表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロー  作者: 山都
第六章 進化と憎しみ
95/97

進化 4

「正しくなんてない」

 それだけは確かだ。それが憎しみからきていたとしても、誰かを守る為にやらなくちゃいけないことだとしても、結局、人殺しは人殺し。それだけは、変わらない。

「けど僕は皆を守りたい。そしてお前らは人を殺す。お前は殺した!」

 そうだ、だから殺す。それ以外の理屈も理由もいるもんか。必要なんて、どこにもない!

「決着をつけよう」

 あふれ出る力を、右腕に収束させる。拳が発光。集めた力は今にも暴走しそうだ。僕はそれを無理矢理に押さえこんで、一箇所にとどめる。

「なめるなよ。俺を」

 田上の右腕が暗く発光する。黒い力が田上の手に集まっていく。それは動物じみた腕をさらに変化させ、より凶暴でより野性的に変化させていく。

「久坂ァ!」

 田上が吼えた。そして前に出る。

「お前は!」

 僕は叫び、地面を蹴る。

「俺が殺す!」

「僕が殺す!」

 お互いの拳が、黒い光と白い光が、真っ向から衝突した。

 途轍もない衝撃が川原に走る。水は波打ち雑草は吹き飛ばされ土が舞う。

 田上の強大で禍々しい力が僕の力を押さえこもうとしてくる。力を全力で解放し、僕を消し去ろうとしてくる。

 僕も力を全て解放する。田上を消し去る為に、殺す為に、全力を放つ。

 さらなる衝撃が仮想空間の中に走った。黒と白の光が造られた世界を包み込む。僕らの視界はその光に染まっていく。




 



 結局、僕も田上も、同じなんだ。

 殺してから殺されたのか。殺されてから殺したのか。それだけの違い。

 自分のわがままで命を奪う。誰かを生かすため。自分が生きるため。そのために、犠牲を生む。

 どっちも正しくなんてない。犠牲にきっと、正しさなんてない。だから僕のちっぽけな正義はそれを受け容れられなかった。完全な正しさを求めていたから。

 父さんを殺した田上が憎い。仲間を殺した僕が憎い。

 だから僕は田上を殺す。だから田上は僕を殺す。

「ふざ……けんなよ……」

 ボロボロになった田上がそこに倒れていた。エニティレイターと変異種の入り混じったその姿を辛うじて保っている。

 あたりは何もかもが吹き飛んでいた。川の水はその大部分がなくなって、川原の表層の土や草は消し飛んで、僕らのいる場所は三メートルほど陥没している。川原にかけられていた橋は様々な箇所がかけ、なんとか骨組みが残っている状態だった。廃工場や高級マンションにはヒビが入っていた。窓ガラスは全て割れている。あの光の衝撃がつけたものだ。

 僕はそこに立っていた。血を流しながら倒れている田上を見つめている。

 力は、完全に僕のほうが勝っていた。エニティレイターよりも強いこの力は、父さんのくれたこの力は、負けなかったんだ。

「俺が、こんな所で死ぬ? 嘘だろ……?」

 田上の姿が人間のそれへと戻る。左肩から先はなく、先程の衝撃で右腕もその半分以上を失っていた。瀕死の状態。僕が何もしなくても、いずれ死ぬ。

 数秒後。

 突如、田上の身体が黒くなっていった。人のその姿が、変わっていく。

「嫌だ。待ってくれ。まだ死にたくない。まだ俺は、俺は……っ」

 全身が黒く染まる。田上の表情はわからなくなっていた。そして、その身体は蠢き、這い、暴れまわり、そして、爆ぜた。

 田上の肉片が周囲に撒き散らされる。その一部は、人間のものではなかった。おおよそ生物のものでもない。機械のような、そんな身体。エニティレイターのような。

「アハ……アハハハハ……」

 やった。田上を殺した。父さん。俺はやった。やったよ。

 僕の身体が人間に戻る。頬には田上の肉片がついていた。血が撒き散らされている。足元にはちぎれた指が転がっている。

 やったんだ。憎くて、憎くて、憎くてしょうがなかったあいつを、殺したんだ!

「アハハハハハハハハハハハハ!!!」 

 最高だ。最高の気分じゃないか! なあ、そうだろ? そうに決まってる!

 なのに何で、涙が出るんだ。 

 ――あなたの正義は、それでいいの?

 天月の声が聞こえてくる。

 ふざけんなよ。正義を持っていたら、何かが変わるのかよ。結局、僕はこいつを殺さなくちゃならなかったんだ。正義なんてろくにわからなくても、闘えるんだ。そっちの方が迷わなくて済むんだ。だったらいらないじゃないか。そんなもの。

 それなのに。そのはずなのに。僕の涙は、止まらない。

「ハハハハハ……アハハッ……ハハ……」

 仮想空間の中に、僕の声が空しく木霊する。

 こんなのじゃ駄目だ。僕の心が、そう訴える。

 勝手だ。どいつもこいつも。その結果どんなことになるかなんて、誰も考えちゃいない。ただ、正しさの存在だけを問いかけてくる。

 遠藤も、天月も、父さんも、田上も、僕自身の心ですら。

 だから、僕は。

 何にもならないとしても。何も変わらないとしても。

 その結果苦しみしかなくても。その結果辛い事になったとしても。

 ああ、それでも、そうだとしても。

 僕は、正義が欲しい。

 涙を流しながら、僕は心の底から強くそう思った。





感想評価あったらお願いします。

つかこれで大体六章終わりが。なんかすげえ詰め込んだ気になってたけどそうでもないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ