【第14話】座標管理局にて
決意新たに、更なる戦いに備えることにしたラバン達。
ひとまずセラ城の座標管理局に一同は戻ることになりました。
そこで交わされる一時のゆったりとした会話です。
第14話、どうぞお楽しみください!
「そういうわけで大典太、一緒に来てもらうわよ!」
「大方の状況は把握致しました。わかりました。どれだけ私が力になれるかはわかりませんが……、戻りましょう、エルバード家に」
大典太は、先の戦いを見て、この時代に起きている事態の深刻さを読み取った。
「ありがとう、大典太。とりあえず一度、キャスのお父様のところへ戻った方が良いわね。『72柱』の動きも気になるけど、その報告も合わせて、これからの私達の行動も考えましょう」
アイギスのこの提案に皆賛成だった。『魂入れ』によって刀となった初代マサムネの五人の弟子達。なぜ今、キャッスルの父親の25代マサムネや『72柱』がそれを求めているのか、それが気になるところであったからだ。
「それじゃあ、早速帰りましょう。でも、この夜道をまた戻らないといけないのか……。あのゴーレムが出る岩場も通らないといけないんですよね……」
「ふふふ。その心配はないわ、ラバン!これを見て!」
帰り道を心配するラバンをあざ笑うように、キャッスルがにやにやしながら取り出したものは、文庫本ぐらいのサイズの端末機器だった。
「ちゃんと出発する前に座標管理局から(無理やり)借りてきたんだから!この『ヘルメス・ポータブル』があれば帰りは座標ジャンプでひとっ飛びよ!」
「さすがね、キャス。でも、あの攻撃からよくこれも守りきったわね、アイギス」
カルブリヌスは、ちゃんと帰りのことを考えていたキャッスルに感心すると共に、いや、それ以上にあのシャックスの風の猛攻から、全てを守りきったアイギスを称賛した。
「キャスがこの端末機器を座標管理局の人から無理やり借りていたのを知っていたから……。まさか、借り物を壊すわけにはいかないでしょ。さあキャス、まずは座標管理局に戻ってそれを返却しましょう。それから街にある『ヘルメス・ステーション』からお父様のところへ向かいましょう」
「はぁい。(アイギス、あたしがこのまま直にお父様のところへ戻ろうとしてたの、見抜いてたのね)ちゃんと返しますよぉ。もう、いろんな意味でかたいんだから、アイギスは」
「それは褒め言葉として受け取っておくわ、キャス。さあ、行きましょう」
キャッスルとアイギスのちょっとしたやりとりで、その場の空気は少しだけ和らいだ。しかし、これから始まるであろう長い戦いのことを各々胸にとどめながら、『ヘルメス・ポータブル』で一同はセラ城の座標管理局へと座標ジャンプした。
「それでは今回の座標ポイントは、登録の必要はないということで承りました。ご協力、ありがとうございました」
しぶしぶ『ヘルメス・ポータブル』を返却したキャッスルの背中からは、残念そうな気持ちがひしひしと伝わってきた。
「あれ、キャス、あの祠は登録しないでよかったの?」
ラバンは、大典太が保管してあった祠を座標登録しなかったキャッスルに問う。
「いいのよ。だって、あんな寂しいところに保管しなくても、用事が終わったらうちで保管すればいいんだから。そうでしょ、大典太?」
「…………」
「あ、そっか。普通の人がいる前ではしゃべらない方がいいんだっけ。それじゃ、返すものは返したし、さっさとうちへ帰るわよ」
「そういえば、キャスのお父さんに会うの、楽しみだな。これだけうるさ……元気な娘に育てたんだから、パワフルな人なんだろうな」
キャッスルが返事をしない大典太に話しかけているのを見て、ラバンは小声でつぶやいた。
「ラバン君、百聞は一見にしかず、だよ。オレは鍛冶屋には興味はないけど、確かにキャス君の親に会えるのは楽しみだ。このじゃじゃ馬娘の育った環境がこれでわかるね。それによく考えたら、『ミスリル』の開発者でもあるのか。そうなると、魔力精製の話には興味があるな。ついでだから『ミスリル精製』の見学もしていこうか。そもそも……」
「ちょっと、そこ!二人ともなにぶつぶつ言ってるのよ!さっさと行くわよ!」
ディタールルの長い独り言が始まる前に、キャッスルのよく通る声が座標管理局内に響いた。そしてラバンとディタールルは互いに顔を見合わせながら笑みを浮かべ、キャッスルと共に座標管理局を出てすぐ目の前にある、『ヘルメス・ステーション』へと向かった。
「この時間だとお父様はもう家にいるわね、たぶん。うちは工場のすぐ近くだから、まずそこにジャンプしないとね。……ギャラルホルン工業ヴァン工場、と。さぁ、行くわよ!」
キャッスルはそう言うと、慣れた手つきで『ヘルメス』のタッチパネルを操る。そして一同は、オレンジ色の光に包まれ、セラ城を後にした。