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ヒーロー  作者: 山都
第五章 真実
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暗がり 2

ちょくちょくサブタイ変えることがありますが、内容的には変わってないことが多いので、スルーしていただいて結構です。

すみません。サブタイ、結構思いつきで決めてるんで。

 敵を倒す事に迷いがないからヒーローはヒーローになれているんだ。自分の正義に迷いがないからそれを貫く事ができるんだ。

 だったら、僕の正義って、なんだ?

 わからない。あんなにも明確だったはずのものが、今では霞んで、薄れて、消えかけている。それを読み取る事もできず、僕は途方にくれている。

 内藤君を殺そうとした僕に、正義なんてあるのか?


 映像は動いている。敵が現れ、悪事を行い、そしてヒーローがそれを阻止する。

 敵は悪で、ヒーローは正義。そう決まっている。そうできている。

 だからヒーローが敵を倒して殺したとしても、正しい事として僕らの頭の中に認識される。でも、ヒーロー達は確実に誰かを殺しているんだ。

 でもヒーロー達に迷いはない。それはきっと、敵が悪だからだ。悪を倒さなければ平和が崩れる。悪が蔓延れば世界は壊れる。だからヒーロー達は、自分の守りたいものの為に精一杯闘う。


 僕だって、そのつもりだった。

 平和を変異種の手から守っているつもりだった。街の皆を人知れず救っているつもりだった。いや、実際にそうだったのかもしれない。少なくとも、敵を一人殺したんだから。

 けどその敵は悪なんかじゃなかった。僕らと同じ、普通の人間だったんだ。僕らと同じように生きていて、僕らと同じような生活をしていて、そして僕らと同じように死に怯えていた。

 その敵を、僕は殺した。正確には僕じゃなくて、天月が引き金を引いた。それでも僕が敵を、内藤君を殺そうとしていた事実は変わらない。

 内藤君はなにも悪くなかったんだ。それなのに、僕は何も考えないで変異種は悪だと決めつけ、殺そうとした。

 そんな僕に正義なんてない。あるのは、人を殺したという、ただそれだけ。


 頬を何かが触れた。シーツにはしずくが落ちていた。

 僕は泣いていた。涙が溢れていた。視界は歪んで、光が水に反射する。画面が見えなくなっていた。それでも僕は、視線を外さない。


 僕の憧れていたヒーローはこんなにも不完全で、僕の信じていた正義はこんなにも不確かなもので。だけど僕にとっては、それが全てだったんだ。そのために僕は守ろうとして、闘って、内藤君を――


 ヒーローは敵を倒して、殺している。そして自らの正義を貫いている。

 何かを守る為に、何かを犠牲にしなければいけないのか?

 そうかもしれない。そういうことなのかもしれない。けどそれは、絶対に正義なんかじゃない。

 犠牲の上に成り立つ正義なんて、あっていいはずが無い。


 天月は、僕の正義を幼いと言った。だから僕はこんなにも悩んでいるのだろうか。

 だったら、幼くない正義ってなんだ?大人の正義って、なんだ?

 この画面の向こう側のフィクション(つくりもの)のヒーローのように、迷うことなく敵を倒し、殺すって事なのか?

 それは、何かを犠牲にする覚悟を持って闘うって事なのか?

 違う、そんなの正義じゃない。そんなの、正しくなんてない。


 そう思うこと事態が、幼いって事なのかもしれない。

 でも僕は認められないんだ。誰かが傷つかなきゃならない、正義なんて。


 あんなにも信じていたものは、所詮ただの幻想だったんじゃないか。

 正しい事も守ることも、本当の非現実の前では儚く脆い。貫く事のできない、あっけない正義だ。

 

「ごめん……ごめん……」


 謝った所で、何も変わらない。どうしようもなく、現実だけが突きつけられる。


 僕は内藤君を殺した。

 からっぽの正義を振りかざして内藤君を殺したんだ。


 正義が何か、僕はもうわからない。

 そんなもの、本当にあるのだろうか。作り物じゃない、本当に正しさを貫ける正義なんて、この世にあるのだろうか。

 そんな事はわからない。けれどただ一つだけ、わかるっていることがある。


 僕のやったことは、正義なんかじゃない――


 僕は暗がりの中、泣いている。涙が零れ落ちていく。

 それは止まらない。止まる様子もない。止めようとも、思わなかった。




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