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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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初陣 2

 変異種が民家の屋根に逃げた。

 そこに向けて発砲するが、弾丸はそれてしまう。今の僕に正確な射撃を行う技術はなかった。

 だったら、接近するしかない。


 僕は一気に屋根へと跳躍する。力加減がわからなかったので思いっきり跳んだ。

 僕の身体はビル三階分の高さまで持っていかれる。

 下を見ると、狼の変異種が僕を見上げていた。ここからなら、僕の腕でも狙えるかもしれない。



 屋根の上の変異種にへと銃口を向ける。そして空中で発砲。

 ひたすらに撃った。偶然のまぐれでもいいから、一発くらい直撃してくれればいい。


 変異種は違う家の屋根へと飛び移り、それを避けた。民家の瓦がいくつもの鉛の直撃を喰らって、破壊される。

 僕はそこに膝を曲げて衝撃を和らげながら、着地する。

 痛みはなかった。エニティレイターの身体でなければ、相当な激痛を足に感じていただろう。


 変異種が逃げる。僕はそれを追い、民家の屋根を走った。

 一歩で楽々と五メートルくらい進む。足場の悪い、この状況で、だ。

 僕は運動が苦手と言うわけではないのだけど、普段、こんなに速くこんなに高く動く事なんて、絶対にできない。

 

 変異種が急にその足を止めた。そして、僕へと身体を向ける。

 丁度その時、屋根から屋根へ飛び移るために跳躍をしていた僕は、変異種に無防備な姿を晒してしまう。

 

 やばい!


 腕を身体の前で交差させた。防御の姿勢をとり、衝撃に備える。

 次の瞬間、変異種の握り拳が僕の腕へと叩き込まれた。

 僕の身体は強烈な一撃を暗喰らい、アスファルトへと吸い込まれるように落ちていった。


「ぐあっ!」

 背中に硬い壁が当たる。僕の身体は跳ね、そしてまた地面に落ちる。

 腕も背中も痛い。勢いよく走っていた所にあんなカウンターを受けたからだ。

 それでも、このエニティレイターの身体のお陰で相当マシになっていると思う。もし人間の身体だったら、痛いなんてレベルじゃすまなかったハズだ。

 もしかしたら、死んでいたかもしれない。


 いや、この状態でもやばいんじゃないか……?


 僕は痛みをこらえ、起き上がった。


 銃を撃っても、敵に当てる事ができない。

 素早さと耐久力があっても、一方的に攻撃を受け続ければ限界が来る。

 そしたら、死だ。


「大丈夫か、久坂君」

 一ノ宮博士だ。


 大丈夫じゃないですよ。怖いんです。逃げたしたいです――。


 口が裂けても言っちゃいけない事だ。言ったとしても、実行に移しちゃいけないことだ。

 僕が逃げれば、変異種の標的は天月となる。

 そしたら、苦しんでいる天月は一瞬で殺されてしまう。

 だから駄目だ。逃げちゃいけない。痛くて辛くて怖くても、逃げちゃいけないんだ。


 一ノ宮博士の言葉に答えることなく、銃をホルスターに収める。口を開いたら、逃げの言葉を口にしそうな自分がいる。だから喋らなかった。

 僕は腕の奥に収納されているナイフを取り出す。

 それをどう取り出すのか、僕は知らなかった。けどカートリッジの時と同じように、無意識のうちに身体が動いていた。


 変異種が屋根の上から道路へと降りてきた。 

 僕を観察するかのような視線を送ってくる。きっと僕の状態を探っているんだ。まだ闘えるのかとか、もう限界なのかとか、そんな感じのことを。

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