【第10話】武器の使い方
武器は、扱う人によってその役割が違ってくるようです。
キャッスルの武器に対する想い。
ディタールルの考え方。
そして、成長するラバンの剣さばき。
新たなモンスターも登場する第10話、どうぞお楽しみください!
ディタールルとゲイボルグを加えて旅を進めることになったラバン達一行は、キャッスルが調べた座標ポイントに向けて出発していた。
「ふぅん、二重人格ねぇ。ゲイボルグ、あなたもいろいろ大変なのね」
「じ、自分、槍なんで…、気にしてないです…はい」
キャッスルはゲイボルグとディタールルに交互に視線をやりながら、哀れむように言った。
「おいおいキャス君、なんでオレの方をちらちら見るんだい?こいつはオレがいなかったら、ずっとあの研究所に監禁されてたんだぜ」
ディタールルはキャッスルの哀れみの視線に気づいたようだった。
「だって、槍をアンテナ代わりに使っているですって?!そんなの、武器として生まれてきたゲイボルグがかわいそうだわ!あたしは鍛冶屋の娘なんだからね!武器は武器として使ってあげなさいよ!」
武器の扱いに関しては、キャッスルはいつもの倍くらいうるさいようである。
「ふう…、君こそよくわかっていないようだね、キャス君。君はなぜ彼らが『賢人』と自らを称しているのか、考えたことはあるのかい?『ウルクの七賢人』はただしゃべることのできる武具だと、そう思っているのかい?」
ディタールルはあきれた表情丸出しでキャッスルに反論する。
「それは…、金属がしゃべるんだから、賢いからでしょ!」
キャッスルが苦し紛れに、答えてみる。
「結局しゃべる武具だと思っていたようだね、キャス君。いいかい、そもそも彼らは…」
「その推論はまたゆっくり聞かせてもらうわ、ディタ。今はとにかく、五振りの刀を見つけることが先決よ」
アイギスがディタの話を遮るように、今の目的に意識を向かわせる。実際今は獣道程度の道を進んでいるが、いつモンスターが現れてもおかしくない雰囲気だ。本来なら、おしゃべりをしている余裕はない。
「本当にこんなところにあるんですか、アイギスさん?」
ラバンが不安そうにたずねる。
「大丈夫よ、ラバン。座標ポイントはしっかり記憶しているから」
「でもなんでこんなへんぴな場所に置いてるのかしら。そんな大事な刀なら、もっとちゃんとした場所で保管しておけばいいのに」
キャッスルも素朴な疑問を投げかける。
「キャス、その答えは着いた時にわかるわ」
アイギスは五振りの刀について、何か知ってはいるようだが、それ以上は語ろうとはしなかった。そしてしばらく歩くと、ごつごつとした岩肌が見えてきた。
「ラバン、気をつけて。この感じは…、『石門』が開くかもしれないわ」
カルブリヌスがそう言うと、目の前の岩肌がみるみる変化し始めた。そして、人間より一回りは大きいであろう、人型の岩のモンスターが現れた。動きは遅いが、ラバン達めがけて襲いかかってきた。
「あれはゴーレムよ。素体は見ての通り石だから、ちょっとやりづらいわよ」
「なるほどね!よし!さぁ、ラバン、ディタ、頼むわよ!」
カルブリヌスの説明を聞き、刀はまずいと確信したキャッスルは、威勢良く二人に指示を出す。
「やっぱり僕らなのね。ディタさん、石にも氷の魔法は効くんですか?」
「ふふ、まぁ見ていたまえ、ラバン君」
そう言うと、ディタールルはゲイボルグを掲げ、詠唱を始めた。
「<コギト=エルゴ=スム><エウォカーティオン=グラキエス><マグナフリズ>」
ディタールルの前に現れた黒い魔法陣から、冷気がほとばしる。するとゴーレムは凍りつき、身動きがとれなくなった。さらにディタールルはゴーレムの右半身をゲイボルグで叩きつけた。ガラスの割れるような音とともに、ゴーレムの右半身は砕け散った。
「ラバン君、ほら、今だよ。『コア』が丸見えだ」
その息もつかせぬディタールルの攻撃に釘付けになっていたラバンは、はっとして、カルブリヌスで砕けて『コア』があらわになった右半身めがけて横なぎに斬り込んだ。そして、『コア』ごと凍りついたゴーレムを上下真っ二つにすると、どぉんという落下音とともに、ゴーレムはばらばらとただの石へと還っていった。
「思ったより凄いな、カルブリヌス君の切れ味は。まさかオレの氷ごとゴーレムの体を真っ二つ、なんてね。オレの補助は必要なかったかな?」
無我夢中で斬ったラバンは、ディタールルの声を聞いて我に返った。
「い、いえ、ディタさんが『コア』の位置をわかりやすくしてくれたおかげです。というか、僕自身もカル姉さんの切れ味にはびっくりしてますが…」
確かに今まで何度もカルブリヌスでモンスターを斬ってきたラバンだったが、無我夢中だったとはいえ、石ですらも簡単に斬れるとは思ってもみなかった。
「それにしても氷の魔法って凄いですね!まさか石まで凍りつかせるとは思いませんでした」
「これが『グラキエス』の素晴らしさだよ、ラバン君。同系統のモンスター以外、すべて有効に死へと導くことができるのさ。生命の活動を静かに停止させる…、それが氷の魅力だよ」
ディタールルはそう答えながら、うっすら笑っているようだった。
「なかなかやるわね、ディタ。でも二人とも油断しないで。まだ来るわよ」
カルブリヌスが注意を促した次の瞬間、ゴーレムが二体、新たに出現していた。
「ラバン君、次は二体同時にいくよ。さぁ、凍りつけ!」
そして再びディタールルが魔法召喚すると、今度は二体同時に凍りつかせた。先の戦闘で『コア』の位置を把握したラバンは、袈裟切りに一刀両断する。そして一体、二体と、順番に大きな音をたてて崩れ落ち、石へと還っていった。
「いつまでもゴーレムを相手にしているわけにはいかないから、急いで先に進みましょう」
戦闘の様子を見ていたアイギスがそう提言し、一行は足早にその場を後にした。
「なによ、ディタ。なんだかんだ言って、ゲイボルグ、ちゃんと武器として使ってるじゃない?」
走りながら、キャッスルが少し嬉しそうにディタールルに言った。
「まぁ、ラバン君にとどめをさしてもらう為にね。それにオレは、武器として使わないなんて言ってないしね。でもあれぐらいじゃ、ゲイボルグ君も覚醒しないみたいだね」
「じ、自分、好きなように、使ってください…」
確かに、ゲイボルグはまだおとなしい方の人格だった。
「それにしても、あの荒々しかったゲイボルグ兄さんが嘘みたいね。これだけ真逆の性格だと、笑えてくるわ」
アイギスも、自分の知っているゲイボルグとのあまりのギャップに、思わずくすくす笑いだした。
そして、小走りに岩肌を抜けたラバン達の目の前に、小さな祠が見えてきた。辺りは静寂に包まれていたが、その祠の中からは、なにやら気配のようなものが流れ出ているのを、その場にいた誰もが感じとっていた。