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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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自尊心 2

 僕は敵と闘って、皆の平和を守るんだ。

 できないなんて事は無い。僕はヒーローになるんだ。正義の為に闘うんだ。絶対に、やり遂げてみせる。


 その言葉は高揚感を伴って僕の頭の中に響く。とても気持ちがよかった。思考を止めて、身を任せてしまいたいと思うほどに。

 ヒーロー、そして正義という憧れが、自分の目の前にある。手を伸ばせばすぐに届く。僕が、それを体現する事ができる。

 プライドが肯定し、僕の心が受け容れる。そうでありたいから。そうであってほしいから。だから、天月の言葉を僕は否定している。


 馬鹿馬鹿しいという感情は消えうせていた。

 ヒーローに、正義に、この状況に、僕は酔っているんだろう。それらはたまらない興奮と心地よさを僕にもたらしている。

 ヒーローとなれることに、正義を貫く事に、僕の気持ちは最高に高まっている。

 

 三度目の振動。携帯は一ノ宮博士からの着信を告げていた。

 僕は携帯を開く。通話を開始すると、間髪いれずに一ノ宮博士の声が聞こえてきた。

「今から君たちを仮想空間に転送する」

 その直後、僕らの視界は白く変わった。



 

 仮想空間へと転送される間の、この白い視界。

 ここは、僕らの次元と仮想空間の次元の狭間だ。白く見えるのは、僕らの身体を被っている膜だ。これがなければ、僕らは次元と次元の間を永遠に彷徨う事になる。この膜が僕らを仮想空間へと導いてくれている。

 

 膜が消え、眼前には見慣れた、だけど違和感のある景色が広がった。

 僕らはグラウンドに立っていた。視線の先には校舎がある。近くにはいくつかのサッカーボールが転がっていた。時間はまだ昼休の途中だから、サッカーをしていたんだと思う。

 僕らの他にはだれもいない。ここはそういう場所だ。


「今回は、この前の兎の変異種が一体だけ。逃げ足がすばやく、脚力もある。前回は大した攻撃をしてこなかったから攻撃能力はわからないが、一応蹴りには注意しておいてくれ」

「大丈夫ですよ。このためにトレーニングしてきたんですから」

 僕は一ノ宮博士の声に答え、制服の袖をまくった。僕の右手首には腕輪がはめられている。ヴァリアント・システムと呼ばれるものだ。

 腕輪のボタンに解除コードを打ち込むと、電子音が聞こえてきた。


《解除コード認証。ヴァリアント・システム起動》

 僕の身体が変わっていく。人のものから、エニティレイターというヒーローへ。誰かを守る為の力を持った、敵と闘う姿へ。


「久坂君は敵を追ってくれ。なに、君の適合率なら相当の動きができるはずだ。あの変異種はすばやいが、問題ないだろう。天月さんはバックアップに回ってくれ。但し、できる限りは久坂君に闘わせてくれ。助っ人的な立場とは言え、実戦経験は多いに越した事はない」

「了解」

 天月の声に感情は感じられない。機械みたいだ。


「それじゃあ、いきます!」

 僕は背中と足のスラスターを全力で吹かす。

 身体が飛んだ。数秒で校舎の屋上の高さまで昇る。


 僕の頭の中に、この町の地図が浮かんだ。その中の一つの点が、赤く光っている。それは僕から離れるように移動していた。

「変異種の座標を転送した。君の意志でイメージとして頭の中に呼び起こす事ができるから、うまく活用してくれ」

 エニティレイターの姿だからこそできる事なんだろう。僕の意志に応じて、それは頭の中に浮かんだり消えたりする。しかも、その頭の中のイメージが鮮明だ。普通、頭の中で考えている画像や映像っていうのは、どこかぼんやりとした物なのに。

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