怪人 3
ここはきっと、僕の知っている街じゃない。
全身から力が抜けて、僕はその場に座り込んでしまう。直後、コンクリートが砕ける音とともに、僕の上を何か巨大なものが通過する。
「うわっ!」
風圧で僕の身体が吹き飛ばされた。近くでメキメキと木が折れる音が聞こえる。僕の視界には吹き飛ばされた屋根が映っていた。
何かが背中に当たり、僕の身体が止まる。痛みは後からやってきた。
自分の目の前で起こったことが信じらず、痛みに意識が向かなかったからだ。
「あ……あぁ……」
屋根が無くなっていた。そして目の前には赤い豚がいる。その手に持っている巨大な斧で、この家の上半分を吹き飛ばしたのだ。
赤い豚が僕に向かって手を伸ばしてくる。
――に、逃げなきゃ……
そう思っているのに、僕の足は動いてくれない。
怯えることしかできない。
僕の身体を巨大な手がつかんだ。そのまま僕は上へと持ち上げられる。
身体を締め付ける力は徐々に強くなっていった。豚の低いうなり声が僕の心臓の音と共に耳の奥で鳴り響いた。
――ここで死ぬ?こんな訳の解らない状況で?
僕はついさっきまで自分の家で寝ていた。その前だって、何も無かったわけじゃないけど、極めて普通の生活を送っていたハズだ。死ぬようなことなんて、こんな状況に陥るなんて、絶対にありえなかったハズだ。
それなのに。
心臓が大音量で鳴り響く。息が荒くなり、頭が内側から殴られているかのような感覚に見舞われる。見慣れた街と似ている何処かは、僕には何所もが歪んで見えた。赤い豚は僕を見ていた。荒々しい吐息が吐かれている。
僕は力を振り絞って暴れた。ただこの巨大な化け物から逃れたくて暴れた。言葉にならない声を上げ、身体の束縛を解放とうとして暴れた。
それでも僕は逃げ出すことができない。僕を押しつぶす力は増す一方だ。
――痛い、痛い、痛い!
肉が圧迫される。
骨が軋む音がした。
全身が引きちぎられそうな痛みを感じた。
そして、僕は死を覚悟して――
僕の目の前にヒーローが現れた。