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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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衝動 7

 僕は腕輪を掴んだ。そして、それを右手にはめる。

 すると、腕輪は自動的に太さを調節し、僕の腕にフィットする太さになった。

 素朴な疑問が生まれる。どうしてあの変異種はこれを外すことができたんだ?

 天月がはめていたときも、きっと腕にフィットしていたはずなのに。


 腕輪にはいくつかのスイッチがある。天月がヴァリアント・システムを起動するときに押していたやつだ。

「解除コードってやつ、教えてください」

 呟いたその声を、一ノ宮博士は聞いている。確証はないが、そんな気がした。

 解除の時に腕輪を操作していたことは覚えているが、どのように操作していたのかまではわからない。

 でも一ノ宮博士ならそれを知っているはずだ。

 

「……止めた方がいい。まだ君用に最適化されているわけではないし、起動実験も済ませてない。今はとにかく生き延びる事を一番に考えるんだ」

 やはり、一ノ宮博士は僕にヴァリアント・システムを使用させたかったんだ。だから僕を嘘の口実で呼び寄せた。

 でも今は都合が悪いらしい。だから僕に逃げろと言っている。天月を見捨てて生き延びろ、と。


 冗談じゃない。

 僕の手には力がある。二人とも生き延びる可能性があるんだ。

 それなのに僕だけ逃げるなんて、駄目だ。


「どうでもいいですよ。そんなの。それに、あいつを倒せれば、一ノ宮博士だって都合がいいんでしょう?」

 見栄だ。どうだっていいわけが無い。

 本当は無茶苦茶に怖い。あの化け物と闘うなんて、恐ろしくてしょうがない。

 

 でもやらなきゃ、天月が死ぬ。

 そんなの嫌だ、と思う僕がいる。

 だったらやるんだ。そうしなきゃいけないんだ。


 変異種は天月へと、鋭い爪の生えた手を伸ばしていた。

 時間が無い。


 一ノ宮博士が解除コードを口にした。

 僕はそれにそって、スイッチを順番に押す。


「ありがとうございます」

 僕は礼を言った。一ノ宮博士の返事は聞こえない。

 

 解除コードを入力し終えた。

 程なくして腕輪から電子音が聞こえてくる。

《解除コード認証。ヴァリアント・システム起動》

「死なないでくれよ」

 一ノ宮博士が言った。それは僕を心配してくれているからなのだろうか。

 僕がヴァリアント・システムを使えるからなのだろうか。

 それともただ、変異種に腕輪を破壊されたくないからなのだろうか。


 まあ、いいさ。そんなことはどうでも。


 僕は天月を助けたい。

 守りたいんだ。この手で。

 僕に力があるというのなら、僕はその力で天月を助けたいんだ。

 見殺しになんてするもんか。助かる命なんだ。絶対に、諦めてたまるか。


 不思議な感覚が僕を包み込む。

 ずっと前から、産まれる前から知っていたような、そんな感覚。

 

 ああ、そうだ。

 今、僕には力がある。だから僕はやるんだ。

 守りたいものを全部、守って見せるさ。このヒーローの力で!


 僕の身体が光に包まれる。

 黒い装甲と白いラインを持つそれに、身体が変わっていく。


 本音を言えば怖くて恐ろしくてたまらない。今すぐ逃げ出したくてたまらない。

 それでも、僕は守るんだ。守りたいんだ。

 死なせるもんか。絶対にそんなこと、させるもんか。


 光が次第に薄くなる。

 そして僕は、ヒーローへと変身していた。


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