欠落と憎悪 1
こっから六章です。
なんか、色々とぐちゃぐちゃになりそうですが、お付き合いいただけたら幸いです。
遠藤の葬式には、僕らの学校の生徒が何人も出席していた。僕らのクラス全員と、そして遠藤と交友があった人たち。高三や中学生、大学生までいた。遠藤のことを知っていた近所の大人たちもいる。
棺には遠藤の死体があった。頭を強打して脳内出血で死んでいる事になっていた遠藤の死体は、とても安らかな顔をしていた。葬式やが、そういう風にしたのだと、皆が思っている。
けれど、僕は知っている。
遠藤を殺したのは、僕だ。
その死体は、作り物の偽者なんだ。
遠藤の両親が泣いていた。田上君が辛い表情をしていた。僕の隣で、佐藤くんが鼻を啜っていた。山崎先生は、目を真っ赤にしている。近所のおばさんがハンカチを口元に当てている。おじいさんが悲しそうな眼差しで棺を見ている。父さんもそうだった。天月だって、悲しそうだ。
僕だけだった。この中で、悲しみの感情を持っていないのは。
殺したのは僕なんだ。脳内出血なんかで死んだんじゃない。僕があいつを切り裂いて、あいつの頭を撃ったから、死んだんだ。こんな偽者の形だけの葬式なんて、僕は何も感じない。
棺を前に、笹倉さんが泣いていた。遠藤が死んだと知ったその瞬間から、ずっとそうだった。泣いている。悲しみが溢れている。笹倉さんは遠藤の事が好きだったんだ。だから、悲しい。 皆、僕が泣いていないのは、遠藤の死んだという現実を受け止められていないからだと思っている。けど、違うんだ。何も思えないんだ。こんな葬式、世間の目を欺く為だけのものだから。
この葬儀屋にはもう話が通っているらしい。というか、今日のこの葬儀屋にいる職員は全員、政府の工作員なんだそうだ。だから、遠藤の死体に疑問を持たない。
―-ああ、こんな事に意味なんて無い。
十分、上等な正義。遠藤はそう言った。
僕は神様じゃない。全部を救うなんて、無理なのかもしれない。いや、多分、確実に、不可能なんだ。だから僕は誰かを犠牲にする覚悟を持たなくちゃいけなくて、だから遠藤はその後押しをした。 遠藤を殺した僕は、もう、引き返せない。
それは一ノ宮博士が仕組んだ事だ。遠藤はそう言っていた。けれど、遠藤が僕の為にたった一つしかない命を使って、やってくれた事でもある。
けど、それは僕の中から、ぽっかりと「何か」を奪っていった。それが何かはわからない。でも、「何か」が無いと感じる。欠落していると直感する。
笹倉さんは女子たちに慰められながら、なんとか棺から離れていった。
もし、遠藤を殺したのが僕なんだと彼女が知ったら、一体どんな反応をするのだろう。
怒るだろうか。もっと悲しむのだろうか。それとも、僕の事を憎むのだろうか。もしかしたら、僕の事を殺しに来るかもしれない。
「おい、久坂」
田上君だ。右隣に座っていた彼は、僕の顔を見つめながら言う。
「何?」
「お前、大丈夫なのか?」
「何が?」
「何がって、なんか、変に笑ってるからさ」
田上君に言われて、僕は気が付く。
「……本当だ。何でだろう」
どうしてだが、自分でもわからない。けど僕の口元は確実に笑みを作っていた。
「久坂、お前」
「大丈夫だよ。何でもないから。全然、大丈夫だから」
僕はそう言いながら、席を立った。
「おい、どこ行くんだ」
「帰るよ。僕」
もうこの場にいても、どうしようもないと思った。
無意味だ。時間の無駄だ。全く価値が無い行為だ。
「久坂……」
田上君は僕の事を引きとめるような素振りを見せたが、僕はそれを無視して、葬儀場から出た。
「久坂君」
僕が一人で道を歩いていると、背後から声が聞こえてきた。天月の声だった。
「戻った方がいいよ。まだ、葬式終わってないだろ?」
けれど彼女は首を横に振る。
「僕だったら勝手に向こうが勘違いしてくれるからどうにでもなるけどさ、君は違うだろ?だから早く、戻った方がいいって」
けれど天月は首を横に振るだけだ。
「一人でいたいんだ。面倒くさいんだ。誰かと一緒にいるの」
悲しみの感情を顕にしている人といるのは、疲れる。嘘の死で泣いているのを見ると、何故だから苛立ってくる。あの人たちは何も悪くは無いのに、無性に腹が立ってる。そのくせ心の中は何も思わない。苛立ちながら、心は何も感じていない。苛立ちに疲れるだけだった。
天月だって、悲しんでいる。今までの彼女では考えられないくらい、遠藤の死に動揺している。これまで何人もの命を葬ってきたはずの彼女が、遠藤の死を受け容れがたく思っている。
それを見ていてて、疲れる。
「貴方を一人にはさせない」
天月はそんな事を口にする。
「約束、だから」
「約束?誰との?」
「遠藤君が、彼が言ったの。貴方を支えてくれって」