衝動 7
僕は腕輪を掴んだ。そして、それを右手にはめる。
すると、腕輪は自動的に太さを調節し、僕の腕にフィットする太さになった。
素朴な疑問が生まれる。どうしてあの変異種はこれを外すことができたんだ?
天月がはめていたときも、きっと腕にフィットしていたはずなのに。
腕輪にはいくつかのスイッチがある。天月がヴァリアント・システムを起動するときに押していたやつだ。
「解除コードってやつ、教えてください」
呟いたその声を、一ノ宮博士は聞いている。確証はないが、そんな気がした。
解除の時に腕輪を操作していたことは覚えているが、どのように操作していたのかまではわからない。
でも一ノ宮博士ならそれを知っているはずだ。
「……止めた方がいい。まだ君用に最適化されているわけではないし、起動実験も済ませてない。今はとにかく生き延びる事を一番に考えるんだ」
やはり、一ノ宮博士は僕にヴァリアント・システムを使用させたかったんだ。だから僕を嘘の口実で呼び寄せた。
でも今は都合が悪いらしい。だから僕に逃げろと言っている。天月を見捨てて生き延びろ、と。
冗談じゃない。
僕の手には力がある。二人とも生き延びる可能性があるんだ。
それなのに僕だけ逃げるなんて、駄目だ。
「どうでもいいですよ。そんなの。それに、あいつを倒せれば、一ノ宮博士だって都合がいいんでしょう?」
見栄だ。どうだっていいわけが無い。
本当は無茶苦茶に怖い。あの化け物と闘うなんて、恐ろしくてしょうがない。
でもやらなきゃ、天月が死ぬ。
そんなの嫌だ、と思う僕がいる。
だったらやるんだ。そうしなきゃいけないんだ。
変異種は天月へと、鋭い爪の生えた手を伸ばしていた。
時間が無い。
一ノ宮博士が解除コードを口にした。
僕はそれにそって、スイッチを順番に押す。
「ありがとうございます」
僕は礼を言った。一ノ宮博士の返事は聞こえない。
解除コードを入力し終えた。
程なくして腕輪から電子音が聞こえてくる。
《解除コード認証。ヴァリアント・システム起動》
「死なないでくれよ」
一ノ宮博士が言った。それは僕を心配してくれているからなのだろうか。
僕がヴァリアント・システムを使えるからなのだろうか。
それともただ、変異種に腕輪を破壊されたくないからなのだろうか。
まあ、いいさ。そんなことはどうでも。
僕は天月を助けたい。
守りたいんだ。この手で。
僕に力があるというのなら、僕はその力で天月を助けたいんだ。
見殺しになんてするもんか。助かる命なんだ。絶対に、諦めてたまるか。
不思議な感覚が僕を包み込む。
ずっと前から、産まれる前から知っていたような、そんな感覚。
ああ、そうだ。
今、僕には力がある。だから僕はやるんだ。
守りたいものを全部、守って見せるさ。このヒーローの力で!
僕の身体が光に包まれる。
黒い装甲と白いラインを持つそれに、身体が変わっていく。
本音を言えば怖くて恐ろしくてたまらない。今すぐ逃げ出したくてたまらない。
それでも、僕は守るんだ。守りたいんだ。
死なせるもんか。絶対にそんなこと、させるもんか。
光が次第に薄くなる。
そして僕は、ヒーローへと変身していた。