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ヒーロー  作者: 山都
第五章 真実
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暗がり 1






 正義って、なんだ。


 僕は真っ暗な部屋でテレビを観ていた。カーテンの隙間からは、僅かに光が見えていた。いつの間にか、朝になっていたみたいだ。

 布団の上にはいくつものDVDのケースがある。この三日間で観終わったものだ。内藤君が死んだあの日から、僕はずっとこの部屋でDVDを観ていた。


 画面では悪の怪人が人質を取っていた。ヒーローを脅し、変身を解くように迫っている。

 ヒーローは仕方なくそれに応じる。ヒーローの身体が人間のそれへと戻っていく。悪の怪人は部下を使って、人間となったヒーローを襲わせた。

 

 内藤君の姿が、声が、頭から離れない。考えないようにしても、それを拒んでも、脳裏で再生されていく。

 地面を這う内藤君。生き延びようと必死だった内藤君。そして、撃たれて死んだ内藤君。その声。息づかい。表情。

 それを紛らわすように、僕はヒーロー番組を観る。僕が大好きでたまらなかった、それを観る。今まではそれさえ見れば、たいていの嫌な悩みは吹き飛んだ。

 けど、今、僕の心は晴れない。晴れるわけがなかった。


 僕は内藤君を殺そうとしていたんだ。ヒーローだから、正義を守るために、という理由で。

 殲滅という言葉を使って自分が何かを殺そうとしている実感もなく、彼を撃って、彼を切った。それが正しい事だと思い込んで。

 何が正義だ。僕がやろうとしてたことは、ただの人殺しじゃないか。


 悪の手下がヒーローに襲い掛かるその瞬間、もう一人のヒーローが現れた。そいつは悪の手下を瞬く間に倒し、不意を突かれてあせる怪人から、人質を開放した。

 襲われそうになってたヒーローの手を取り、起き上がらせる。二人のヒーローを前に、悪の怪人は後ずさりしていた。


 天月は多分、こうなる事をわかっていたんだ。だから彼女は僕をエニティレイターにさせないように一ノ宮博士に反論して、僕を説得しようとしていた。

 彼女は言っていたんだ。変異種も人なんだって。僕はそれをちゃんと聞いていたし、わかっていたつもりだった。けれど、心のどこかで思っていたんだ。変異種は悪の怪人だから、倒さなくちゃいけないって。変異種は人間ではなく、ただの危険な存在なんだって。

 最悪だ。僕は。

 正義という言葉の前に思考を停止させ、ヒーローになれるという状況に酔いしれて、僕は大事な事を忘れていたんだ。


 ヒーローが悪の怪人に対し、必殺の蹴りを喰らわせる。

 胴に直撃したそれは、怪人の身体を爆発させた。怪人の身体がバラバラに飛び散る。

 二人のヒーローは変身を解き、手を組んだ。お互いを褒め称えるように、熱く手を握り合う。

「二人の闘いは続く。悪を倒し、正義を守るために、二人は闘い続ける!」

 ナレーションが入り、エンディングに入った。スタッフロールが画面に表れ、エンディングテーマが聴こえてくる。


 ヒーローは正義を守る為に、悪の怪人を殺した。画面の中のヒーロー達は、その事に何の抵抗もないのだろうか。

 正義を守るためだったら、悪は殺しても構わないという事なんだろうか。

 それとも、怪人だったらいいのだろうか。

 怪人だって意思を持っているはずなのに。怪人だって、生きているのに。


 ヒーロー達は悩まない。悪を倒すのは当然だから、とでも思っているんだろうか。

 フィクション(つくりもの)は卑怯だ。都合のいい展開に、都合のいい出来事。もし、自分たちの戦うべき相手が、自分の大切で守りたい人たちならば、ヒーロー達はどうするんだろう。

 僕の観ている映像はその答えをくれない。敵は敵で、倒すべき相手。最初からヒーロー達に迷いはなく、その敵を倒している。どのヒーローもそうだった。


 正義を守るってことは、正しい道を生きるって事なんじゃないのか。

 僕の知るヒーローは、いつも悪を倒している。別の言い方をすれば、殺している。


「お前さ、そいつがヒーローだと思えるの?」

 いつだったか、遠藤は僕にそう聞いてきた。

「そいつはさ、お前を助けるために怪物を倒したんだろ? 怪物だって生きてるんだぜ。もしかしたらさ、怪物にだって何か事情があったかもしれないじゃないか。それでも、お前の言うヒーローはそいつを殺したんだ。それでもお前、そのヒーローが正しいって言えるの?」

 

 僕はこの質問をされた時、迷うことなく肯定的な回答をする事ができた。

 けれど、今は違う。


「正義の味方なんかじゃないわ」

 あの時の帰り道、天月は言っていた。

「変異種になったとしても、人は人よ。だから私は……人殺しだわ」


 それに対して僕は考えもせず、自然とかける言葉が見つかっていた。

 けれど、今は見つからない。


「貴方の正義は、人を殺せる?」

 これも、天月が言っていた事だ。

「変異種も元々は人間なの。それでも貴方は闘える?」


 闘える、と僕は答えた。変異種は野放しにできない、と。

 でもそれは人を殺せる、という意味じゃなくて、変異種を倒す、という意味だったんだ。

 人殺しの理屈も覚悟も道理も、僕にはなかったんだ。


 結局の所、僕の正義は、何も知らなかったんだ。

 フィクション(つくりもの)のカッコいいそれに、憧れているだけだったんだ。

 

 誰かの為に闘えて?

 誰かの為に命を賭けて?

 誰かの為に平和を守る?


 それって、誰かの為に誰かを殺すって事じゃないか。

 僕が内藤君を殺そうとしたように。変異種だから、という、それだけの理由で。


 内藤君は、何もしてこなかったんだ。内藤君は自分から僕に攻撃してくる事はなかったんだ。それは、天月の時からそうだった。 

 反撃する機会がなかったわけじゃないはずだ。その気になれば、蹴りの一発くらい、僕に叩き込む事はできたはずだ。なのに、内藤君はそうしてこなかった。ただ、攻撃を避けて逃げていただけだった。


 それは何故だったのか。ただ僕らに怯えていたからなのだろうか。

 僕は違うと思う。


 内藤君は変異種になりたくてなったわけじゃない。偶然、そうなってしまったんだ。

 ある日突然前触れもなく、覚醒因子が『進化の系譜』を呼び覚まし、内藤君をあの姿へと変えてしまったんだ。

 それだけなのに僕は内藤君を殺そうとしていた。

 僕だけじゃない。天月も、一ノ宮博士も、もっと言うなら、変異種を殺せ、と命じている政府も。

 一体、内藤君が何をしたというのだろう。何もしてない。ただ、彼は、生き残るのに必死で――


 僕はDVDデッキの中身を取り替えた。新しい映像が流れ始める。

 もうそれに、何の魅力も感じれなかった。ただ流しているだけだった。

 こんな事に意味はない。何も変わらない。内藤君は戻ってこないし、僕のやった事は、覆らない。

 けど、僕は期待していた。僕の信じていたヒーロー達が、今の僕に答えをくれる、ということを。


 そんなこと、あるわけないとわかっているのに。

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