欠落と憎悪 7
「これは、エヴォルヴ・システム……特異種のデータを元に創り上げえた、お前にしか扱えないものだ……」
父さんの口からは血が流れ出ていた。それでも、最後の力を振り絞って、僕に語りかけている。
僕は腕輪を、エヴォルヴ・システムと呼ばれるそれを受け取った。
「この力の使い道は、お前が選べ」
「僕が、選ぶ」
「そうだ。他人の言う何かの為じゃなく、お前の思う何かの為に、この力を使え。それが例えどんな事でも、それが、お前にとっての正義となる。俺は、そう信じている」
「僕にとっての正義……?」
「結局、全ては自分の意志で決めるしかない……勝手なことを言っているのはわかっている。だが、お前にはそうして欲しい」
父さんの身体から力がなくなっていく。僕はそれを見ていることしかできない。
どうして。僕は守る為に、決めたんじゃないのか?そのために遠藤を殺したんじゃないのか?それなのに、どうして父さんが死のうとしているんだ?
おかしい。間違ってる。こんなの、絶対に狂ってる。
「……すまない。お前に、辛い事ばかり押し付けて……できればお前には、普通の生き方を……して……欲しかっ……」
その目から、光が消えた。力を失った腕が血の水溜りに落ちて、音を立てた。
父さんが、死んだ。
何も聞こえない。静かだった。
人が死ぬと言うのは、こんなにも静かなものなんだ。そこにあったはずの命が、消える。けれど、世界はそれに対して嘆きも悲しみもしない。ただ、命が消えた、その事実を突きつけるだけ。
「父さん……」
僕は結局、守れなかった。決めたはずなのに。覚悟をしたはずなのに。それでも僕は、大切なものを守れなかった。
涙はでなかった。虚無感だけが、僕の身体を支配する。
何も、守れなかったんだ。守りたかったのに。だから、遠藤を殺したのに。大きすぎる犠牲を払って、それでも迷って、だから、僕は、僕は……。
そしてこみ上げてくるのは、黒い感情。父さんを殺した変異種に対する、真っ黒な憎悪。僕の欠落した「何か」があった部分に、それが流れ込んでくる。
「……ろしてやる……」
こんな感情に流されちゃいけない。遠藤と父さんが僕を信じてくれたんだ。僕は正しく生きることができるって。
わかってるさ。知ってるさ。でもさ、許せないだろう?父さんを殺したんだ。あいつは。だったらどうする?答えは一つしかない。ああ、そうだ――
この感情を止める事ができない。絶え間ない怒りと憎しみを、押さえつける事ができない。
――あいつを、あいつを、あいつを、あいつを、あいつを!
「殺してやる!」
僕は叫ぶ。その手には『力』があった。僕が正しく生きれると信じてくれた、父さんから託された『力』が。それなのに僕は、間違おうとしている。そして僕は、それを望んでいる。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる――!」
駄目だ。僕はこの衝動を抑えられない。