表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
47/97

衝動 6

 

「何をするんだ。止めろ。そんなことに意味は無い」

 そうかもしれない。この行動は客観的に見れば無意味だ。生身の人間が化け物に敵うわけがない。

 でも僕自身に意味はある。天月を見殺しにするなんて、できないんだ。

 

 弾は変異種から僅かに逸れる。撃てば撃つほど、変異種から離れた所へ飛んでいく。

 手が震えていた。足も同じだ。心臓の鼓動が早くなり、嫌な汗が吹き出てくる。


 恐怖の感情が無いと言ったら嘘になる。物語のようにカッコよくいられない。

 でも、最低の生き方を選ぶなんて嫌だ。

 誰かを見捨てて生き延びたとして、そんな僕は嫌なんだ。


 変異種が僕へとゆっくりと歩み寄ってくる。

 静かに、ゆっくりと、だが確実に。


 怖い。


 僕は怯えている。足は鋤くんで動かない。手は震えてまともに照準を合わせられない。

 でも、何かが僕の背中を後押しする。

 それが何かはわからない。けれど心の奥底から沸き上がるそれは、確かに僕を鼓舞し、僕を奮い立たせていた。


 変異種が少しずつ天月から離れていく。

 それでいい。そのまま、僕に向かってきてくれ。

 

 右手の人差し指に力を入れる。相変わらず手は震えていた。

 それでも僕は何度も銃を撃つ。天月には当たらないように、ぶれる照準で変異種を狙う。

 少しずつ接近してくる変異種と一定の距離を保つように、僕は後ろへとゆっくり下がる。銃の反動を感じながら、僕は下がっていく。


 それが少しの間続き、次の一瞬。

 いきなり、前触れもなく、唐突に変異種が吼えた。そして、強く地面を蹴り、僕へと一気に迫ってくる。

 僕はそれに反応して銃を撃つ。だがその弾が吐き出されるよりも早く、変異種の蹴りが僕の腹部へ衝撃を与えた。


 痛いなんてもんじゃない。身体が腹から裂けるかと思うほどだ。

 僕の身体は宙を舞い、そして重力によって道路へと叩きつけられる。

 そして数秒後、変異種は僕の身体を持ち上げると、電柱へと投げつけた。

 再び衝撃が僕を襲う。痛さを通り越した痛みのせいで、呻き声すら出ない。


 僕の身体が地面へ倒れこむ。背中も腹も、何かをなくしたような感覚があった。

 そこにあるはずのものがない。そんな感覚。

 痛みのせいで、痛覚や触覚が鈍くなっているのか。


 変異種は地面に蹲る僕を見ると、敵に値しないとみなしたのか、背を向けた。

 天月の方へと向かう。


 やめろ。


 僕は右手の銃を変異種に向けようとする。

 けど、僕の右手にそれはなかった。僕の三メートルほど先に、転がり落ちている。

 

 僕は身体を這い、銃を手に取った。銃口を目標へ向け、そして引き金に力を入れる。

 だが、弾は出てこなかった。壊れたのかもしれない。


 僕がそんな事をしている間に、変異種は天月の元へとたどり着いていた。

 天月を殺す気だ。息の根を奪う気だ。


 心臓の鼓動がさらに早く、強くなる。嫌な感覚が僕の全身を駆け抜ける。

 自分の弱さが憎い。守りたい時に守ることができない。

 わずかばかりの抵抗をして、ただ惨めに地面を這い蹲るしかない。 


 このままじゃダメだ。どうしたらいい。

 どうしたら、どうしたら、どうしたら!


 その時だった。僕の目にそれが映ったのは。

「あれは……」

 僕が見つけたのは腕輪だった。

 天月がしていた腕輪。ヴァリアント・システムと呼ばれる腕輪。エニティレイターという力を得るための腕輪。


 仮想空間に転送される前、一ノ宮博士と天月が言い争っていた言葉が思い起こされる。


「彼にヴァリアント・システムを使用させる気なのですか?」

 天月は確かにそう言っていた。


「後任が必要なんじゃないのか?」

 つまり、新しいヴァリアント・システムの使用者。


「彼の適正は完璧だ」

 適正がある。一ノ宮博士は確かにそう言った。


「一ノ宮博士はあなたをエニティレイターにするつもりよ」

 そして、僕をエニティレイターにするつもりだった。


 だったら、今、僕がこれを使えば。

 僕がエニティレイターへと変わる事ができれば。

 あいつを倒して、天月を救えるかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ