最後の一人 2
エニティレイターのような身体。背中と足の裏のバーニア。腰の拳銃。腕に内蔵されているナイフ。全身の色は黒ではなく、真っ白。そして、決定的に何かが違う。
これは、強い。
地面を蹴る。一瞬で間合いが詰まった。田上は反応できてない。無防備な腹が、僕の視界に映っている。
それを全力で殴った。肉を抉り、衝撃を与える。変異種のその身体が向こう岸まで吹き飛んだ。その距離、五百メートル。
「ハハハ!」
笑いがこみ上げてくる。最高だ。この力は。
この力があれば絶対に負けない。エニティレイターの何倍もこの身体は強い。勝てる。殺せる。あいつをぶっ殺す事ができる。
――この力の使い道は、お前が選べ。
頭の中に響くその声を無視する。聞こえないフリをする。
僕は跳躍し、バーニアを使って一気に向こう岸まで飛んでいく。その速度を維持したまま、起き上がろうとする田上の顔面に、蹴りを叩き込む。土手に他の上の身体が激突する。顔、そして腹部から血が流れ出てくるのが見えた。
僕は両腰の拳銃を手に取る。二丁の拳銃を連射して、田上の身体に弾丸を撃ち込む。田上は身体をそらせ、そして絶叫。その身体を無数の弾丸が貫通していく。
田上に接近。間合いに入ると同時に田上の顔面を掴む。土手に半ばめり込んでいるその身体を引き剥がし、顔面を地面に押し付けた。
ナイフを取り出す。超振動を起動させる。それを田上の背中に突き刺す。
「ぐ……ああっ!!」
田上が吼えた。同時に、巨大な羽が僕の視界を被った。前が見えなくなる。身体が後退する。しとめ損ねた。
空中を見上げると、ナイフを腹部から引き抜く鳥の変異種がいた。その巨大な翼を羽ばたかせ、宙に浮いている。全身から血が滴り落ちている。傷を再生しようと、ミミズのような肉が蠢いている。
「さすがだよ、久坂。自称ヒーローってだけのことはある」
「何だよそれ。余裕のつもり? けど、もうすぐ君は死ぬ。僕が殺す」
「久坂、お前そんなやつだったか? 俺の知っているお前は、ただのガキで偽善者みたいなヤツだったのに」
「そんなの、どうでもいいんだよ」
脚力とバーニアを使い、空中に浮かぶ田上の目の前に立つ。
「僕はお前が殺せれば、それでいい」
銃口を田上の腹部にねじ込んだ。引き金を引く。弾丸が再生しかけの肉を貫く。僅かに黒味を帯びた血が、真っ白な僕の身体に降りかかった。
「お前は父さんを殺した。だから殺す!」
「……自分勝手過ぎて反吐が出る」
田上が僕の腕を掴んでいた。手首が捻られ、銃口が上を向く。
「先に仕掛けてきたのはお前らだ。俺の仲間を殺したのはお前らなんだ。だったら、俺にだって復讐する権利があったっていいだろう? 」
「そんな理由で父さんを殺したのか!」
「そんな理由だと?」
田上のもう一方の手が、僕の身体を押さえつける。
「やっぱりお前、ムカつくな」
僕の身体を押さえつけながら、田上が急降下。僕の身体が地面に激突する。土が舞い上がる。僕らの身体にそれが降りかかる。
「結局お前は、お前の事しか考えてない。なあ、久坂。お前は誰かのことを考えた事があるのか? 人の命を奪うということが、本質的にどういうことなのか考えた事があるのか? お前は、お前が人を殺すと言う事しか考えた事がないんじゃないのか? 」
「何を……っ!」
「お前が殺したやつらにはな、親がいて、兄弟がいて、友達がいて、それをお前は殺したんだ。お前は、お前が人殺しをするということしか考えていなかっただろう? 今日だってそうだった。自分が人殺しをしたという事実だけ受け止めて、そこから何もしようとは思わなかった。遠藤の両親がどれだけ悲しんでいるのかお前は見ただろう? 笹倉が泣いているのをお前は見ただろう? それなのにお前は、あの場から消えた。自分の事しか考えていない。他人の悲しみを受け容れようとなんて、していない」