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ヒーロー  作者: 山都
第六章 進化と憎しみ
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欠落と憎悪 3

「あんたは、僕に何をさせよとしてるんだ」

 僕の宿命?父さんが全てを知っている?何のために存在しているか?進化の力?限りない究極の力?

 この男は僕を導こうとしている。けれど、それがどんな結果なのか、僕にはわからない。

「さっきも言っただろう。君に正義の味方になって欲しいのさ。人類を守る、ヒーローにね」

 飄々と、さも当然のように、そんな事を言う。

「……何が正義だ。何がヒーローだ。ふざけんな。あんたの言ってる事は、ただの人殺しじゃないか!」

 例えその結果、誰かを救う事ができたとしても、その事実だけは変わらない。

 誰かを守る為に内藤君を殺し、誰かを救う為に遠藤を殺した。それが正義だなって、やっぱり僕は思えないんだ。

 求める正義がわらなくなって、信じたい正義がわからなくなって、それでもわかる事がある。

 今の僕には、正義なんかない。

 なあ、遠藤。僕はやっぱりガキなんだよ。お前が言ってくれた言葉、誰でも救えるわけが無いって言葉、僕にはどうしても、正義だとは思えないんだ。全部を救いたいんだ。できない事だって、わかっているけれど。

「どうして君たちはそうも、奇麗事に縛れるんだい?変異種を殺さなければ、どうなるか、わかっているはずなのに。殺さずにはいられないだろうに。そのくせ、奇麗事に苦しめられている。馬鹿らしくて、笑えてくるよ」

 そんなことはわかっている。知っている。僕の考えなんて、所詮は奇麗事だ。それを割り切らせる為に遠藤は死を決意したんだし、僕はそれを消し去る為の覚悟を決めたはずなんだ。

 人殺しの選択をした。変異種を殺す覚悟はある。人のために、人を殺すのはもう、迷っちゃいけない。

 けれど、割り切れない。割り切れないんだ。

「どっちにしろ、君はもうヒーローになるしかない。君自身でその道を選ぶだろう。あとは全てを知るだけだ。君が本物のヒーローになるために」

「……ヒーローって、なんなんですか」

「人類を救う、英雄の事だよ。変異種という敵から、全ての人類を守る、絶対の救世主(メシア)。それがヒーロー。それが君。全ては陣内博士――いや、君の父親が知っているよ。訊いてみれば、全てがわかる」

 目の前のこの男は笑っていた。笑っていたんだ。

 ――こいつ!

 けれど、僕は殴らなかった。一ノ宮博士の胸倉を、僕は手放していた。

「ふぅん。意外だったよ。君はてっきり、殴ってくるものかと思っていた」

「あんたなんか殴っても、何も変わらない」

 もしこの男を殴って全てが解決するのなら、何度だって殴ってる。でも、殴ったって何も意味が無いんだ。 

「帰ります」

 一人になりたい。けれど僕は、家に帰って父さんに訊いているだろう。知らなければならない。命令されている訳じゃない。けれど、知りたい。

 僕の宿命を、父さんの知っていることを、進化の力を、僕は知りたい。

 クソ。ちくしょう。結局僕は、こいつの思い通りにされようとしている。

「全てを知れば、君は必ずヒーローとなる道を選ぶ。確実にだ。君はそういう人間のはずだからね」

「それも、遠藤が言っていたんですか」

「ああ。そうだよ」

 だったら僕の結果は、もう既に決まっているのかもしれない。





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