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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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衝動 2

 

 

 


 僕達は喫茶店の前にいた。

 一ノ宮博士の元へと行く途中に通った場所だ。

 近くにはファミレスもある。もう少し先にいけば高級住宅街が見えてくる。


「今回の変異種は二体だ。その内の一体がかなりの速度で移動している。もう一体は反応がない。人間の姿に戻った可能性がある」

 一ノ宮博士の声だ。それは誰もいないはずの空間から聞こえてくる。

 五次元的に近いからこそできる芸当、だったっけ。


 一ノ宮博士の話では、どうやら変異種というのはレーダーか何かで居場所が特定できるみたいだ。

 変異している状態、つまり人の姿じゃない時は特別な何かを発しているのだろうか。


「とりあえず、今は移動している変異種を追ってくれ」

「了解」

 天月は右手首のに腕輪を操作する。

 ヴァリアント・システム。変異種と闘う、エニティレイターへと姿を変えるための腕輪。


《解除コード認証。ヴァリアント・システム起動》

 腕輪から電子音が聞こえてくる。同時に、天月の身体が別のものへと変わっていく。

 黒の装甲。白のライン。背中にはバーニアがあり、太股には二丁の拳銃を内臓している。両手首には超振動で敵を切り裂くナイフも収納してある。

 天月は瞬く間に漆黒のヒーローへと姿を変えた。

 ヒーロー、つまりエニティレイターの目が光った。薄暗い街にモーター音が響く。


「貴方は、私が守るから」

 そして、天月は背中のバーニアを吹かして飛んだ。

 目標へ向かって一直線に進んでいく。すさまじい加速だ。

 

 守るから、と言われてしまった。

 彼女はヒーローなんだから合っている言えば合っている台詞なんだろうけど、僕も一応男だ。

 男として、女の子に守ると言われるのは、ちょっと情けない気分になる。


「さあ、君も行くんだ」

 一ノ宮博士は当たり前のように言ってくる。

 けれどそんな事を言ったって、人間にはあれに追いつくだけの脚力は無い。もちろん、僕にだって。


「その辺に自転車があるだろう。それを使えばいいじゃないか。そっちの次元の物は誰のものでもないんだから」

「それもそうですね」

 僕は適当な家の庭から一台の倒れている自転車を見つけた。

 都合よく、チェーンも鍵も掛かっていなかった。スタンドが立っていない所を見ると、乗っている途中の物だったのだろうか。

 それにしても、本当に仮想空間というのは生き物以外の全てを忠実に再現しているものらしい。

 こんな技術、僕は見たことも無ければ聞いたこともない。こんなにすごいのに。


「仮想空間とかヴァリアント・システムとか、どうやって造ったんですか?」

 僕は自転車を起こしながら尋ねた。

「とあるお偉いさんがね、家族を変異種に殺されたんだ。変異種が憎くてしょうがなかったんだろうね。その復讐の為に僕ら、つまり対変異種実働部隊を秘密裏に設立した。世界最高峰の頭脳を集めた研究施設まで立ち上げた。一般人に変異種を知られずに対抗する術を手に入れるために。そこでヴァリアント・システムも仮想空間も造られたんだ。ちなみに、費用は全て税金から出てる」

「そ、そうなんですか」 

 なんかこう、嫌な一面を聞いてしまった。

 

 確かにヴァリアント・システムを開発したり仮想空間を作り出すにはかなりの費用が掛かるだろう。

 けど、それが全部父さん達が必死で働いた税金で賄われているなんて、必要な事なんだとわかっていても、いい感じはしない。

 

 僕は自転車にまたがり、天月の飛んでいった方向へ向かって漕ぎ出した。

 周囲には誰もいない。道には買い物袋だったり鞄だったり、そういった物がいくつも捨てたれたようにあった。

 

「一ノ宮博士も研究、やったんですか?」

 博士と言うのだから、それくらいは当たり前のようにやっているんだろうか。

「僕も一応、開発には携わってたどね。ある科学者によって理論はすでに出来上がっていたんだ。その人は僕の尊敬している人物でもある」

 意外だった。

 一ノ宮博士にも、尊敬している人っているんだ。

 口には出さなかったけど、僕は内心でかなり驚いていた。

 

「その人はある日忽然と姿を消してしまって、ヴァリアントシステムと仮想空間の基本構成のメモと膨大な研究データが残った。僕らのやっている事はその人の後追いに過ぎない。だから正確には、僕は研究をやったとは言えない」

 多分、謙遜と言う奴だ。一ノ宮博士がそんな事を言うとは、これまた意外だった。

 科学者としてのプライドみたいなのがあるんだろうか。


 僕は自転車を漕ぐ。

 天月が向かった方向の大体の場所はわかる。伊達に長年この街で生きてきたわけじゃない。

 しばらく訪れていない場所だってどうやって行けばいいかわかるし、近道だって知っている。


 黒のヒーローの姿が見えた。目が発光している。薄暗い空でそれは目立っていた。

 追われているのは兎の様な変異種だった。子供用アニメに出てくるような、二足歩行をしている兎。

 兎は住宅の屋根を飛び跳ね、移動している。別の言い方をすれば、逃げている。それはかなり速くて、エニティレイターが加速してもその差は僅かしか縮まらない。


 

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