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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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衝動 3

 天月が腰のホルスターから銃を取り出した。細かく背中と足裏のバーニアの勢いを調整して身体を安定させ、銃口を兎の変異種へと向ける。

 変異種はそれを察知してか、それまでのように長い距離を跳ねるのを止めた。代わりに細かく鋭く、左右に身体を振りながら跳ね始める。

 何度も方向転換をすることで狙いを定まらせないようにしているのだろう。

 

 変異種が屋根を蹴り、跳ねる度、何かの欠片が飛び散る。

 あれは多分、瓦だ。コンクリートの破片もある。

 それを粉砕するくらいの脚力があの兎の変異種には有るってことだ。


「なるべく変異種には見つからないようにしてくれよ。エニティレイターと同じ銃を持っているが、君の身体はただの人だ。襲われたらひとたまりも無い」

 一ノ宮博士が忠告してくる。

 確かに、今みたいに十字路のど真ん中で突っ立ってたら、簡単に変異種に見つかってしまう。

 

 僕はブロック塀の影に隠れた。

 自転車をそこに立て掛け、また天月と変異種の闘いを食い入るように見る。


 何発もの銃声が響いていた。

 だがそれは全て民家の屋根やその辺の電柱へと着弾している。

 時たま、全くの的はずれな所に弾丸が飛んでいき、アスファルトの地面に着弾している。


 変異種が左右に身体を振りながら逃げているとは言え、ここまで当たらないものなのだろうか。

 昨日、天月は瓦礫の下から変異種の足を正確に狙い射った。その天月が、まだ一発も変異種に弾痕を付けていない。

 調子が悪いのだろうか。それとも敵が素早いのだろうか。


 銃声が止んだ。多分、弾丸を命中させることは難しいと判断したんだろう。

 腕に収納されていたナイフを手に取った。もう一方の手には銃を握ったままだった。隙があれば、再び引き金を引くつもりなんだろう。

 

 天月がバーニアを吹かした。銃口を定まらせる必要がなくなり、身体のブレを気にせずに一気に加速する。

 だが、それでも両者の速度の差はそこまでない。

 気のせいかもしれないが、天月の速さはさっきよりも若干落ちている気がする。やっぱり、調子が悪いのかもしれない。

 けど、変異種と天月の距離は目に見えてわかるほど縮まっていた。

 

 変異種は屋根の上から飛び降り、路地へと着地した。

 そしてアスファルトとブロック塀を不規則に跳ねる。

 天月もそれに続いた。かなりの速さで路地を跳び跳ねる変異種との差を、みるみるうちに詰めていく。

 兎の変異種が路地を曲がってもそのせいで差が開くようなことはない。

 一体、何で。


 変異種は速い。銃で撃たれないために余計な動きをしているって言うのにそれを追う天月と対して変わらない。むしろ、天月の方が遅いくらいだ。

 なのに、天月は差を縮めていく。普通に考えたらありえない早さで。

 方向転換にも振り回される事なく――。


「あ、そうか」

 そこまで考えて僕は気がついた。


 天月は変異種の動きを予測しているんだ。

 変異種の次の動きが判るから、最短距離で動く事ができる。

 最短距離で無駄なロスなく追っているから、同じくらいの速さでも距離が縮まっていく。


 すごい。

 経験という奴なんだろうか。僕には絶対にあんな事はできない。

 

 二人の間の距離が殆ど無くなる。手を伸ばせばお互いに届くほどの距離。

 天月が手に持つナイフが振動を始めた。

 超振動ナイフ。何かで聞いたことがある。

 確か、超振動によって対象との摩擦を減らし、切れ味を極端に上げる事ができるナイフだ。


 天月がそれを振りかざした。吸い寄せられるように変異種の背中へとそれが向かっていく。

 だが。


 ナイフの刃が突き立てられようとしたその時、天月の身体が横へと吹っ飛ばされた。

 蹴り飛ばされたのだ。

 突然現れた、もう一体の変異種によって。

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