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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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チェイサー 3

 変異種の移動している経路を確認する。それを元に、変異種が通るであろう場所に見当をつける。

 僕は音を立てないように、ゆっくりと飛行する。変異種が表れると思われる場所へ向かう。

 途中、銃のカートリッジを新しいものと取替える。少ない弾数のままでは、心もとなかった。

 僕は道路からは見えないように、屋根の上へ隠れた。僕も道路を見ることはできないが、問題ない。僕は、変異種がどこにいるかわかる。赤い点となって、地図の上を移動しているそれがわかるんだ。

 

 変異種が僕の予想した地点に近づいてくる。速度は遅い。多分、歩いているのだろう。

 僕は屋根の影から視線と銃口が向けれるように、身を出した。指は引き金に掛かっている。隙があれば、それを引けばいい。そして、変異種に一発でもぶち込めればいいんだ。


「久坂君、大丈夫?」

 天月だ。その声は腕輪あたりから聞こえてくる。天月の持っているトランシーバーかなんかと回線が繋がっているんだ。

「うん、大丈夫。問題ないよ」

 なるべく小さな声で腕輪に向けて声を発する。

「無理しないで。あなたできなくても、私が」

「できるよ。僕にだって」

 天月の声を遮るように、僕は言った。

「僕だって、変異種を倒せるんだ。天月の補助が無くたって、できるよ」


 僕はヒーローになったんだ。訓練だってやった。その成果はちゃんと出てる。今は逃げているだけのあの変異種が反撃をしてきたって、負るとは思わない。

 エニティレイターは変異種を殲滅する為の姿、と一ノ宮博士は言っていた。性能をちゃんと引き出せば変異種に負ける事はない、とも言っていた。

 僕は天月よりも上手くエニティレイターとして闘えるんだ。だったら、僕に変異種を倒せないわけが無いじゃないか。


「久坂君……」

 何かを言いたげな口調。僕はそれに気が付いているから、言う。

「僕がやってみせるよ。君の代わりに闘って勝ってみせる」


 天月は僕が変異種を倒せないと思っている。僕にできるわけが無いと思っている。

 自分の代わりができるはずがないと、僕は変異種を倒すだけの力がないと思っている。

 だったら、証明してみせる。変異種を倒して、天月を納得させて見せる。


 頭の中の地図を開いた。変異種がすぐそこの道路を歩いているのがわかる。あと数秒もすれば、僕が目星をつけた地点を通るだろう。

「じゃあ、これからまた戦闘になるから」

「……わかったわ」

 通信が切れた。僕は屋根の上から身を乗り出し、銃を構えている。ただ、身体全部を乗り出しているわけじゃない。視界と銃口を道路に向けれる、最低限の体勢を確保する為だ。

 ブースターで飛行しながらでもいいのだけれど、多少は音がでてしまう。そうして変異種に気づかれたら、待ち伏せの意味が無い。


 ――来た。


 僕の視界に変異種が映る。兎の変異種は落ち着き無くあたりを見回していた。僕が現れないか、警戒しているのだろう。

 息を殺しながら、変異種に銃口を定める。狙うは脚。一時的にでも機動力を奪えればいい。

 兎の変異種の一番厄介なところは、脚力だ。跳躍力や走力など、あの変異種の目立った所は全て脚力だ。この前の狼の変異種はただ強かった。兎の変異種ほどではないが、速くて、一撃が重い。それに比べたら唯一つの長所しか持っていないこの変異種は倒しやすそうだ。

 

 変異種に見つからないよう、視線の動きに気を配る。僕が完全に視界の外にいったときがチャンスだ。そのタイミングで撃てば、銃声が聞こえたとしても、変異種の動きは僅かに遅くなるはずだ。弾丸が到着するには、その僅かな隙で十分だ。

 息を殺し、その時を待つ。

 グリップと引き金の感触を確かめながら、変異種の視線を観察する。

 視線はせわしなく動いている。僕の隠れている民家にも視線が向けられた。

 多分、大丈夫だ。見つからないと思う。冷静じゃなければ、隠れている何かを見つけるなんて、そうそうできるもんじゃない。

 あの変異種は焦っている。この状況に困惑しているのかもしれない。だから、さっき、いきなり立ち止まったんだ。混乱して、動けなくなってしまったんだ。

 道路から見たら、僕は少ししか見えないだろう。あの変異種は注意深く注意しながらあたりを見ているわけじゃない。適当に視線を動かしながら、僕を探している。

 

 案の定、変異種は僕を見つけることができないまま、視線を逸らした。もう、別の場所へと意識を向けている。

 それもほんの少しの間の事で、もう次の瞬間には違う場所を見ていた。身体の方向を変えながら、全方位を順番に確認している。

 変異種の身体が完全に僕に背を向けた。後頭部が見える。僕の位置は変異種から死角になる。


 今だ。


 引き金を引いた。銃声が鳴る。変異種はそれに気がつき、僕の方を見た。直後、弾丸が変異種の脚を貫通する。

 変異種が声のような、悲鳴のような、どちらとも付かない叫びを発した。脚からは血が流れている。


 ビンゴだ。一発で命中させる事ができた。カートリッジ一つ分以上、つまり十五発以上は消費するかもしれないと思っていたのに。やっぱり、訓練の成果が出てる。


 僕は跳び、そして飛んだ。高速で変異種へと接近し、殴りつける。

 皮膚に毛が触れる感触、そして拳が肉に抉りこむ感触。変異種の身体は吹っ飛ばされ、ブロック塀に叩きつけられた。

 変異種の脚が地につく。膝こそ折らなかったが、ダメージはあったようだ。すぐに動く、ということはできていなかった。


「うあぁぁぁあ!!!」

 僕はナイフを取り出し、それを変異種の右肩に突き刺す。肉に突き刺さったナイフで、その肩を切り裂いた。

 真っ赤な血飛沫と共に、変異種の右腕が地面に落ちた。さらなる絶叫が聞こえてくる。僕はそれを黙らせるように、腹部を殴った。


 よし、このまま!


 今度は左脚にナイフを向ける。脚を切断してしまえば、例え恐るべき再生能力を持っている変異種でも、元通りに直るまではかなりの時間を要するだろう。

 けれど僕がナイフを突き刺そうとしたその時、轟音と共に、変異種の身体が僕へ向かってきた。

 僕は正面から体当たりを食らう。ナイフは僕の手から離れてしまった。


 何が起こったのかわからないまま、身体がアスファルトに叩きつけられた。

 視界には、脚から血を流しながら跳んで逃げていく、兎の変異種が見えている。

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