【第13話】明星の戦士達
突然大典太を奪いに現れたシャックスを倒したラバン達。
しかし、シャックスは散り際に気になる言葉を残して消えました。
果たしてカルブリヌス達『ウルクの七賢人』の出自の秘密とは?
次々と人類のに迫る危機について明らかになる第13話、どうぞお楽しみください!
「ちょっと!あたし達があいつの攻撃受けていたの忘れないでくれる?!なにそっちで集まって話してるのよ!」
戦闘が終わり、元の胸当てに戻ったアイギスを装着したキャッスルが、ラバン達の元へ駆け寄ってきた。
「ごめんね、キャス。アイギスがあの姿になっていたものだから、安心してすっかり忘れていたわ。でも、さすがアイギス。無敵の盾は相変わらずね」
「カル姉さん、そんなことより、やはり現れたわね。『72柱』が……」
「ええ。今そのことを皆に話そうと思っていたの、アイギス。ついでだから、私達のことも……ね」
ラバンは、カルブリヌスと初めて出逢った夜に、これから訪れる人類の危機のことについては聞かされていた。恐らく、先ほど倒したシャックスというモンスターこそが、その話の核心に迫るものなのだろうと思っていた。しかし、ラバンの知りたいことは、そのことではなかった。
「―――『金星人』、確かそう言い残しましたよね、あのシャックスとかいうやつ……」
ラバンは居ても立ってもいられない気分だった。好奇心と疑問と、とにかく胸の高鳴りが止まらなかった。早く知りたい、そんなラバンの感情を察し、それをなだめるように、カルブリヌスは語り始めた。
「その通りよ、ラバン。私達『ウルクの七賢人』は、この星で生まれたのではないの。人間達が『金星』と呼ぶ、あの星から来たのよ。そう……、何千年も昔にね」
気づけば陽はだいぶ傾き、宵の明星が美しく輝き始めていた。
「なによ、それ!っていうことは……、あなた達、宇宙人ってわけ?!」
夕陽を浴びて黄金色に輝くアイギスをまとったキャッスルは、カルブリヌスとゲイボルグ、そしてアイギスに向けて忙しく交互に視線をやりながら、いつものように遠慮なくまくし立てる。
「そうね、キャス。あなた達地球で生まれた人間からしてみれば、そういうことになるわね。私達は、金星の守護者イシュタルの子。その母の意志によって、『七つの天門』の危機から人類を保護することが、私達に与えられた使命なの。そしてもう一つ。ある存在と、人類と共に戦うこと。そのある存在こそ、さっき戦った『72柱』と呼ばれている者達。この世界で、『悪魔』と呼ばれている、人間でもモンスターでもない者達よ」
「『72柱』?それはもしかして、『ソロモン72柱』のことかな?かの大魔導王ソロモンが封印したという……。そのあまりに強大な魔力の伝説にちなんで、今の魔法管理局の名前も『ソロモン』にしたって話だが、その伝説は本当だったのかい?オレが働いていた『セカンド・アトランティス』では、誰一人として信じちゃいなかったけどね」
その存在自体が嘘か本当かわからないような名前が出てきたので、ディタールルは思わず目を丸くして言った。
「ええ、本当よ。そもそも、『レメゲトン』のシステムを構築したのも彼……ソロモン王よ。『レメゲトン』は、魔法を使う際に削られる『エーテル』の負担を少なくするために、星の力を借りる為のシステムなの。それぞれの星は、この地球に存在する全ての『マテリア』の『アーキタイプエナジー(元型魔力)』をいまだに保持しているわ。火星には『イグニス』の力、水星には『アクア』の力、といった具合に。その力を借りることによって、人間でも強力な魔法を使えるのよ。でも、そのシステムは複雑過ぎて、当時はソロモン王にしか扱えなかったわ。さらに、とんでもない副産物を生み出したの。それが『72柱』よ。その時は、私達『ウルクの七賢人』の長がソロモン王を助け、事なきを得たのだけれど、今回はそう簡単にはいかないでしょうね……」
「そうね、カル姉さん。どうやら、三年前に『レメゲトン』が再構築されて、普通の人間でも魔法が簡単に使えるようになった代償に、『悪魔達』も本来の魔力を取り戻しているみたいね」
カルブリヌスとアイギスは、先のシャックスとの戦闘を思い出し、危機感をあらわにした。
「ちょっと待って!もしかして『72柱』ってことは、あんなのがあと71体いるってこと?!それに、魔法が使える代わりに出てきたですって?それって、そうなるの知ってたわけ?あの預言者―――」
「―――マーリン、ね」
興奮するキャッスルをなだめるように、カルブリヌスが三年前の預言を発表した男の名を出す。
「そうよ!預言者マーリンよ!いくら『七つの天門』に対抗するためだって言っても、そんな『悪魔』が出てくるの知ってたのだったら教えてほしいわよね!しかもあんなのが72体もいるわけ?下手したら『七つの天門』のモンスターよりたちが悪いじゃない!」
人類が戦う為にもたらされた魔法の力。その力の代償に、『悪魔達』が復活していたことはまったく知られていないことだった。そのことをカルブリヌスから聞かされたキャッスルは、やりどころのない怒りのようなものを感じていた。
「キャスの言う通り、『72柱』は72体いるわ。それら全て、私達……いえ、あなた達の手で倒さなければならないのよ。私達『ウルクの七賢人』の保有者となったあなた達には、その使命が宿ってしまったの。……改めて問うわ、ラバン。受け入れることができる?そして、キャス、ディタ、あなた達も」
すっかり陽は落ちてしまったが、今宵は満月だった。月の光に照らされ、カルブリヌスの刀身はいつにも増して、青白い輝きを放っていた。ラバンは、その美しく輝くカルブリヌスの柄を、迷うことなく強く握り締める。
「聞くまでもありません、カル姉さん。僕は……、一度決意したことは絶対に曲げません!」
「あたしもやってやるわ!なんかいろいろ隠されてて、このままじゃ悔しいもん!」
「ふふ、『72柱』か。しかし、ソロモンの伝説が本当だったとはね。伝説では、『72柱』の中には魔王クラスのやつもいるみたいだし、オレの『グラキエス』がどこまで通用するか楽しみだな。ゲイボルグ君、やっぱり君を持ち出して正解だったよ。どんどんあれに近づいているよ、ふふ……」
静かに地上を照らす満月の下、キャッスルもディタールルも、それぞれの思惑は違えど、『ウルクの七賢人』と共に戦っていくことを決意した。そしてラバンは、この戦いと、カルブリヌス達『ウルクの七賢人』の出自を知ったことをきっかけに、自分の果たすべき宿命がぼんやりと見えてきたような、そんな感覚を覚えたのだった。