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ヒーロー  作者: 山都
第六章 進化と憎しみ
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最後の一人 1

 唐突に、全身に嫌な感覚が走った。なんだこれ。気持ちが悪い。怖気が走る。身体の中がぐちゃぐちゃに引っ掻き回されるような――

「久坂、それに天月……? どうしたんだよ、こんな所で……」 

 路地から現れたのは田上君だった。

「でっかい声が聞こえてきて何事かって思ったら、二人がいて……一体、何があったんだ? 」

 田上君は僕らの事を心配そうに尋ねてくる。その僕が目を見て、瞬間。

 身体が動いた。反射的に動いた。僕はそいつの首を掴み、ブロック塀に叩き付けた。うめき声が聞こえてくる。それをかき消すように、両手を使って首を絞める。

「く、久坂……? 」

 目の前に映るのは、苦しそうな表情。焦りの眼差し。困惑している。何故僕が首を絞めてくるのか。

 だけど、こいつは、こいつが!

「君だったのか。意外だったよ。でもまあ、どうでもいいや。こうやって見つけられた。僕は君を殺せる。最高の気分だ。君を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺してやる!」

 確信があった。こいつだ。こいつが父さんを殺した変異種だ。

 頭の中がぐちゃぐちゃになる。身体のなかがかき乱される感覚は続いていた。真っ黒なものが僕の中で渦巻いている。僕にこいつを殺せと。

「駄目、久坂君!」

「うるさい。黙ってろ。こいつは父さんを殺したんだ。それなのに生かしておけるか。こいつは殺す。僕が殺す!!」

 僕が叫んだその数秒後、僕の指が田上君の喉元に食い込んだその瞬間、目の前の身体が人間のものから変異種のものへと変わっていく。知っている。さっき見たばかりだ。巨大な羽と大きな爪を持った、鳥の変異種。

「やっぱりそうだ。嬉しいよ。君に会えて!」

 顔が勝手に笑みを作る。変異種の喉元にさらに力を加える。そうだ。殺す、殺す、殺す!

 変異種が唸る。僕の身体を弾き飛ばした。背中が電信柱に直撃する。後頭部を打った。そして、視界には僕に突撃してくる変異種が映っている。

 僕は変異種の爪を避け、背後に回った。変異種の爪はブロック塀に突き刺さり、動きが止まる。

 ――動きは止めた。これでいいんだろ? 

 そして、僕らは仮想空間に飛ばされる。真っ白な膜が僕達を覆う。

 





「いつから気づいていた」

 鳥の変異種が口を開く。僕らは対峙していた。場所は川原。いるの僕ら二人だけ。ここは余計なものがあまりない場所だ。思いっきりこいつを殺せる。

「さっき見たときに直感したんだ。君が変異種だって。それに、君がそうだって考えると、色んなことの辻褄があう」

 何故田上君が同好会に戻ってきたのか。何故天月は田上君に「観察されている」と感じたのか。何故田上君の行動に違和感を感じたのか。

「君は僕と天月を観察するために同好会に戻ったんだろう? 変異種の敵である天月。それに関わっている僕。僕らが一体何をするのか、手っ取り早く知る為に同好会に戻ったんだ」

 遠藤はあの時言った。「なるほど、大体わかったぜ。お前がどんなヤツなのか」と。遠藤は最初から気づいていたんだ。だからあんな事を言った。

「正解だ。全くその通りだ。そうでなかったら、あんな子供だましの奇麗事なんかに付き合う気にはなれない」

 田上君は、いや、田上は暗い声で喋る。こいつも同じだ。僕と一緒で相手を殺す事を決めている。

「家庭の都合で教師を止めた菊池里香。交通事故で死んだ鈴木達也。転校していった内藤光。そして、脳内出血で死んだ遠藤光一。全部、お前らの仕業だろう? 笑わせるよな。正義の味方だのヒーローだの言っている割には、やっている事はただの理不尽な人殺しなんだから」

「知ってるさ」

 知ってる。わかってる。でも僕はやる。

「ムカつくんだよ、久坂。悩んでますって態度して。でも僕は正しい事をしてますって面をして。けど、お前のやってるのはただの人殺しだ。俺達が何をした? 何もしてない。それなのにお前らは俺たちを殺す。許せないよ。どうしたって許せる事じゃない」

「僕だってそう思ってる」

「なんだと?」

「父さんを殺した君を許せない。お前を殺したくてしょうがない」 

 ぐちゃぐちゃだ。何もかも入り混じって、一つになって、その目的一つの為に集中していく。

 殺す。

 ただその一つのために、僕の全てが変わっていく。

 僕は右腕につけた腕輪を起動させた。

 父さんがくれた力。僕を信じて託した力。でも駄目だ。僕はどうしようもない。こいつを殺さないでいることなんてできない。

《遺伝子称号クリア。エヴォルヴ・システム起動》

 僕の身体が作り変えられる。姿を変える。

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