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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
56/97

気まづさ 1

 

  でもそれは多分、天月も僕に思っていることなのかもしれない。

 だから僕を巻き込みたくなくて、だから僕にヴァリアント・システムを使わせたくなかった。

 天月は僕を守ろうとしてくれてたのに、僕はそれを無視している。


 やっぱり僕のこの行為は、ただの我が侭なんだろうか。


「もう時間も時間だし、早く帰った方がいい。何かあったら、君の携帯電話に連絡するから。いつでも電話に出れるようにしておいてくれよ」

「僕の携帯に、ですか?」

「ああ。もう知っているから、言う必要は無いよ」

「いつの間に、そんな」

 一ノ宮博士に携帯の番号を教えた記憶は無い。

「まあ、知り合いから聞いたのさ。僕は顔が広いからね。こう見えても」

 

 知り合い、と言って真っ先に思いついたのは天月だ。

 でも、僕は天月に携帯電話の番号もメールアドレスも教えていない。

 

 他には誰も思いつかない。第一、僕が知る分には、一ノ宮博士はいつもキャンピングカーの中にいる。

 身体を洗うために銭湯くらいは行っていると思うけど、そこで僕との共通の知り合いができるとも思えない。 

 考えるのがバカらしくなってきた。

 一ノ宮博士は政府から変異種を倒すように言われているんだ。政府が後ろについているんだったら、個人情報が全部筒抜けってこともありえなくはない。

 そう言えば、初対面の時も僕の名前を知っていた。


「とにかく今日は帰ってよく寝る事だ。この一週間の訓練の疲れが溜まっていると思うから」

 

 言われなくてもそうするつもりだった。

 僕は運動が嫌いなわけじゃない。でも、進んでやろうとは思わない。

 普段の僕は俗に言う運動不足で、だからこの数日の訓練はかなり応えていた。

 

 エニティレイターの身体で訓練をしているんだけど、多少は僕の本当の身体にも多少は影響があるみたいで、全身が筋肉痛になっていた。

 あんなに激しく運動して、筋肉痛で済んでいるだけまだマシだ。


「それじゃあ、彼をよろしく頼むよ。僕はデータの検証をやるから」

 天月にそういうと、一ノ宮博士は僕らを置いて、キャンピングカーへと向かった。


 



 これも、一週間続けていた事だ。

 訓練が終わって、家に帰る。その時に何故か必ず、天月が僕を見送る。一ノ宮博士の指示で。

「もしかしたら、変異種に闇討ちされるかもしれない」

 と、一ノ宮博士は言っていた。まあ、理屈はわかる。納得もできる。

 でも、気まず事この上ない。僕が勝手に思っているだけだけど。


 話しかけるのに緊張するって訳じゃない。別にそれ自体は抵抗はない。

 ただ、天月と近くにいるのが気まずい。

 問題はそう、一週間前だ。


 何で僕、あの時あんな事しちゃったんだろうなぁ……。


 変異種を倒した後に、天月の元へと向かった時。

 僕は思いっきり天月を抱きしめたんだ。それはもう、盛大に。

 あの時は気分がハイになっていたんだ。ヒーローになれて、極度の緊張から開放されて、それでちょっと頭がおかしくなっていたんだ。

 そう思いたい。


 抱きしめるって、そんな間柄じゃないじゃんか。全然さ。


 多分、天月は気にしていないと思う。

 出会ったときから口調は変わってないし、別に僕を避ける様子もない。

 僕が一方的に気まずく感じているだけなんだ。それはわかっているんだけど。


「はぁ……」 

 ため息が出てしまう。

 

 僕は天月が好きだ。でもそれは友達としてって事で、恋愛感情があるわけじゃない。

 田上君とか内藤君と同じ、仲間。同好会を一緒にやっている友達。

 その友達と、妙な隔たりを創りたくは無かった。

 しかも、その隔たりを感じるのは僕だけだ。天月はどうでもいい事だと思っているだろう。

 結局は僕一人の空回りで、間抜けでアホらしい。それがわかっているのに、気にしている僕。

 だからため息が出てしまう。


「どうかしたの?」

 天月は僕の考えている事なんて、絶対に理解できないだろう。

 それが何、とか言われそうだ。

 わかっているんだ。わかっているけど、どうしても意識してしまう。


 抱きしめた天月の身体の感触。天月の鼓動。天月の体温。鮮明に思い出せる。

 なんだこれ、まるで変態じゃないか。

 

 こんな事を天月に言えない。適当に返事をして、誤魔化すくらいしかできない。

 

「身体に違和感があるなら、すぐに言って」

 真剣な表情だ。いや、天月はいつも無表情だから、真剣に見えるんだけど。

 とにかく、僕のことを心配してくれているってのはわかる。

 それなのに、僕ときたら。


「大丈夫。何とも無いよ」

 そう、何とも無いんだ。身体の方は問題は無いんだ。

 強いて言うなら、心の問題。この状況を早く終わらせたいと感じる、僕の思考の問題だ。

 

「……そう」

 何かを言いたそうだった。それが僕に対する言及でないことを心の底から祈る。

 上手く誤魔化せる自信が無かった。うっかり、変なことを口走ってしまいそうだった。

 僕が何を考えているか聞かれたら、それはもう引かれること間違い無しだ。


 家に早く帰りたかった。最短ルートを早足で歩く。

 天月はそれに何も言わず、着いてくる。彼女はただ僕の事を気遣ってくれているだけなのに。

 ただそれだけなのに、僕は居心地の悪さを感じている。ああ、僕ってこんなやつだったのか?


「久坂君」

「は、はい」


 決心したかのような声。僕は足を止め、天月の方を見る。

 相変わらず表情は変わらない。声の感じも同じだ。

 あの時のことを聞かれるのだろうか。どうして私を抱きしめたの、と。

 冗談じゃない。そんなの止めてくれ。消し去りたいくらい恥ずかしい事なんだ。

 しかし、天月の口から出てきた言葉は違う物だった。


「貴方は何で、闘う事を決めたの?」

「何でって」

 とりあえず、安心した。やっぱり天月は気にしてなかったんだ、と。

 

 そして考える。僕が何で闘うのか。

 一秒もしない内に頭に浮かんできた。簡単なことだ。ずっと、頭の中にあったことだから。

「正義の味方になりたかったから、かな」


 もちろん、それだけじゃない。

 天月を守りたかったから、というのもある。

 でもやっぱり、僕は正義の味方になりたかったんだ。


短編、書いてみました。

「セイギノタメ」というヤツです。

ヒーローの番外編なので、興味のある方はぜひ。

実は、「セイギノタメ」みたいな展開でヒーローも書いてみたかったり。

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