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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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自尊心 1

 とまあ、そんなくだらないことを話しているうちに、僕らは昼ごはんを食べ終えた。

 なんだかんだ言いながら、遠藤はしっかりとカレーとうどんを食べていた。カツカレーうどん定食よりも、そっちの方が美味しいんじゃないかと言う事に、いつかは気がついてくれるのだろうか。


「ようし、これからどうする?まだ時間あるしな。グラウンドに行って、サッカーでもやるか?」

 遠藤は、というかこの学校の生徒は、昼休みによくサッカーをやっている。昼休みにはサッカーしかやらない生徒もいる。授業の合間に弁当を食べておくんだ。ようするに、早弁というやつ。

 それほどサッカーをしたいってことだ。僕だって嫌いじゃない。早弁してまでやりたいとは思わないけど。


「アキラはどうする。お前も見に来てもいいぞ。なんなら、一緒にやってもいい」

「え、でも、先輩達の学年の人しかいないじゃないですか」

 サッカーをやる時は、大体学年で固まっている。

 高一は高一、中二は中二だけでサッカーをしている。当たり前と言えば当たり前のことだ。

 学年と学年が入り混じって何かスポーツをしたら、気まずくてしょうがないと思う。特に、運動部の人たちは。先輩と一緒にやるんだから。


「別にいいんじゃないの。無理に誘わなくてもさ」

 内藤君がサッカーをやりたがっているのかどうかもわからないのに。

「だって俺、アキラとサッカーしたいし」

「いや、そういう問題じゃ」


 僕は左ポケットから振動を感じた。携帯電話がメールの受信を告げているんだ。


「ちょっとごめん」

 僕は携帯を取り出して、メールを開く。

 一ノ宮博士からだった。件名は無い。そのままだと何がなんだかわからないから、本文を開く。

 そのメールには、一言こう書いてあった。


 変異種が出た、と。


「悪い、二人とも。僕ちょっと、用事ができた」

「用事?用事って一体なんだよ」


 僕は遠藤の声を無視して、走り出した。上手い言い訳が思いつかなかった。本当のことを話すわけにもいかない。

 

「うーん、どうしたんだ英志のヤツ」

「すごく急いでましたね」

「そうだな。あんな急ぐ英志って、珍しいな……うーん、とりあえず、何処か行くか。なんかサッカーやる気、失せちまった。英志どっか行っちゃうし。そうだな、ちょっと学校探索でもするか」

「学校探索?」

「そう。探検と言い換えてもいいぞ。アキラはここに来てまだ二年目だろ。まだ知らない場所が沢山あるはずだ。それを紹介してやる。全部、俺に任せろ」






 この時間帯の自転車置き場には誰もいない。それはそうだ。自転車なんて、放課後にならなければ誰も使わない。

 僕は自転車置き場の、一番人目似つかなそうな場所に向かった。そこには屋根が無い。教室からは死角になっていて、誰かに見られる事もない。

 仮想空間の転送には、最適の場所だ。今朝、一ノ宮博士から何かあったらそこへ行くようにと言われていた。


 その場所に着くと、そこにはもう天月がいた。僕は急いできたって言うのに。

 学食から自転車置き場までは近い。二階から一階に降りて、中庭を突っ切ればいい。天月は教室にいたはずだ。学食からより教室の方が、時間が掛かる。

 習慣みたいなものなのだろうか。呼び出されたら、一刻も早く指定された場所に行く、みたいな。


「ごめん、ちょっと送れちゃって」

 僕は若干息を切らせながら口を開く。天月の呼吸は乱れていない。本当に、天月はどうやって教室からここまで来たんだろう。不思議だ。 

「大丈夫。徴集されてから三分以内なら、問題ないから」


 再び携帯が振動した。今度は着信だ。


「調子はどうだい。久坂君」

 通話ボタンを押すと、一ノ宮博士の声が聞こえてきた。

「準備が整い次第、仮想空間に転送する。座標指定をするから、少し待っていてくれ」

 そして通話が切れてしまった。一方的だ。

 現場指揮官だから、変異種の対応の指示とかで忙しいんだろう。

 

「もう少し待っててだって」

 天月に伝えると、「そう」といつも通りのそっけない返事が返ってきた。

 それからお互いに何も喋らなくなった。昨日とは違う意味で気まずい。


 この気まずさも、きっと僕一人が感じているものなんだ。空回りにもほどがある。アホらしいと思う。

 別に喧嘩をしたとか、そういうわけじゃないんだ。ただ、天月と一緒にいるのが気まずい。昨日の、あの言葉のせいだ。「貴方にはできないわ。絶対に」というあの一言が、僕の中になにかを詰まらせている。

 

 ヴァリアント・システムを使ってエニティレイターになって、天月を守った。

 変異種と闘う為に訓練をして、武器や身体の扱い方を覚えた。

 僕は闘える。ヒーローとなって、闘えるんだ。


 でも天月は違うと言う。できないと言う。それがたまらなく悔しかった。

 下らない、ちっぽけで安っぽいプライドだ。しかもそれはずっと持っていたものじゃない。ここ最近で芽生え始めた、とても微かなプライドだ。

 けれど、僕にとっては掛替えの無いプライドだった。

 ヒーローに憧れていた僕が、ヒーローになる。正義の味方になる。ずっと、思い描いていた事だ。

 それを否定されて、プライドが傷つけられて、だから僕は悔しい。その思いが僕と天月と間に、僕だけの勝手な隔たりを作っている。


 本当に空回りだ。自分ひとりだけの、馬鹿馬鹿しい空回り。

 わかっているのに、僕の中の安っぽいプライドがそれを認めなくない。

 僕はヒーローになれるんだ、と自己主張を止めない。

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