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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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チェイサー 2

 僕は体当たりをかます。変異種は避けなかった。避けれなかったと言った方が、正しいかもしれない。

 吹っ飛んだ変異種の身体が民家の屋根に激突した。僕はそれに向けて接近する。

 左腕でからナイフを取り出した。超振動を起動させて、屋根の上で倒れている変異種に切りかかる。


「もらった!」


 だがナイフが変異種の胴を捉えようとしていたその瞬間、変異種が動いた。

 右足を高く上げてそこから振り下ろし、その力だけで上空へ跳ねたのだ。

 ありえない跳躍の仕方だった。兎の変異種の脚力はそれほどまでに高い、と言う事でもある。

 ナイフは目標を失い、民家の屋根に直撃した。超振動を行う刃は、屋根をいとも簡単に切り裂いていく。バターを切り分ける時のように、屋根が裂けていく。

 ナイフを引き抜き、僕は変異種を追った。変異種は二つ奥の民家へ着地していた。

 変異種は再び跳躍する。反撃の姿勢は見れなかった。ただ、逃げているだけ。


「順調だね。この調子なら、短時間で決着が付きそうだ」

 一ノ宮博士の声が聞こえてくる。逃げられているだけの今が最高の状況とは言いがたいが、それでも反撃を受けてやられているわけではない。そう考えたら、十分に順調だと考えられる。

 僕は何度か攻撃を仕掛けていて、もう少しで変異種に直撃を与える事ができた。対して、変異種はまだ僕に攻撃すら仕掛けていない。


「可能なら、変異種を殲滅するのは早いほうがいい。仮想空間を維持するのには電力が必要となるし」

 仮想空間の維持。それはつまり、この世界を保ったままにする、ということ。

 元々存在しないはずの次元である仮想空間は、その維持に大量のエネルギーを必要とする。「無いの物」を「存在させる」ための代価と考える事もできる。

 変異種を倒すまで、この空間は保たれている。人目を気にせず闘えて、被害を気にせず闘える。そのための仮想空間だから。変異種を倒すまで、仮想空間を解除するわけにはいかない。

 逆に言えば、早く変異種を倒す事ができれば、それだけ早く仮想空間を保つ必要が無くなる。電力は有限で、使った分はなくなってしまう。消費した電力の使い道は適当に改ざんされる。それでもなるべく、消費は抑えた方がいい。

 電力は逐電できない。仮想空間の維持使用する分、政府の根回しで優先的にこの町へ電力が送られているらしい。消費電力がギリギリになってくれば、一般家庭の電力供給ストップして、仮想空間の維持に電力をまわすらしい。

 とにかく、仮想空間は維持しいていられる。電力が無くなって、僕らが無理矢理もとの世界に戻らされるということはない。でも、なるべく電力消費は抑えたい。頻繁に一般家庭が停電を繰り返していれば、何かを勘ぐられるかもしれないから。


 ――まあどっちにしろ、変異種は倒すんだから、関係ないか。

 敵を倒す。平和を守る。それが、ヒーローのするべきこと。

 一刻も早く敵を倒す。そこにどんな理由があろうと、関係ない。敵を倒し、正義を守り、皆が幸せに暮らせるようにできればいい。


 僕は変異種を追っていた。空中を飛行し、時には民家の屋根の上を走りながら。素早く方向を変えながら逃げていく変異種に振り回されながらも、距離を確実に詰めることができていた。天月は最適な動きをする事で、やっとできていたことだ。

 一ノ宮博士が言うにはこれが適正の差、というのもらしい。僕はヴァリアント・システムの適正が高い。つまり、よりエニティレイターへとなれる、ということ。性能をその分、高く引き出せる。僕と天月のなるエニティレイターでは僕の方が速いし、僕の方が力も出せる。

 単純に、僕の方が向いているんだ。エニティレイターとした闘う事に。

 その言葉は僕になんとも言えない快感を与える。

 ――ああ、そうだ。できない訳なんてあるもんか。僕は天月より強いんだ。

  僕が守って見せるんだ。天月を、皆を、この町を、平和を。


 変異種が屋根の上から飛び降りた。道路を走り始める。入り組んだ十字路を変異種が爆走し、僕はその姿を見失った。 

 けれど、大丈夫だ。僕の頭の中には、これがある。

 脳裏に仮想空間の地図を表示させる。移動していく赤い点を、確認した。

「あそこか」

 僕はホルスターから銃を取りだした。不意打ちなら、ナイフよりも銃のほうが成功率が高い。僕から変異種が目視で確認できないと言う事は、変異種も僕の姿を確認できないと言う事だ。上手く先回りしてやれば、十分、可能性はある。


 大体のコースを予測する。道路から見ることのできないギリギリの高度をなべく音を立てないように飛行する。

 さっきは飛行の音で感づかれた。一応、気を使っていたのだが。今度はさらに気を使えばいい。速度よりも、確実にバレないように移動すればいい。

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