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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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衝動 5

   

 もう天月は闘えない。だから現実の世界で増援を呼び、迎え撃つ。

 それはわかる。時間が必要だから、仮想空間に変異種を閉じ込めておきたいというのもわかる。

 でも、それは。


「天月を見捨てるってことですか?」

 僕に逃げろと言ったということは、多分、僕や天月を元の世界に戻せないと言う事なんじゃないか。

 事情はわからない。ただ技術的に無理なのかもしれない。

 天月は覚醒因子とか言うもののせいで苦しんでる。狼の変異種に抵抗する力も残されていない。

 それなのに、こんな状況を維持していたら、天月は――。


「仕方がないんだ。今、天月と変異種はかなり接近しているから、転送の際に不具合を生じかねない。天月と変異種の身体が混ざりあって、滅茶苦茶になってしまうかもしれない。君一人を転送するのだって長時間、仮想空間を維持する事を考えると、どうしてもできないんだ。転送と仮想空間の維持には、莫大な量の電力を必要とするから」


 天月の身体がエニティレイターから元の人間の姿へと戻る。

 その顔は苦痛に歪んでいた。それでも首に回されている手を振り解こうともがく。

 だがその手は緩まない。手が離される様子も無い。


「さあ、早く。彼女が時間を稼いでるうちに」


 時間を稼ぐ。「見捨てる」ではなく、一ノ宮博士はそう言った。

 言葉は勝手だ。それだけを聞いていれば、正しいように思えてしまう。

 そんな事は絶対にないのに。

 

 目の前では天月が苦しんでいる。

 僕はそれを前にしてただ見ているだけ。

 さらには天月を犠牲にして逃げる。


 そんな行為が至極当然のように感じられてしまう。

 そんな事、あっていいはずが無いのに。


 変異種が天月の右手から腕輪を取った。

 ヴァリアント・システムと呼ばれるそれが無くなれば、天月はエニティレイターへとなれなくなってしまう。狼の変異種はそれをわかっているのかもしれない。

 

 狼の変異種はほんの少しの間、腕輪を手に取りを眺め、道路へと放り投げた。

 腕輪が黒い地面に転がる。


 天月の手には何も無い。ヴァリアント・システムによる変身が解けてしまった際に、銃も超振動ナイフも消えてしまっていた。

 だが、もしあったとしても、それを使うための力はもう残されていない。

 

 このままだと、天月が、死ぬ。

 そう考えた途端、どくん、と心臓が強く鼓動する。

 僕は「嫌だ」と、呟いていた。

 何か具体的な理由が頭に浮かんだわけじゃない。

 けれど僕は、どうしても天月が死ぬのが嫌だったんだ。


 だから僕はポケットから銃を取り出した。グリップを握り、引き金に指を置く。

 さっき手に取った時は玩具のように感じしかしなかったのに、今は本物のそれを握っているという感覚があった。

 

「何をしているんだ。早く逃げろ」

 僕はそれに対し、安全装置を外しながら答える。

「嫌です」

 理由は後からこみ上げてくる。

 僕の無謀な感情と行動に、思考が追いついてくる。

 

 僕はヒーローに憧れていた。

 目の前に本物のヒーローが現れたときは、本当に嬉しかったんだ。

 誰かの為に闘っているヒーローを、身を削って闘う天月を、僕は本当にすごい、と思ったんだ。


 だから、死なせたくない。

 だから、引き金を引く。

 だから、僕は。


 ブロック塀の影から僕は飛び出し、走った。

 変異種に接近し、二十メートルくらい手前の距離で止まる。


 人差し指に力を込めた。

 銃声と共に弾が吐き出され、その反動が僕の手に伝わる。

 弾丸は変異種の肩を掠めた。


 変異種は僕に気がついたようだ。

 僕へと視線を向け、そして天月の首から手を離した。

 天月の身体が地面に落ちる。全ての力を失っていた彼女は、地面に引き込まれるように倒れた。


「こっちだ!」

 僕は再び銃を撃つ。

 反動が重く、辛い。

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