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ヒーロー  作者: 山都
第三章 日常と非日常
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下校 2

 

 僕らは田上君に別れを告げ、校門を離れた。

「それで、本当に遠藤はこっちから帰るの?」

「ああ。だから言ったろ。俺はアキラと一緒に帰らなきゃならないんだって」

 

 天月は僕達を置いていくように先を歩く。歩みを合わせるといった思考は無いみたいだ。

 そっちの方が気が楽だけど。

 昨日もそうだったけれど、天月と一緒にいると視線が気になってしょうがない。

 今だって、天月は通行人の視線を集めている。

 

「待ってくれよ、天月」

 遠藤はそんな事を気にする様子は無く、天月と一緒に歩きはじめる。

 なにやら色々語りかけているみたいだが、天月はそっけない返事を返すだけだ。

 というか、遠藤は内藤君と一緒に帰るためにこっちに来たんじゃないのか。


「天月先輩って、なんか不思議ですね」

 小さめの声で内藤君が僕に言う。

「うん。そうだね。たしかに不思議だ」

 学校ではクールな美人転校生で通っているヒーローが特撮好きなんて、不思議でしかない。


「先輩たちは、付き合ってるんですか?」

「は?」

 何を言い出すんだ。この子は。

「いや、なんか遠藤先輩達の言ってる事を聞いてたら、そうなのかなって」


 確かに、DVDを観ている途中でも遠藤と田上君は執拗なまでに天月との事を僕に聞いてきた。

 事情を知らない人が聞いていれば、そう勘違いしてもおかしくは無いんじゃないか、という位には。

 天月は意味がよくわかっていなかったみたいだけど。


「違う違う。そんなことないから」

「そうなんですか?」

「そうだよ。天月さんは昨日転校してきたばかりだよ?」

「あ、そうか」

「そうじゃなくても、物凄くモテてる彼女と、僕なんかが付き合えるわけ無いだろ。」

 

 田上君しかり、その他ギャラリーしかり。

 天月は大人気だ。

 もし僕みたいな奴が天月と付き合いでもしたら、その日以内に報復を受けるんじゃないだろうか。

 その前に、付き合えるわけが無いんだけど。


「そういう物なんですか?」

「うん。そういう物なんだよ。アレは全部、遠藤の妄言だから。あいつ、中二の時に頭を強く打ったせいで、かなり強烈な妄想癖がついちゃったんだよ」


「おい。そんな出鱈目(でたらめ)を吹き込むなよ。中学生ってのは、何色にも簡単に染まっちまうんだから。聞かす言葉には責任を持たないとな」

 いつの間にか、遠藤は僕らの所まで戻ってきていた。

「出鱈目って、大体あってるじゃないか」


 中学二年生の時に頭が打った事が本当の原因かわからないが、遠藤が今のように騒がしくなったのは、確かその頃からだった。

 あの頃、遠藤は好きな子に振られたんだっけ。あれはもう少し前の話だったっけ。

 昔の事だからあまり詳しくは覚えていない。


 それまでは、たまに変な事を言うけれど基本的にはいい奴だったのに、今ではたまにいい奴で基本的には変な事を言っている奴になってしまった。


「あのな、俺のこれは妄言なんかじゃないんだよ。いや、本当はそうかもしれないけど、俺がひたすら喋っているのには理由があるんだよ。それはもう、涙無しに聞かずにはいられないほどの、物凄い理由がな」

 それこそ出鱈目じゃないか。

 一応、聞いておくか。


「じゃあ、その物凄い理由ってのを教えてくれよ」

「うーん、今はまだ言えないな。そのうち、教えてやるよ」

 やっぱり、出鱈目だった。


 僕らは他愛の無い話をしながら歩く。

 天月はそれに興味を示すような様子は無く、さらに僕らと天月の間の間隔はさらに広がっていた。


「それじゃあ、僕はここで」

 喫茶店の近くにある横断歩道の前で、内藤君が言った。

「今日は楽しかったです。皆、優しかったし」

 やっぱり、最初の頃に声が小さかったり俯いていたりしたのは、僕らを警戒してたからみたいだ。

 

「よければ明日も来てよ。多分、僕と遠藤は明日も部室にいるからさ」

 天月はどうかわからない。きっと、天月が来なかったら田上君も来ないだろう。


「はい。それじゃあ、さようなら」

「また明日だな。明日も学校で会おうぜ。絶対だ。約束だからな」

 内藤君と一緒に、遠藤まで僕にそんな事を言ってきた。


「なんだよ、鳩が豆鉄砲食らったような顔しやがって。今時流行らないぜ」

「いや、本当に内藤君と帰るためにこっちに来てたのかな、って思って」

「そうだよ。何度も言ったじゃないか。まあ、いいや。その辺はどうだっていいんだ。お前もホラ、早く行けよ。大好きな天月さんが先に言っちまうぞ」


 天月は僕らを気にすることなく、先に進んでいた。

 規則正しく、決まったとおりの歩幅とテンポで歩いていく。


「じゃあな、英志。行こうぜ、アキラ」

 二人は横断歩道を渡って、路地の中へと入っていった。


 僕はそれを確かめて、小走りで天月を追いかけた。

 別に、離れたままでもよかったんだけど、天月に対する視線が気になってしょうがないんだけど、でもそれは天月を避けているみたいで、よくない事だと思った。 

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