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ヒーロー  作者: 山都
第六章 進化と憎しみ
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欠落と憎悪 5

「俺はお前ともう一人、亡くなった親友の娘を知り合いに預け、各地を動き回った。整形を繰り返し、いくつも名前変えて、ようやく政府の目をごまかす事ができた。お前が母親だと思っていたのは、俺の昔の友人だ。お前はあの、俺の親友の娘と仲がよかったらしい。よく、一緒にヒーロー番組を観ていたそうだ。だが、政府の目を撒いた俺が、お前達を引き取るために友人の家を訪れると、親友の娘はいなくなっていた。さらわれたらしい。犯人は、政府の連中だ。研究の為に、外国を含めた各地で子供を拉致し、人体実験やヴァリアント・システムの起動実験を繰り返していたようだ。確かあの子がいなくなったのは、お前が七歳の頃だったか」

「父さん、ちょっとまって」

 僕の頭の中に、ある一つの考えが浮かぶ。

 父さんの親友の娘。つまり女の子であり、僕が七歳の頃に政府の機関にさらわれていた。ヴァリアント・システムを扱う為の、訓練を受けている。

「その子の名前は?」

「天月葵だ」

 そういうことだったのか。

 これでまた、謎が一つ解けた。

「あの子がこの街に来たことを知ったときは、素直に嬉しかったよ。生きていてくれてな。けれど、あの子は知らなくてもいい世界を知ってしまった。本来ならば、あたりまえの女の子でいられるはずだったのに。知らなくてもいい世界で、彼女は闘っていた。あの子をそんな世界から救いたかった。けど、あの子にはあのまま、闘っていて欲しかったよ」

「それ、どういう意味?」

「一ノ宮がお前をエニティレイターとして闘わせる為に、この街に来たことは知っていた。だから、あの子を犠牲にしてでも、お前を巻き込みたくないと思った。あの子が闘ったままでいれば、お前が闘わなくてもいいから。なあ、英志。俺はお前の事を本当の息子だと持っているんだよ。おこがましいだろう? 俺の都合で勝手に産み出したお前を、本当に大切に思っているんだ」

 知ってるよ。父さん。父さんが、僕の事を大切に思ってくれてることなんて。

「お前に闘って欲しくなかった。だがお前は、闘ってしまった。あの遠藤という子は、お前の為に決断をしてしまった。お前はもう引き返さないだろう。俺が親友を死なせ、あの人を死なせ、政府の施設から脱走したように、お前はあの子の死を背負って、闘うだろう?」

 そうだ。その通りだ。僕はもう決めた。絶対に引き返さない。そんな選択肢、存在しない。

 父さんは父さんなりに、追い求めるものがある。僕には僕なりの、求めるものがある。

「……ありがとう。話してくれて」

 辛かったと思う。思い出したくも無かった事だったんだろう。それでも、話してくれた。過去の思い出したくもない事を引き起こして、僕に話してくれた。

「あ、ああ……」

 父さんはまだ何か口を開こうとしていたが、黙って俯いた。それから暫く、無言が続く。

 何かを喋る気にはなれなかった。それは多分、父さんも一緒だ。

 静けさを破ったのは、携帯電話の着信音だった。僕のポケットから、音が響いている。

 僕は無言で、携帯を開く。一ノ宮博士からだった。僕は通話ボタンを押す。

「久坂君!聞いてくれ!」

 とてつもなく大きな声が、僕の耳に響く。

 一体どうしたんですか、そう言う前に、一ノ宮博士が叫ぶ。

「君の家に変異種が向かっている!移動速度が早すぎて、仮想空間に転送できない!すまないが、迎撃して動きを――」

 直後、目の前の窓ガラスの割れ、何かが家の中に突っ込んできた。


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