初陣 1
「ハハッ!ハハハハハ!」
薄暗い車内で、白衣を着た男が笑っていた。
目の前のパソコンの画面の光が男の顔を照らしていた。それ以外の光は無い。
「最高だ!思ったとおりだ!やはり、陣内博士は完全な成功体を持ち出していたんだ!」
青白い光に照らされる男は笑う。画面に映る黒い装甲でその身を変えた少年を見て、笑う。
男は感情を撒き散らすように叫ぶ。
「来るべき闘いの為の力!醜い化け物どもを皆殺しにする為の力!陣内博士が創り上げた最強の力!ああ、そうだ。久坂英志、君こそが人類の英雄だ!」
一ノ宮敦の表情は、酷く歪んだ狂気に溢れていた。
僕の身体は、僕の身体ではなくなっていた。
この状態を上手く形容する言葉が見つからない。
判りにくくても簡潔に言うとしたら、僕はエニティレイターに「なった」。
僕の身体は黒の装甲に守られている。でもそれは「装着」されているもじゃない。僕の身体の一部なんだ。
腕や足、胸や腰周りの装甲の表層で、僕は風を感じる。それはただの防護服や鎧では絶対にありえない感覚だ。
黒の装甲や背中のスラスターを「装着」しているんじゃない。僕の身体が装甲やスラスターに「なった」んだ。
変な感じだ。自分の身体が、自分の身体じゃない。今までに無い感覚が全ての感覚を支配している。
視力一つを取ってみても、かなりクリアだ。僕は元々目が悪いわけではなかったが、それでも違和感を感じるくらい、今の僕は視力が格段に上がっている。
僕は狼の変異種と対峙する。
鼓動が強くなるのを感じた。この身体でも、心臓はあるみたいだ。
心臓がポンプする理由。それは、恐怖であり、焦りであり、興奮だ。
何て奴なんだろう、僕は。
天月の命が掛かったこの状況で、ヒーローとなれた事に胸を高鳴らせている。
狼の変異種が僕に突っ込んできた。
速い。けれど今の僕はそれにちゃんと反応ができる。さっきは銃を撃つ事すらできなかったのに、狼の変異種の動きが見えていた。
僕は腰に装備されている銃を両手に取る。そして引き金を何度も引く。
反動をあまり感じない。今手にしている銃の性能がいいのか。それとも、このエニティレイターの身体の性能がいいからなのか。
恐らくは後者だ。一ノ宮博士は、僕がさっき使った銃とエニティレイターの使う銃は同じだと言っていた。
変異種は大量の弾丸を上へと跳ぶことで避けた。
僕はそれを追って銃口を向けるが、狙いが定まらない。
乱射を続けるうちに、銃の弾が尽きた。僕は太股あたりから代えのカートリッジを取り出し、両方の銃に装填する。
――あれ?どうして僕はここにカートリッジが内臓されているってわかったんだ?
無意識のうちに行動していた。でも、太股にカートリッジがあるだなんて、僕は知らなかった。
身体が勝手に動いていた。思考を介入せず、反射的に。