欠落と憎悪 6
展開が速すぎるってのも、ありだと思うんですよ。
前半が遅かった分ね。
僕は何かに体当たりをされていた。身体が壁に激突して、背中に衝撃が走る。
「が……っ」
窓ガラスの破片がリビングに散らばっていた。チラシや学校のプリントや、イス、机などの家具がそれが入ってきたときの風圧で、吹き飛ばされていた。
僕の目の前には、大きな翼を背中に生やした生き物がいた。人のような身体に、巨大な翼。両腕は太く、巨大な爪を持っていた。
――変異種!
多分、鳥の変異種だ。そいつが僕の身体を壁に押し込んでいる。骨の軋む音が聞こえた。
「大丈夫か、英志!」
父さんが叫んだ。一瞬、変異種の意識がそちらに向く。僕を圧迫する力が緩む。
僕はなんとか腕輪を操作して、解除コードを打ち込んだ。
《コード認証。ヴァリアント・システム起動》
エニティレイターとなった僕は、鳥の変異種を蹴り上げた。巨大な翼を持ったそれが、天井に激突する。
僕はナイフを握り、跳躍する。変異種に向かって、ナイフを振りかざす。
翼が動いたのが見えた。変異種の身体にナイフを衝きたてた瞬間、真横から叩かれる。僕の身体は一秒もしない内に壁に当たり、そして床に落下した。
「クソッ!」
僕は起き上がり、拳銃を手にした。銃口を変異種へ向ける。
だがすぐに引き金を引けなかった。
――あれだって、人だ。
引き金を引く指が重く感じた。けれど。
――それでも、覚悟を決めたんだ!
拳銃から弾が吐き出される。数発の弾丸が、変異種へと直進する。
変異種はそれを受けながら、僕へ突っ込んできた。弾丸は変異種の肉を抉り、貫通する。血を噴出しながらも、変異種は僕に向かってくる。
変異種の身体が僕に直撃した。また、壁と変異種にはさまれる。かすかなうめき声が、僕の口から漏れる。
「英志!」
父さんの声が聞こえる。
「ここから離れてて、父さん!」
僕は変異種の身体を押し込みながら、叫ぶ。
その時だった。
「お前も、俺と同じ気持ちを味わえよ」
変異種が、そういった。
――は?こいつ、何を言って……
変異種のいった言葉が一体何のことなのか理解する前に、変異種の身体が僕からどいた。
そして。
変異種は父さんへ、向かっていった。
まさか、変異種は、父さんを……!
「やめろ……」
銃を撃った。弾丸が変異種の背中に命中する。だが、そいつはとまらない。真っ直ぐに父さん目掛けて。
――なんなんだよそれ、ふざけんな!
僕はバーニアを吹かした。変異種へ手を伸ばす。父さんの腹を切り裂こうとする変異種に。
「やめろ!!」
叫んだと同時に、血飛沫が舞った。僕の手が変異種を掴む。僕の身体に血が降りかかる。
変異種の手が、父さんの身体を裂いていた。腹には深すぎる傷。血を噴出しながら、父さんは倒れた。鈍い音が聞こえてくる。
僕の手はだらり、と力を失う。足は僕を支えれなかった。膝をついた床には、真っ赤な血が広がっている。
なんなんだよ、これ。
変異種が僕を蹴り飛ばした。僕の身体はイスや机にぶち当たる。天井が見えた。そこから血の滴が僕の顔に落ちてくる。
「嘘だろ……?」
僕は起き上がった。目の前には、鳥の変異種がいた。その向こうで、父さんが倒れていた。血を流して、僅かに身体を呼吸させながら。
――選択しろ。覚悟を決めろ。今、お前が本当に守りたいものは何だ?本当に守るべきものは何だ?
遠藤の言葉が頭の中で反芻される。
決めたはずだったのに。守りたいものの為に、変異種を殺すって決めたはずだったのに。
僕は迷ってしまった。引き金を引く事を一瞬、躊躇った。もしも迷わなければ、変異種の手は、父さんを傷つけなかったかもしれないのに。
「何、驚いてんだ」
鳥の変異種が口を開く。
「お前だって、同じことをやってるだろ?」
僕は腹を殴られた。膝が折れ曲がる。抵抗する気力が起きなかった。
父さんの身体からは内臓が見えていた。グロテスクなそれが、傷口からこぼれ出ていた。父さんの目は僕を見ている。エニティレイターとなった僕を、悲しそうな目で見ている。
変異種がその大きな手で、僕の腕を掴んだ。僕は吊り上げられる。
「お前はここで――」
そう言いかけた変異種は、何かに向けて舌打ちをした。
「――わかったよ」
変異種は僕の身体を地面に叩き付けた。そして、ガラスの割れた窓へと向かい、そして飛び去っていく。
僕と父さんが、部屋の中に残された。
「……英志、いるのか……」
今にも消えてしまいそうな声が、僕の耳に届いた。僕はヴァリアント・システムを解除し、父さんの元へと、歩く。
「いるよ。ここにいる」
父さんから流れでる血は、止まりそうに無い。傷口は深すぎて、内臓も傷ついている。たいして医学の知識の無い僕だって、父さんが助かりそうに無いって事はわかる。
「お前に、渡すものがある」
父さんはそういうと、ポケットから腕輪を取り出した。それはヴァリアント・システムとよく似ていて、けれど決定的に何かが違っていた。漠然とした、具体的には説明できないけれど、気配のようなものを、その腕輪からは感じる。
現在、改訂版を製作中です。
主な変更点は、三人称視点といらない描写の削除ですが。
あと、複線を色々と張ってみたりしてます。
四章終盤までできたら、UPするつもりです。