昼
学食は校舎とは別の建物の、二階にある。一階には体育館、二階に学食と購買、屋上にプール。よくわからない造りだ。
学食で料理を頼む時は、まず食券を買う。値段は二百円から五百円くらいで、なんとも言えない値段。
料理はおいしいと言えばおいしいし、おいしくないと言えばおいしくない。まあ、要するに普通の学食だ。
普通だから、いつもどおりの昼食を食べる分には何の不満も無い。僕も、弁当が無い時は学食で昼食を食べている。
学食に行く途中で、内藤君と会う。何人かの中学生と一緒に廊下を歩いていた。
内藤君は僕らに気がつくと、軽く会釈をする。
「一緒に学食に行かない?」、と言いかけて止めた。彼は今、友達と一緒にいるんだ。僕らに変に気を使わせるのも悪い。
「よう、アキラ。元気だったか?」
何も遠藤は迷うことなく内藤君に話しかけた。ある意味すごい。
というか、お前は昨日も内藤君に会っているだろ。
「悪くないです。特に違和感もないし」
それに対しての内藤君も回答も変だ。なんだ、特に違和感が無いって。遠藤の影響を受けているのだろうか。あまりよくない傾向だ。
「そうか。良い事だな。健康第一だもんな。じゃあ、一緒に行こうぜ」
「はい」
そう返事をして、中学生に向かって少し、申し訳なさそうに言う。
「僕これから先輩と学食に行くから」
内藤君は中学生達に別れを告げると、僕らの方へやってきた。なんで?
「どうしたのさ、内藤君」
不思議で仕方が無い。君はなんで当たり前のようにこっちに来たんだ。一緒に友達と何処かに行こうとしてたんじゃないのか。
「遠藤先輩と約束してたので。今日、一緒に学食に行くって」
「そうそう。俺達は仲良しこよしだからな。学食で昼飯を食べるくらい、当たり前だろう?」
常識だろ、と言わんばかりの口調だ。
ここ数日で二人は仲はかなりよくなっていた。同好会が終わったあとも二人で何処かへ遊び行くことがあるし、日曜日には内藤君が遠藤の家に遊びに行ったみたいだ。
なんだろう。内藤君が遠藤と一緒にいるのは、怖いもの見たさみたいなものなのだろうか。そうでなくちゃ説明がつかないような気がする。
「まあ、ともかく飯喰いに行こうぜ。腹が減ってしょうがない」
遠藤は一人で学食へ向かっていった。内藤君がその後を追いかける。
僕の疑問なんて些細なものだし、どうでもいいか。
僕も二人を追いかけ、学食へ向かう。
僕は弁当。遠藤はカツカレーとかけうどん。内藤君は醤油ラーメン。まあ、なんというか、カツカレーとうどんっていうのはボリュームがありすぎると思う。
「本当はさ、カツカレーうどん定食ってのを喰ってみたいんだよ。でも、ここの学食にそれはないんだよな。残念な事に。だから妥協してるんだ。俺は」
遠藤は不満そうにカツカレーを頬張る。
「あのさ、カツカレーうどん定食ってのは初めて聞いたけど、カツカレーとうどんの定食のことなんだろ?だったら、それでいいじゃないか」
目の前にあるカツカレーとうどん。それで十分、遠藤の要望には答えられていると思う。
遠藤は「わかってないなあ」と言うと、水を飲みながら言った。
「カツカレーうどん定食は『カツカレー』と『うどん』の定食じゃないんだよ。『カツカレーうどん』と『ご飯』の定食なんだ」
「は?カツカレーうどん?」
そんなの、この世の誰が食ったことあるっていうんだ。
僕は想像する。多分、カツカレーうどんとはカレーうどんにカツが乗っているのだろう。
そして悲しい気分になった。
本当に遠藤はそんなものが食いたいのか、と。
カレーうどんの汁を吸って、カツの衣が湿気てしまうのは目に見えている。しかも、その湿ってカレーの味のしみこんでいるカツは、多分ご飯と一緒に食べるんだ。
だったらカツカレーでいいんじゃないか?カツの衣が湿って美味しいことなんて、まず、ありえない。僕はそう思う。
「先輩、それって美味しいんですか?」
内藤君も疑問に思っている。というか、そんなメニューがあるのだろうか。
「なあ、アキラ。俺が不味いものを好き好んで食う男だと思うか?」
「でも、見たことも聞いた事ないし」
「あのな、カレーうどんの汁がカツに染み込むだろ。そのカツを山盛りのご飯で食べるとな、なんとも言えない味が口の中に広がるんだ。しかもカレーうどんは素でうまい。こんな最高の組み合わせ、美味くなかったら嘘だろう……まあ、俺も話だけで喰った事無いんだけどね」
「なんだよ、出鱈目か。そもそもさ、湿った衣って不味いじゃないか」
「嘘じゃねえよ。カツカレーうどん定食、絶対美味いから。美味くなかったら俺は腹を切るね。そうそう、クリームシチューうどん定食というのも世の中にはあるらしいぞ」
「そっちはもっと不味そうだ」
「英志、それは偏見ってヤツだよ」
「僕もあんまり美味しくないと思います」
「アキラ……俺は悲しいよ……」
知る人ぞ知る、カツカレーうどん定食。
ちょっといい機会なので使わせてもらいました。
他の小説でもちょくちょく出すかも。
いつかは俺も食ってみたいな。カツカレーうどん定食。