あ、ディタさん、僕ついていきますよ。僕も『ミスリル製品』の製造工程が見てみたいんで」
―――という具合で、前述の通り、それぞれの行動予定を決定してから三日が経ったのである。
「それにしても、大典太さん、キャスの家を出てから全然しゃべりませんね。どうしたんでしょうか」
エルバード家の代理の証として大典太を預かったラバンだが、一向にしゃべる気配のない大典太が気になっていた。
「そういえばそうね。どうしたのかしら。もしかしたら、寝ているのかもね。私達も寝る時は寝るから、一緒なんでしょう。必要になったらきっと起きてくれるわ」
「なるほど。そうですね。じゃあ、そっとしておきましょうか。それとカル姉さん、気づきました?町の人達の様子……」
意外と楽観的なカルブリヌスの答えにラバンも安心したが、もう一つ、どうやら気になることがあるようだ。
「町の人達?確かに騒がしいわね。お祭りでもあるのかしら。皆向こうの方へ集まっているみたいね」
そう言うカルブリヌスの先には広場があり、確かにたくさんの人が集まっていた。そして、皆が皆、大きな歓声を上げているようだった。
「行ってみましょう、カル姉さん。何か……ある気がします!」
ラバンは人混みのざわめきの中に、かすかに聴き覚えのある歌が混じって聴こえてくるような、そんな気がした。