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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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気まづさ 2

「じゃあ、貴方思うの正義の味方(ヒーロー)って何?」

「僕の思う正義の味方(ヒーロー)?」

「そう」

 天月がそんな事を聞いてくるなんて、思いもしなかった。


 これもあまり時間は掛からなかった。いつも思っていたことだから。

「誰かの為に闘えて、誰かの為に命を賭けて、誰かの為に平和を守るような人、かな」


 自分のことよりも他人を心配できる。

 損得なんかで動かない。

 ありえないような、真っ直ぐな人間。

 そんな生き方に憧れる。だからそんな生き方をしてみたい。

 だから僕はヒーローになりたいんだ。


「僕に守ることができるなら、守ってみたいんだ。皆を、この街を、全てを」

 あのエニティレイターの力があれば、そうすることができる。

 僕にだって、誰かを守ることができる。

 正義のヒーローになることができる。

「僕も力になりたいんだ。平和を守りたい」


「……あなたには、無理よ」

「え?」

 驚く僕を置いていくように、歩き出した。

「待って。それ、どういう意味?」

「そのままの意味。貴方はエニティレイターとして闘えない」


 意味がわからなかった。どうして、天月はそんな事を言うんだろう。

 僕の言ったことが気に入らなかったのか?


「貴方の正義は、人を殺せる?」

「なんでそんな話になるのさ。それに、倒すのは人じゃなくて変異種じゃないか」

「変異種も元々は人間なの。それでも貴方は闘える?」

「……闘えるよ。変異種は野放しにできない」


 脳を本能に支配されていく変異種は、速やかに殲滅しなければならない。

 一ノ宮博士が言っていた事だ。天月だって、それを知っているはずだ。

 それを倒さないでいれば、被害が出る。誰かが死んでしまうかもしれない。あの時の、変異種と初めて遭遇した時の恐怖は、今でも明確に覚えている。

 変異種という化け物を倒す為だったら、僕は闘える。

 あの恐怖を皆に味合わせるのは嫌だ。


 けれど天月は、僕の気持ちを折るように言ってくる。

「貴方にはできないわ。絶対に」

 





 天月の真意がわからなかった。

 僕の事を闘いから遠ざけようとして、それであんな事を言ったのだろうか。

 一ノ宮博士の説得ができないから、だから僕の心を折るような言葉を――。

 そんなことない、と(かぶり)を振る。天月はそんなヤツじゃない。


 僕の正義は、人を殺せるのか。


 天月はそう言った。僕の思うヒーローを聞き、そう言ったんだ。

 僕が誰かを殺す。

 

 想像してみる。誰でもいい。誰でもいいんだ。

 エニティレイターとなって、誰かを襲う。誰かを殴る。誰かを撃つ。誰かを切り刻む。

 想像できない。人を殺すなんて、僕にはできそうにない。


 いや、違う。倒すのは変異種だ。危険な奴らだ。僕や天月の事を殺そうとしたやつらだ。

 放っておけば、犠牲者が出る。傷つけられて恐怖して、殺されてしまうかもしれない。


 天月だって、そうしてきたんじゃないか。

 そのお陰で、僕らはこうして平和に暮らせてるんじゃないか。

 僕らを守ってくれていた天月は、もうエニティレイターとして闘えないんだ。

 だったら、誰かが代わりをやらなきゃいけない。

 それが、僕だって構わないはずだ。


「英志君は黄昏の時期に突入しました、っと」

 窓の外を見ていた僕に、遠藤が喋りかけてくる。

 うるさいな、と小声で言う。考え事をしているときに、遠藤の無意味な話に付き合う気は無かった。

 それに、今は授業中だ。私語は慎んだ方がいい。


「天月さんと上手く行ってないのか?二週間経たないうちに破局か。大事なのはお互いを思いやる事だぜ。お前、一人で我が侭な考えに走ってないか?」

「僕は何も我が侭な事は言ってないよ」


 そうだ。僕は別に我が侭なんかじゃないじゃないか。

 我が侭だとしたら、天月の方だ。僕に理解できないことを言って、困らせてくる。

 僕が闘うのは、ヒーローになりたいからだけじゃない。

 天月を死なせたくないからでもあるのに。


「まあ、何があったかわからないけどよ、そうカリカリしない方がいいぞ。落ち着いて話せば理解し合う事もできるだろうよ。時間は有限だ。なるべく早く、仲直りしといた方がいいんじゃないか」

「遠藤には関係ないだろ」

「あるよ。大有りだ」

 何を根拠に、こいつは。


「俺とお前は親友じゃないか。その親友が困っていたら、手を差し伸べる。当たり前だろ」

「遠藤……」

 よくもまあ、そんな恥ずかしい事を堂々と言えるな。

 なんか可笑しくて、笑ってしまった。


「感動したか?感動しただろう?俺は親友を第一に考える男だからな。感謝していいぞ」

「違うよ。遠藤の言っている事が狂ってて、苦笑いが出たんだよ」

「声上げて苦笑いかよ。素直じゃないんだから」 


 丁度その時、チャイムが無かった。

 四時間目が終わって、これから昼休みだ。

 僕らは号令を済ませて昼飯を食べるを準備を始める。


 天月は買ってきていたサラダやらおにぎりやらを食べていた。

 なんというか、運動部の男子みたいだ。その容姿から全く想像できない雰囲気だ。

 そういう所がまた、女子にとっては近寄りがたいのかもしれない。

 

「あーあ。んじゃまあ、俺は学食にでも行こうかな。英志も来たかったら一緒に来てもいいぞ。俺にジャンケンで勝ったら、カレーくらいは奢ってやってもいい」

「素直じゃないな。普通に、一緒に行こうって言えよ。あとカレーはいらない。弁当あるし」


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