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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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衝動 1

「検査、昨日で終わったんじゃなかったんですか?」

 僕は素朴な疑問を口にする。

 血液と数本の髪の毛で解析は終わった、というようなことを昨日一ノ宮博士は言っていた。

「ああ、それ。嘘だよ。検査はもう必要ない」

「嘘?」

 何でまた、そんな嘘を。

「一ノ宮博士」

 天月が言った。

「彼にヴァリアント・システムを使用させる気なのですか?」

  僕は天月が何故そんな事を言い出したのかわからなかった。

 ヴァリアント・システムと言うのは、あのヒーローの姿へと変身するための腕輪をさしているんだと思う。

 そして多分、一般人というのは僕だ。

「さすが、頭の回転が速い。まあ、昨日も言っていた事なんだがね」

 一ノ宮博士は不快そうだ。天月に言われた事が、そこまで彼の気分を害したんだろうか。

「君の身体はもう限界だろう。隠してもわかる。その身体は確実に人ではなくなっている。因子が君という情報を書き換えている。後任が必要なんじゃないのか?君がヴァリアント・システムを使用できなくなってからでは、遅いんだよ」

「ですが、彼を巻き込むわけにはいきません。彼まで人でなくなってしまう」

「ならばどうすればいい。ヴァリアント・システムを使用できるかどうかは先天的に決まっている。一種の才能だ。不完全な適正者でさえ、発見できる確立は低い。だが、彼の適正は完璧だ。彼にヴァリアント・システムを使ってもらう以外、他にどんな選択肢があるというんだ?」

「だからと言って、彼が因子に侵食されるのを私は容認できません」

 限界、後任、才能、因子、侵食。

 何を言っているのだろう。僕にはわからなかった。

 二人は僕の知らないことを知っていて、僕の知らないそれで、僕の何かを決めようとしている。

 彼らの言う事が理解できるようになれば、僕も仲間に入れるのだろうか。

 一ノ宮博士にメールで呼び出されて、僕は内心、喜んでいた。天月が居たからあまり表情には出さないようにしたけど、嬉しかった。

 天月は僕をあまり変異種と関わらせたくないみたいだ。

 きっと天月は、僕が危険な目に合わないように、気を使ってくれている。

 特に親しくも無い僕を心配してくれている。

 でも僕はこの真実をもっと知りたい。もっと関わりたい。僕の知らなかった非日常を体験したくてたまらない。

 天月には本当に悪いと思う。 

 けれど、僕は憧れていたんだ。ずっと、ヒーローに。そんなものは存在しないと諦めて、それでも諦めきれなくて、中途半端な思いをずっと抱いていた。

 けど、ヒーローはいた。正義の味方は存在した。僕の目の前に確かにそれはいたんだ。


 だから、と僕は思う。

 僕はその力になりたい。何でもいいから協力したい。

 それが結果として迷惑にしかならなかったとしても、僕はこの状況を手放したくなかった。


「あの」

 そう、それが例えどんなことでも。

 僕はその力になれるのなら、どんな事だってやってみせる。

「僕、やります」


 二人が何のことを言っているのか、正直僕にはわかっていない。

 けれどなんとなく、僕に何かをさせたいのだという事はわかる。

 それをすれば、きっと僕はこの状況をもっと知ることができる。

 根拠も無いのに確信があった。


「待って、久坂君」

「よじ、じゃあ決まりだ」

 二人がそう言った直後、一ノ宮博士の携帯電話が鳴った。

 

「失礼」

 携帯電話を胸ポケットから取り出し、一ノ宮博士はそれを開いた。

 たどたどしい指使いで携帯電話のボタンを操作する。


「何?」

 メールの文面を読んでいる内に、一ノ宮博士の眉間にシワが寄る。

 携帯で時間を確認し、さらに不快感を強めた。

「早過ぎる」

 小さく呟いたその声は、十分すぎるほどに苛立ちが篭っていた。

 一体何があったのだろうか。


 一ノ宮博士は「まあいい」と吐き捨てると、白衣から注射器を取り出し、それを天月に投げた。

 注射器の中には黒い液体が入っていた。天月はそれを受け取る。その動作に違和感は無かった。それがなんなのか、天月にはわかっているのだろう。

「変異種が出た。今すぐに君達を転送する」

 君たち、ということは、僕もなのだろう。

 天月は少し困ったように言葉を詰まらせたが、「了解」と言い、キャンピングカーの外へと出る。


「ああ、そうだ。君にはこれを渡しておこう」

 天月の後を追って外へと出ようとした僕に、一ノ宮博士が何かを渡してきた。


 それは黒い色で重量感がある。

 それは天月が、黒いヒーローが使った、あの拳銃と同じものだった。


「えっと、これは」

「護身用だよ。反動が通常の物よりかなり軽減されているから、君でも問題なく扱える」

 僕はそれのグリップを握った。引き金に指を当ててみる。

 初めて握った拳銃は全く現実味が無くて、まるで玩具のようだった。


「安全装置が付いたままだから、使う時は外すように」

 一ノ宮博士はそう言って運転席の方へ、つまり黒いカーテンの向こう側へと姿を消した。


 一人取り残された僕は外へと出る。

 まだ空はオレンジと青の入り混じった空をしているというのに、川原は高級住宅街の陰に隠れていて、薄暗かった。

 その薄暗い中、天月が先程受け取った注射器の針を自らの腕に刺していた。

 ピストンを押し、黒い液体を体内に注入している。


「天月さん、それ、何なの?」

 僕は気になって、つい聞いてしまった。


「私の身体を人に留めるための薬」

「え?」

 身体を人に留めるための薬?

 訳がわからなかった。天月は本当は人ではない、とでも言うつもりなのだろうか。


「ヴァリアント・システムを使用し続けると、その身体は少しずつ覚醒因子に侵食されていく。その症状を抑えるための、薬」

「覚醒因子?」

「『進化の系譜』を呼び覚ます因子の事」

「それって、変異種と同じものを持っているって事?」

「ヴァリアント・システムで影響を受けるのは、この腕輪に内蔵されているエニティレイターの因子だけだから、一概にそうだとは言えないけれど」

 

 つまり、天月の身体はエニティレイターのそれと混ざりかけている、ということなのか。

 あの黒い液体は、その症状を緩和させる為の薬、ということなのか。

 

「一ノ宮博士はあなたをエニティレイターにするつもりよ」

 その言葉に僕の鼓動は少し強くなった。

 エニティレイターとは、あの黒い装甲をしたヒーローの事だ。

 僕をそれにする?どうしてだ。


「けれど、私はそんな事はさせたくない。私は貴方には貴方のままでいてもらいたい」

 天月は僕をじっと見つめ、淡々とそれを伝えてくる。

「だから、貴方は闘わないで。こんな、間違った正義なんて選ばないで」


「間違った正義?」

 僕らの身体は白い光に包まれて、それがどういう意味なのか、聞くことはできなかった。

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