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ヒーロー  作者: 山都
第四章 正体
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訓練 1


「ヴァリアント・システムの原理は基本的には変異種と同じだ。その腕輪に組み込まれた人工的な『進化の系譜』を、同じく腕輪に組み込まれた覚醒因子によって引き起こし、装着者の身体と一体化させる」

 

 そして、これが僕の非日常だ。 


 僕は自分の右手首につけてある腕輪のスイッチを何度か押した。

 全部でスイッチは五つある。解除コードを入力するためのものだ。間違って起動することがないようにだったり、盗まれても扱えないようにしてある。


 ここは川原の近くにある廃工場の中だ。

 この付近を人が通る事はあまり無い。ここなら、あまり人に見つかる心配は無い。

 僕の身体が右手首を起点として変化していく。

 自分の身体が作り変えられていく。そんな感覚が僕の全身に走った。


 僕の身体は黒をベースとし、白い線が掘り込まれている姿へと変わった。

 背中や足の裏にはスラスターがあって、腰には拳銃の入ったホルスターがある。

 腕の中にはナイフが内蔵され、太股の中には十数発の弾が装填できるカートリッジがある。


 僕は軽く跳び、そしてそのまま飛んだ。

 足と背中のスラスターを吹かし、空中を移動する。


 妙な感覚だった。これは僕の身体のはずなのに、感覚がまるでちがう。

 自分の身体ではないのに、これは自分の身体。それに順応している自分が不思議で仕方がない。


「なかなか身体の扱いが上手くなったじゃないか。天月さんもそう思うだろう?」

 

 一ノ宮博士の問いに彼女は無表情で答える。

「上達はしていると思います」

 やっぱり、天月は僕が闘う事を嫌がっている。喋り方でわかる。

 天月は感情をあまり表に出さないから、だからこそ口調に含まれる意志がわかりやすい。

 

 でも、僕は天月の代わりに闘いたかった。

 一ノ宮博士の話では、天月の身体はもう限界なんだそうだ。覚醒因子の侵食が限界まで進んでいて、彼女の身体はヒトでなくなりかけている。


 この一週間、僕は同好会の活動が終わると、毎日のようにヴァリアント・システムに慣れるためのトレーニングをしていた。

 一ノ宮博士も言っていたが、ヴァリアント・システムは身体に装着するようなパワードスーツの類ではない。

 自分の身体を作り変え、別の自分の身体を作り出す。

 装着するのではなく、成るんだ。


 ヴァリアント・システムは『進化の系譜』との一体化の過程で、自分の身体を別のものへと作り変える。

 そしてヴァリアント・システムを解除する時、元の身体との間に誤差が生じるらしい。

 全く適正のない人間がヴァリアント・システムを使うと、自分の身体に戻れなくなる。例えば腕の一部が黒の装甲のままだったり、ひどい場合はまったく別の何かになってしまう。


 天月は適正が高く、その症状を抑える薬を飲む事で人間の姿のままでいられた。

 でも、その薬は症状を完璧に押さえられるわけじゃなかった。度重なるヴァリアント・システムの使用は使用者の身体を蝕んでく。


 それは天月も例外ではなく、彼女の身体は人のものから段々変わっていっていた。

 天月の高い運動能力も感情が表に出にくいのも、その影響らしい。


 このまま闘い続ければ、天月は人でない何かになり、そして最悪の場合、死んでしまう。


「さすがだ。あの数値は間違いじゃなかった。一週間でここまでできるようになるなんてね。それに、特に身体に異常も無い。最高だよ、久坂君」

 一ノ宮博士が言うには、僕には天月以上の適正があるらしい。

 エニティレイターの覚醒因子に侵食されにくいという、特異体質なんだそうだ。

 天月もそうなのだが、僕の方が侵食を押さえ込む事ができるらしい。

 

 なので、政府から後任の装着者が来るまでの助っ人ということで、僕が闘う事になった。

 この街にいる変異種は残り三体。

 それを僕が倒す事になった。

 まるで僕がヒーローになったみたいで、少しワクワクしている。


「じゃあ今日は、飛行とその身体にある装備を扱う練習だ」

 僕はそれに従い、博士の指定したコースを飛行する。


 工場の中は適度に広く、そしていくつかの作業用の機械が配置されていた。

 僕はバイプやベルトコンベアの間を縫って飛ぶ。

 自分の思ったように飛べる。一週間前には考えられなかった事だ。


 結局あの最初の戦闘ではバーニアを使わなかった。

 使い方はわかっていたが、扱い方がわからなかったからだ。

 でも今ではどうやって加速し、減速し、飛行すればいいのか、バッチリだ。


 この一週間、僕は同好会の活動が終わると、毎日のようにトレーニングをしていた。


 一ノ宮博士も言っていたが、ヴァリアント・システムは身体に装着するようなパワードスーツの類ではない。

 自分の身体を作り変え、別の自分の身体を作り出す。

 装着するのではなく、成る。

 自分が今まで持っていた感覚が一瞬にして変わり、新しい感覚が全身に回っていく。


 僕はそれを初回で適応できた稀有なパターンらしい。

 だが、技術は皆無のため、ろくな闘い方ができない。

 銃の扱い方一つをとってみても、照準はろくに定まらない、適当に撃っているだけ、残弾など全く考えないなど、例を上げればキリがない。

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