部室 3
まず第一に、僕には目の前の転校生がヒーロー物が好きそうには全く思えない。
それはただの思い込みなんだろうけど、思えないものは思えないだからしょうがない。
第二に、天月は本物のヒーローなんだ。
そのヒーローがヒーロー物のDVDを真剣に観ている姿は、何かの冗談にしか思えなかった。
「アキラ、普通に天月葵と話してるな。意外と大物なのかもしれない」
真面目な顔でそう呟いたのは遠藤だ。
「大物って、どういうことさ」
「普通、天月みたいな美人の先輩がいたら多少は緊張したりするだろ。でも、アキラにそんな素振りは全く無いじゃないか」
言われて見れば確かに。
内藤君には全く緊張している様子は無い。
声の大きさも普通で、ちゃんと聞き取れる。
僕と話していた時はあんなに小さな声だったのに。
「先輩達は観ないんですか?」
内藤君が僕たちに聞いてくる。その声もハッキリと聞こえた。
どうやら、緊張していないのは天月に対してだけではないらしい。
僕らに対しても同じなのだろう。
不思議な子だ。なんでいきなり緊張だとか警戒心だとか、そういうのが無くなったのだろう。
ヒーロー物が好きだから、とかなのだろうか。
DVDを観ているのを目撃して、僕らもそうなのだろうと確信したからなのだろうか。
まあ、どうでもいいか。
「僕も観るよ。遠藤と田上君もさ、一緒に観ようよ」
「嫌だよ。観たいならお前たちだけで見てろよ。俺は田上と二人でババ抜きやってるからよ」
二人でババ抜きなど、全然楽しくない事を何でやりたがるのか。
それは止そうぜ、と言ったのは田上君だ。
「観ないの?貴方達」
天月が言った。
静かな口調で、首を傾げて。なんだかとても、不思議そうに。
「観る。観るよ」
天月の言葉に田上君はすぐさま反応する。
やっぱり、なんか田上君らしくない。
なんでだろう。テンションが上がっているのだろうか。
僕は田上君と、とても仲がいいというわけではない。同じクラスになったことがあって喋ったことがあって、同好会に協力してもっていた。それくらいの関わりしかない。
だから僕が今の田上君の振る舞いに違和感を感じるのは、僕の知らない彼の顔だと言うだけのことかもしれない。
「裏切るのかよ、田上」
「遠藤も一緒に観ようよ。皆で観れば、楽しいって」
「はあ、これだからヒーローマニアはよ……仕方ねえな。いいよ、観てやるよ」
そう言って遠藤もテレビへと視線を移す。
まだDVDは始まったばかりだった。面白くなるのはまだこれからだ。
時計を見た。時刻は午後四時。六時くらいに下校すること考えても、時間まだはたっぷりあった。